6月23日、創立七十五周年記念青年大会が、『世のお役に立つ人にならせてください』のテーマで開催され、長年の歴史と伝統を踏まえて、現代に生きる信仰青年のあり方を問うた。また、記念講演では大山直高日本レスキュー協会理事長が『犬とともに社会に貢献する』という講題で、トルコ地震、台湾大地震などの危険な捜索現場での災害救助犬の活動と今後の課題、さらに高齢化社会におけるセラピードッグの役割の増大など、「犬」を通じた社会奉仕活動の実態について紹介された。本サイトでは、本講演の内容を数回に分けて紹介する。
●協会事業の三本柱
大山直高先生
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皆様、こんにちは。私、ただ今ご紹介をいただきました、日本レスキュー協会の大山直高と申します。本日は、こういうすばらしい場でお話をさせていただく機会頂戴しましたことに、感謝申し上げます。
当方で用意させていただきましたスクリーンがちょっと小さいので、後ろのほうの席の方は見づらいかも知れないのですが、(スクリーンを指して)まず、ここに「レスキュードッグ」と書いてありますね。こちらは「セラピードッグ」そして、「動物の保護と愛護」という3つの写真が出ております。これらが日本レスキュー協会の活動の三本柱です。
ここで、皆様の意識調査をさせていただきたいのですが。「災害救助犬(レスキュードッグ)」は当然ご存知だと思うのですが、ご存知だという方、ちょっと手を挙げていただけますか?(会場を見わたして)はい、ありがとうございます。大半の方がご存知ですね。では、こちらにある「セラピードッグ」という犬の名前を聞いたことがあるという方、手を挙げていただけますか? 救助犬よりもだいぶ少ないですね。それでは、この下にあります「動物の保護と愛護」……。この中に写っている動物の写真なんですが、今現在、日本国内で年間二十九万頭の犬たちが保健所で殺処分されています。その事実をご存知の方、手を挙げていただけますか? お1人、お2人……、3名ですね。私共、日本レスキュー協会は、災害救助犬、セラピードッグ、そして動物の保護と愛護を行う団体でございます。
日本レスキュー協会は、今から7年前、阪神・淡路大震災からスタートいたしました。当時、私自身は豊中市に住んでおりまして、実際に大震災を体験した一人なんですが、阪神間、淡路島を中心に、6,432名の方がお亡くなりになりました。その亡くなった方々のお気持ちを、われわれは後世に残さなきゃいけないということで、このレスキュー協会が誕生した訳です。1995年9月1日に、災害救助犬団体として発足いたしました。
●役に立たなかった? スイスの救助犬
震災の時に、スイスとフランスから災害救助犬がやってきてくれました。私自身も、その時に、初めて救助犬という存在を知った訳なんですが、はるばるヨーロッパからやってきてくれまして、長田区や西宮市などの倒壊建物の捜索をしてくれました。ただし、実は、その当時、災害救助犬は消防機関から信用されなかったんですね。その事実は、ほとんどの方はご存知ありません。われわれにとっては、一躍ヒーロー的な存在だったのですが、同じ救助活動を共にした消防機関にとっては、「役に立たない犬たち」として、非常に悪い印象で受け止められました。
その原因は――ちょっと写真が見づらいかもしれないですが――倒壊建物の中に、食べ物が散乱しています。どこの家でも台所に冷蔵庫がございますよね。それが倒れまして、食べ物が散乱している。災害救助犬がその食べ物に反応したんですね。そして、災害救助犬が瓦礫(がれき)の上から、「ここ掘れワンワン」と吠えますので、救助隊が一生懸命瓦礫をどけて、撤去したところ、人間ではなく、そういった食べ物が出てきた。また、布団とか、人間の匂いの付いた衣類とかが出てきた。結局、あの震災では、要救助者が発見されなかった。ということで、救助犬が信頼をされていなかったということです。
大山直高先生の話に耳を傾ける会員たち
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実はスイスの災害救助犬は、訓練の際、褒美(ほうび)に餌を与える訳ですね。例えば、犬が人を発見すれば、褒美に食べ物を与える。こういった、褒美による訓練を行っていたことが原因とされています。皆さん、「パブロフの犬」というのをご存知ですか? 犬に毎日、メトロノームの音を聞かせてから食べ物を与えていると、そのうちメトロノームの音を聞いただけで、犬が涎(よだ)れを垂らすという。あの有名な条件反射の実験なんですが……。そういった形で、スイスの救助犬は、「瓦礫を見たら、人間がいる。イコール餌がある」と教えられています。ですから、そういった形(餌欲しさ)で一生懸命捜すんですね。そのため、捜索をする前日には餌を与えません。非常にお腹を空かせて捜させます。そういうことは、意欲が旺盛で一生懸命捜してくれるのですが、それ故、こういった誤認反応を繰り返したということが原因でございます。
●日頃からの訓練の仕方が大切
それに、スイスの救助犬チームといいますのは、まったくの民間(個人)ボランティアなんですね。ボランティアですので、やはり訓練が不足している。こういった現状でございます。ですから、そういった(地震を想定した)形での実践訓練の不足(註=スイスの救助犬は、主として雪山での遭難者の捜査をしている)ということも挙げられます。そこで、われわれは、スイスの救助犬の例を教訓にしまして、褒美に餌を与えずにボールを与えていこうということで、ボールを与えています。この写真は、インドの災害(註=昨年1月のグジャラート州の大地震)現場なんですが、犬が2頭いるのですが、この犬に私はボールを見せています。そして、犬の気力を確かめて、そして、この現場で捜索をする前の写真です。ですから、われわれは餌を与えず、ボールを与えています。
それから、先ほど申しましたように、倒壊家屋の中で食べ物に対して反応してしまうことを防ぐためには、やはり、実際に、瓦礫捜索現場に食べ物を埋めて、それに反応させない訓練が必要だと……。そういう実際の経験から――この写真はマグロの缶詰なんですが、こういった缶詰を瓦礫現場の中に埋めまして――誤認反応の阻止をしていこうという訓練も行っています。こういうことで、私共のレスキュー協会の災害救助犬は、日々災害現場を再現した実践訓練を行って、誤認反応の防止を行っています。そして、千回以上の実践訓練を受けた犬を「救助犬」として認定しています。
ご記憶に新しいと思いますが、2001年1月26日に、インドの西部で大地震が起こりました。死者が約2万人出ました。これはそこに出動したときの写真ですが、このようにビルがこういう状況になっている。これは、夜間の写真ですが、夜間でも、こういう形で捜索をしていきます。こういった中で、やはり、日頃からの実践訓練が必要になってくる。そこで、私共は、今から五年前(1997年)に兵庫県三田市で災害救助犬専用のトレーニングセンターを造りました。ここには、神戸の震災で撤去した瓦礫を運び込みまして、この瓦礫の中に土管を埋めまして、その中に隊員が入ります。隊員が入りまして、重機で土管に瓦礫をかけて蓋をして、そこを捜索する。こういった実践捜索訓練を行っています。
●出動の実績と外務省の支援
幸い、日本では、阪神淡路大震災以来、大きな地震が発生しておりません。しかし、土砂災害が非常に多いんですね。今から梅雨本番に入ってきますので、梅雨の豪雨で、土石流災害とか発生した場合の土砂災害にも対応できるように、土砂の捜索訓練も行っています。ということで、この7年間、日本レスキュー協会が派遣した実績地は、平成7年にメキシコ、翌年ペルー、同年、長野県小谷村土石流災害、平成9年には鹿児島、10年には高知県土砂崩れ、11年は非常に多かったですね。6月28日、広島県の土石流災害、8月にはトルコ北西部大地震――今、ワールドカップでトルコが快進撃をしておりますが――トルコの大地震に出動しております。そして、9月には台湾大地震、そしてまたトルコで地震が起こりました。ですから、計4回、平成11年は出動いたしております。昨年はインドと岡山県で砕石工場の現場が崩落いたしまして、その時にも出動しております。
そして、昨年秋の米国の同時多発テロ……。ニューヨークのツイン・タワーが崩壊しましたが、そこにも出動しようとしたのですが、これには、アメリカのFEMA(連邦緊急事態管理庁)というところからストップがかかりまして、行けませんでした。そして、今年は、3月にアフガニスタンの北部の地震に出動いたしました。もちろん、日本からアフガニスタンへの直行便はありませんので、いったん隣国のパキスタンに行きまして、そこでビザを取得して、アフガニスタンに入る予定でしたが、残念ながらアフガニスタンのほうからは緊急ビザが発給してもらえませんでしたので、そのまま帰ってまいりました。
現在、レスキュー協会は、徳島、石川、福井、兵庫、奈良、香川、神戸市消防局、東京消防庁、こういったところと災害救助犬の派遣協定を結んでおります。また、海外での災害派遣のために、「ジャパン・プラットホーム」というNGOの団体が集まる協議機関に加盟しています。外務省、経団連、そして日本のNGOが集まりまして、「ジャパン・プラットホーム」という協議機関が作られました。
先般、鈴木宗男議員の事件がございまして、ピース・ウィング・ジャパンの大西君というのが一躍脚光を浴びたのですが――彼は大阪の出身なんですが――彼が代表として、この「ジャパン・プラットホーム」を主催しております。この「ジャパン・プラットホーム」には、年間5億円の資金が外務省から頂けます。そのほとんどが難民支援の団体でございまして、災害救助を行っている団体は日本レスキュー協会だけなんですね。ですから、五億円の資金の大部分が難民支援に消えまして、災害救助には、ほとんど予算が残っていないというような状況ですけども、こういうところにも加盟しております。
●1回の出動で500万円かかる
救助犬派遣の大きな課題としましては、まず、出動の準備があります。例えば、昨日イランで地震が起こりました。今日の新聞には「500名死亡した」と発表がありました。だのに、なぜ私自身、ここ(青年大会)におりまして、イランに飛んで行かないのかと申しますと、まず、相手国へ入国するための交渉がいるんですね。特に、ビザの要る国は、ビザの発給をお願いしなければならないという相手国との折衝(せっしょう)が行われなければなりません。
それから、航空機を使いますので、航空会社との交渉が発生します。われわれはNGO、ボランティア団体でございますので、十分な資金を持っておりません。まず第1に、航空会社との「まけて下さい」(会場笑い)という交渉から入ります。と言いますのは、今、海外旅行に行くとしても、ディスカウント・チケットがあって、非常に安く行けるのです。ハワイでも、極端に言えば、3万円とか5万円で行けるんですか? 非常に安くなっているんですが、それは、予めツーリストが予約して大量購入したチケットをバラ売りしているのでございまして、例えば、「明日、海外へ行く」となると、そういったディスカウント・チケットは使えません。じゃあ、どうするかというと、正規の運賃で払わなくてはならないんですね。例えば、トルコまでですと、正規の運賃でしたら70数万円かかるんですね。
それから、(人間の)チケット代だけではなくて、航空機に積み込む荷物の料金も払わないといけないですね。この金額が馬鹿にならないんです。われわれが出動しますと、だいたい救助犬を最低3頭連れて行きます。1頭35キロで、3頭で100キロちょっとの重量になります。あと、器材とか食糧とか入れますと、全部で700キロぐらいになるんですね。トルコまででしたら、航空荷物の運賃は1キロあたり4,000円かかっちゃいます。ということは、700キロですから280万円ぐらいはかかっているんですね。これを「なんとかまけて下さい!」ということでお願いする訳ですが、残念ながら、日本の航空会社はなかなかまけてくれません(会場笑い)。海外の航空会社は、緊急事態ということで、第一優先でまけてくれます。この辺が、ちょっと痛し痒しなんですね。われわれは「日本の救助チーム」として飛んでいきますので、できるだけ、日本の航空会社を使いたいんですが、実際にはそういう事情で、海外の航空会社をよく使うということです。
●現地チームとの連携が必要
ですから、まず出動準備に一手間かかり、あとは、現地での受け入れにも問題があります。例えば、救助犬チームが行きまして、犬が生存者を発見しましても、(掘り出して下さる)救助隊がいないと、埋まっている人を救出できません。ですから、現地での受け入れ体制=救助隊との連携が必要となってきます。
次に、これは、一番よく起こる問題なのですけれども、例えば、まだ生きている人とお亡くなりになった方との識別なんですね。海外の救助隊の考え方は――日本も特に、阪神淡路大震災から大きく変りましたけれども――生存者優先です。生存者優先ということは、もう亡くなってしまった方は、放置していくということです。そこで、救助犬の捜索にも、それが活かされてくるんですね。ですから、救助犬が吠えて、「ここを掘り返してほしい」ということをお願いしましても、「それは、生きてるのか、死んでるのか?」ということを必ず聞かれます。
われわれは、救助犬に、亡くなった方に反応させないような、実際に遺体を用いての訓練を行えませんので、どうすればこの辺が判るのかなということを常に勉強してきました。それで、われわれはわれわれなりに、まだ生きている方とお亡くなりになった方の違いを、救助犬の反応から見て取ることができるようになりました。ですから、生体と遺体の反応の見極めということが、大事になってきます。
因みに、救助犬はどういうふうに、生体と遺体との反応を示すかと言いますと、生きてる方の場合は、非常に積極的にワンワンと吠えていきます。しかし、亡くなった方に対しては、消極的に反応を示す。これは、科学的に言いますと、新陳代謝の作用で臭いが発散するらしいですね。ですから、生きている方は、新陳代謝が活発に行われていますので、臭いがどんどんどんどん飛ぶということなんです。で、お亡くなりになられますと、やはり新陳代謝の動きがストップしてしまいますので、臭いが飛びにくくなっていくということです。時間が経てば経つほど、どんどん飛ばなくなるということで、救助犬は臭いの勢いをキャッチしているということでございます。
●せっかく生存者を発見しても
次に大事なことは、この救助犬の体力と気力の維持なんですね。だいたい、土石流災害に出動しますと、ラブラドールの成犬、3、4歳の一番体力のある犬でも、1日でオーバーヒートしてしまいます。と言いますのは、泥の中を掻き分けていきますので、体力を使うということで、1日でオーバーヒートします。瓦礫現場はどうかと言いますと、だいたい、1日に12時間捜索をして、2日で体力がオーバーヒートしてしまう。ですから、救助犬の捜索は「2日間が限界である」ということですね。それを、できるだけ気力と体力を伸ばしていくということもひとつ課題になってきます。
それから、(パワーショベルなどの)重機系の必要性ですね。例えば、国内の災害でしたら、重機械をわれわれもひとつ持っておりますし、それをトラックに積んで行けるんですが、先ほど話しましたように、航空会社は、なかなか貨物の運賃までまけてくれません。まして、何トン何十トンもの大型重機を、まさか飛行機で海外の災害現場に持っていく訳にはいきませんので、これは、現地の重機械に頼るしかないんですね。
そこで、重機械が現場で必要になるんですが、トルコの地震の時に、インドの地震の時に、災害救助犬が反応を示しました。先ほど言いました生体への反応なんですね。「ここに人が埋まっている」ということで、現地の軍隊に報告をしたんですけれども、残念ながら、この重機がなかったということなんですね。だいたいうまくいかないもので、こういう生体を発見した所には、ほとんど重機械がない。言い換えれば、重機械がある所では、生きている方はどんどん救出していくんで、そういった、救助隊が入っていないところが、われわれの持ち場になってくるということです。ですから、自前の重機械が必要であります。
●情操教育への応用の可能性
この3年間で、われわれは、医療チームと協力して効果測定を検証しまして、やっと「ドッグセラピーの定義」までできた訳なんです。これ(画面の表を指して)は、セラピードッグが今まで派遣された施設数の増加を表しています。当初、われわれがスタートした時から比べると、実に千回まで行っております。最近では、各施設から「セラピードッグと一緒に来て欲しい」という要望が非常に増えていっている訳なんです。これは提携訪問先なんですけれども……。
それから、児童養護施設の子供たちのところにもセラピードッグが派遣されている訳なんですが、健常児の子供たちにもこのセラピードッグの効果を試せないかということが、教育委員会のほうからもいろいろ来ております。アメリカで、凶悪犯罪事件を起こした犯人を調べますと、約九割が動物虐待を行った経験があり、挙句の果ては殺人事件まで犯すということです。今、巷(ちまた)は非常に物騒な世の中です。それで、教育委員会としては、こういった「セラピードッグを教育現場に活用できないか?」というふうに考えている訳なんです。ですから、「情操教育プログラムといった形で考えてほしい」ということを言われています。では、ここでビデオをお願いできますか? 今から少しビデオをご覧下さい(註=ここで日本レスキュー協会の活動を紹介するビデオが上映された)。
●救助活動の総括
この震災(阪神淡路大震災)を機に、私たち日本レスキュー協会は、レスキュードッグの育成を目的に、平成7年(1995年)9月、民間のレスキュー機関として発足しました。これまで国内外11回、被災地へレスキュードッグを派遣し、生存者の発見に力を注いできました。レスキュードッグとは、犬の特性を活かし、地震や土砂崩れなどで建物や土砂の下敷きになった人を優れた嗅覚で捜し当てるために、特別に訓練された犬のことです。日本レスキュー協会では、瓦礫捜索や土砂捜索など、すべてにおいて、実際の災害現場を忠実に再現した本番さながらの訓練を行っています。
日本国内では、日本レスキュー協会のレスキュードッグだけがこれらの訓練を行っています。@障害物訓練=日頃から、階段・スロープ・シーソーなどの障害物を使い、不安定な場所に慣れ、恐怖心を取り除く訓練です。A遠隔操作訓練=離れた場所から指示に従わせる高度な服従訓練。広い範囲の捜索において必要になります。B瓦礫捜索訓練=実際に倒壊したビルなどを想定し、現場と同じ状況での捜索訓練を行っております。「サーチ!」の号令とともに捜索を開始、足場の悪い中を嗅覚を頼りに捜索します。たとえ一頭の犬が発見したとしても、アンドラー(調教師)はもう一頭、また一頭と何頭もの救助犬を捜索に出していきます。決して誤認反応がないようにしているのです。その他、土砂災害捜索訓練、水難捜索訓練、雪崩捜索訓練、ホイスト訓練なども行っています。
また、日本レスキュー協会は、緊急時の国際救助・救援に迅速に対応できるよう、外務省・他のNGO・経済界・メディアとの社会的な枠組みである「ジャパン・プラットホーム」にも参加し、活動しています。
●セラピードッグの訓練実態
阪神淡路大震災が発生した年のクリスマスに、震災で両親を亡くした子供たちのクリスマス会に招かれました。犬を見た子供たちは、周囲の人たちが驚くほどの笑顔を浮かべ、犬たちを囲み、大はしゃぎしていました。この時、人と人では得られないドッグセラピーの可能性を見出したのです。セラピードッグとは、触れ合いと交流を通じて、病気やケガ、または精神的な痛手を受けた人の不安を減らし、気力を高め、心と体を癒す働きをする特別な訓練を受けた犬たちのことです。
日本レスキュー協会のセラピードッグへの取り組みは、心のケアを目的とした犬との触れ合いだけに留まらず、大学教授の研究者チームや医療従事者と提携して、リハビリ検証を行うと同時に、効果の検証法となっています。また、日本レスキュー協会のセラピードッグのトレーナー、ドッグセラピストは、対象者の症状を正確に把握し、セラピープログラムを実施できるよう、心理学・リハビリテーション学・基礎医学など専門的な知識も身に付けています。
ここ(画面を指して)は、日本レスキュー協会、屋内トレーニングセンターです。セラピードッグたちは、ここで毎日、さまざまな訓練を行っています。セラピードッグになるには、吠えない・噛まないなどの基本的な躾(しつけ)はもちろん、人に対して友好的かどうか、大きな物音がしてもドッグセラピストの言い付けが守れるかどうかなど、いくつもの項目にわたって厳しい訓練が必要です。
●毎年28万頭が殺処分されている
皆様の愛情に支えられ活躍するレスキュードッグやセラピードッグがいる一方、同じ犬の仲間でありながら、生ゴミのように捨てられて殺処分される犬たちが後を絶ちません。日本レスキュー協会は、これまでレスキュードッグやセラピードッグの育成で培ってきたノウハウを活かし、保健所で殺処分される犬たちを保護し、人々の心と体を癒す働きをするセラピードッグとして訓練しています。ここで訓練された犬たちが、お年寄りや子供たちの施設で新しい生活を始められるように育成します。現在、計画中のセラピードッグハウスでできることは、捨てられた犬たちをセラピードッグに育成し、高齢者や子供たちの福祉施設へ無償譲渡することです。セラピードッグハウスはプレイルームやカウンセリングルームを併設し、子供たちが小さないのちを大切にする、心を育む場とします。心のケアを必要とする子供たちが、セラピードッグの温もりを感じられる触れ合いの場を設けます。そこでは、情操プログラムを取り入れたドッグセラピーを実施します。このセラピードッグハウスを発信基地として、この世に生を受けた動物たちが、いのちを全うできる社会を確立していきます。
今、ビデオ映像で視ていただきました保健所で処分される(殺される)犬たちですが、これまで、レスキュー協会は救助犬・セラピードッグの育成・派遣団体として頑張ってまいりましたが、同じ犬の仲間でありながら、こういった犬たちがいるということの事実も無視できないということで、今年からこのプログラムがスタートいたしました。この動物保管センターの収容状況なんですが、昨年、全国で286,811頭の犬が殺処分されています。その一番大きな理由は、飼い主が持ち込んで来るんですね。これ(写真を見せて)は、動物保管センターでの譲渡会の様子なんですけれども、全部子犬です。子犬は、こういった形で里親を探せるのですが、成犬になりますと、里親は探せません。
そして、こういった雑居房のいっぱい犬がいる中に入れられまして、大阪の場合でしたら、4日間泊められて(誰も引き取り手のない犬は)ガス室に送られます。この写真が飼い主の持ち込みの様子。結局、大阪府だけをとりますと、4,500頭毎年処分されています。あと、大阪市ですと1,400頭、ですから年間約6,000頭が大阪の地で殺されています。この原因の45パーセントが、飼い主自身が持って来るんですよ。「処分して下さい」と、ゴミの出す日のような感じで犬を連れて来て処分する訳なんですが……。その理由は、家を転居して犬が飼えないとか、最近良くあるケースですが、ご老人が犬を飼っていましたが、体が動かなくなったので飼えないんだというケースが増えていますね。それ以上に、安易に犬を買って、飼えなくなって処分に困って持ち込むというケースがほとんどですね。
●皆様と協力して
われわれはこの悲惨な現状をどうすればいいんだろうかということで、考えました。今ペット産業は大きなビジネスになっています。ペットショップへ行けばポンポン子犬を売っています。このペットショップやペット産業に対して、こちらから働き掛けを行いまして、「安易に売らないで下さい」と、こういうことを言いたいのですが、聞いてくれません。まあ、向こうは商売ですから、こういった生体販売は、非常に利益率が高いですからね。
ところが最近、ドッグフードが売れなくなりましたね。その理由は、飼い犬の流行の変化にあります。ついこの間までは、ゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーなどの大型犬が流行だったんですけれども、今、ブームはダックスフンドやチワワといった小型犬に移りました。ということは、大きな犬と比べると、あまり餌を食べないんですね。だいたい5分の1以下に消費量が抑え込まれてきた。ドッグフードが売れませんから利益がだんだん減っている。そうすると、ペット産業は生体販売をもっともっと増やしてゆき、その結果、余計に状況が酷くなっている。それを安易に買って行く飼い主の方が多く、こういう形で捨てられる犬が非常に増えています。
そこで、私共は、こういったセラピードッグハウスというものを造りまして、なんとか犬を助けようということで、われわれが訓練した犬を福祉施設・老人施設や子供さんの施設に無償で譲渡していこうという計画を進めています。今、大阪で約100施設ほどから、「捨てられている犬を引き取ってもいいですよ」と言っていただいております。これは12月に完成します兵庫県伊丹市のメディカルセンターなんですが、これがセラピードッグハウス、このメディカルセンターの後に造る予定です。こういった形で応援団体も増えてます。私共のパンフレットには、支援団体として、金光教泉尾教会様の名前が大きく赤字で印刷されていますけれども、その他、いろいろな宗教団体もそうですし、商店街も、また大阪府も、いろいろ協力していただいています。「僕たち(犬)を見捨てないで下さい、待っている人たちがいるから」ということです。
私自身、ボランティアをやりまして何を感じたかと言いますと、「世界平和か? 家庭平和か?」という問題です。やればやるほど、女房から「いつまでやるの?」(会場笑い)とかよく言われるのですが、しかし、誰かがやらねばダメだろうという考えでやっています。ですから、この動物保護・愛護に関しては、多分、私が生きている間には解決しないと思うんですが、後世の人たちにバトンタッチする意味でやって行きたいと思います。お時間が来たようです。淡々と内容を説明いたしましたので、ご退屈だったかも判りませんが、ご静聴ありがとうございました。
(連載おわり 文責編集部)