講演に熱が入る亀井静香先生
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7月15日、婦人会創立七十四周年記念婦人大会が開催され、台風7号の接近で交通状態が悪かったにも拘わらず、約1,200名の婦人会員が全国から参加した。大会では、自由民主党前政調会長で衆議院議員の亀静香氏が『日本溶解をくい止めるのは信仰心から』という講題で、熱のこもった記念講演を行った。亀井代議士は、出口の見えない不況と、相次ぐ政治家・官僚のスキャンダルの問題を取り上げ、「グローバル化の美名の下で行われている『構造改革』と称する『弱者切り捨て政策』の無策」を痛烈に批判し、ポスト小泉政局を強く意識すると共に、日本社会がことここに至った原因を、戦後の宗教教育の間違いに求め、「伝統や家庭生活を大切にする宗教性の再評価以外に、日本再生の道はない」と締めくくった。本サイトでは、数回に分けて、亀井静香氏の記念講演を紹介する。
▼ 皆様のお仲間に入れていただいて
本日はおめでとうございます。心からお祝い申し上げたいと思います。ただいまご紹介を頂きました、小泉総理を苛(いじ)めている「抵抗勢力の首魁(しゅかい)じゃないか」と言われておりまして、あまり評判の芳しくない亀井静香でございます(会場笑い)けれども、私は「改革をしよう」と言いながら「弱い人たちを苛めて」おる総理に、「そんなこと止めなさい」と……。「もっともっと目を開いて、生きとし生けるもの、特に、弱い立場にある方々に目を配った政治をしなければだめですよ」ということを、申し上げておるだけのことです。
私は、親先生・親奥様に、公私にわたって大変ご指導を賜っております。また3人のご子息の先生方も本当に素晴らしいですね。まあ、兄弟が多いと、1人くらいできの悪いのがいて普通でありますけれども、こちらの先生方は、個性は全然違われますが、本当に仲がおよろしくて、ご信者の皆様方と一緒になって、「世の中を少しでも良くしたい」という、本当に素晴らしい情熱に燃えられて、東奔西走されておられますね。先ほど控えの間で、三代先生は、昨日、イギリスから帰ってこられたばかりだというようなことを聞きましたけど、本当に素晴らしい若者だと思います。
三宅壽賀子連合婦人会長と共に参拝する亀井静香・柳本卓治両代議士と関肇氏
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こちらのご地元から出さしていただいております柳本君(卓治代議士)が、親先生・親奥様から大変可愛がっていただき、日々ご指導いただいておりますが、今日は私の大学の後輩であります関肇君を連れてまいりました。――昨年は桜井新氏が参院選で、皆様方に大変お世話になったのですけども――関君は、私の弟みたいなものでありまして、是非、またいろいろとお力を頂きたいと思います。関肇君は、防衛庁出身なんですが、今日こうして見ておりますとだいぶと腰が低くなりまして、お辞儀の仕方も覚えたようであります(会場笑い)が、本当にいい男でございますので、皆様のお仲間に入れてやっていただければ有難いと思います。
▼20世紀から21世紀への変わり目に
今日、こうした席(婦人大会)にお招きいただいた訳でありますが、ある面では、私は非常に恥ずかしい気持ちで一杯でありまして、今(国会議員の)バッヂをつけて歩いておるだけで、「お前、何をしているのだ?」と、現に言われる訳ですから、そうした恥ずかしい気持ちで一杯であります。皆様方、毎日ご生活しておられてどうお感じですか? 今まではなんとかやってこれた。もうそんなに嬉しくて嬉しくて楽しくて楽しくてしょうがないということはなかったかもしれないけれど、まあまあやってこれた。しかし、今からは「この先、どうなって行くのだろう?」という不安を、大勢の方が持っておられるのではないかと思います。
私は、これは日本だけでなく、世界的な現象だと思います。ご承知のように、20世紀という世紀に、ついこのあいだ別れを告げましたけれど、あの世紀というのは、科学技術がパァーと爆発しましたね。電気はできるわ、列車は走るわ、飛行機は飛ぶわ、また、携帯電話までできて、便利で便利で仕方がない。逆に便利すぎて困るというぐらいで……。科学技術の発達で、生活が素晴らしく良くなった訳でありますけれども、一方では、どうしたことか「革命と戦争の連続」の世紀だったですね。
皆様方の中にも大勢そういう方がいらっしゃると思います。お父さん、お祖父さん、おじさんたちを先の戦争で亡くされたという方々がたくさんいらっしゃると思います。20世紀というのは、ある意味では、人間の幸せをウーンと爆発させた世紀でありますけれど、同時に、人間と人間がお互いに殺し合いばかりやってきたという、凄まじい世紀だったかと思います。そういう20世紀から21世紀に入って、この地球という小さな惑星――大宇宙から見ると本当に小さな惑星――に住んでおる人類が、昔は交通も発達していませんし、電話もありません。人間と人間とがぶつかり合う可能性は、今より少なかった訳でありますけど、今は情報や交通が発達しましたから、人間と人間とがドンドンとぶつかって行く……。そういう中で、今までのわれわれの生活の仕方、国と国との付き合いの仕方のままで、果たしてわれわれは幸せになれるのかという深刻な問題に、今ぶち当たっている21世紀の入口ではないかなと、私はこのように思います。
▼まったく進歩していない人類
皆さん方もそのように感じておられる方が大勢いらっしゃると思いますけど、果たしてどうなるのか? 21世紀に突入した途端に、嫌な予感に皆さんは怯おびえましたね……。
世界中がそうです。昨年9月11日の、あの憎むべき同時テロが発生した訳で、私はあのシーンをテレビを視ておりまして、広島・長崎の原爆の投下、あるいは東京大空襲――大阪もやられましたけど――と二重写しになって仕方なかった。ビン・ラディンが初めてこうした残虐な行為をやった訳ではない。アメリカも既にそういうことをやっておった訳であります。凝りもせず「報復攻撃」と称して、暴力の応酬をですね。目的のためには、どんな手段でも用いるという、こういうことを21世紀になっても、まだまだ平気でやってしまっておる今の人類であります。「こういう人類に未来があるか?」という点で、本当に深刻な問題があると思います。
それに対して、「テロを絶滅するためだ」と言って、アメリカは、アフガンに対して猛烈な攻撃をしかけましたね。徹底的な空爆で、アフガニスタンの社会資本を破壊し尽くしました。しかし、皆さん。それによってテロとゲリラが無くなったでしょうか? あるいはその不安は無くなったでしょうか? パレスチナでは、相変わらず激しいテロの繰り返しが現在も続いて、ぜんぜん無くなっていません。また、アメリカでも何か普通の殺人事件が起きた時でも、「これはアルカイダの報復ではないか?」と、ビン・ラディンの影に怯えておりますね。まだ、そのビン・ラディンも捕まっておりません。
講師の亀井静香代議士の話に耳を傾ける婦人会員たち
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そういう今の状況の中で、「今度はイラクをやる」という噂も飛んでおりますけれど、軍事で力の強い者が弱い者をねじ伏せて、それを抹殺するというそういうやり方で、本当に世界の平和というのが生まれるだろうか? それによって「弱者」といわれる人たちの安全が確保できるだろうかということですが、私はこれは無理だろうと思います。
やられたらやり返す。「目には目を、歯には歯を」ということの繰り返し……。そんなもので人類が幸せになるとは、私にはどうしても思えません。何万年に及ぶ人類の歴史の中で……。確かに、一方では、人と人とが憎しみ合う。お父さんを殺されたら仇討ちをする。自分の国がやられたらもう一度相手の国をやり返す……。そういう報復の繰り返し、それがまた、人類の歴史でもあったのかな。と私はこのように思います。
しかし、ここで、「だからそれは正しいのだ」という考え方は、私は間違っておると思います。なぜならば、もし「やられたらやり返す。報復をするべき」という精神だけで人類が生きてきたならば、殺し合いの中で、私は人類なんてとっくの昔に亡んでしまっていると思います。ここが動物と人間の違うところだと思います。人類には、動物と同じ弱肉強食という面があります。
一方ではそういう流れでありますが、もう一方には、「慈悲と許しの精神」と申しますか、いかにやられても、無残な仕打ちを受けても、嫌な思いをしても、その相手を許すという気持ちを持っています。また、愛する人のためには自分のいのちさえ投げ出してしまう。困っている人のためには、自分を犠牲にしてでも助けるという、神様のような、仏様のような、そういう一統の流れがあったからこそ、私は、人類はこれまで生き延びてこれたんだと思います。まさに金光教の教えであります。そういうものがなくて、人類が将来、そうした「目には目を」というようなことだけで、立ちゆけるはずはなかろうと、私はこのように思います。
▼世界中に蔓延する市場原理
ただ問題は、「弱肉強食の世界(市場経済)だけでは、バランスのとれた文明にはなれない」ということです。社会主義とか共産主義というのは、人間にとって駄目な制度だということは、完全に証明されているのです。そんなことは、私は支持をいたしません。しかし、今の社会を見ておりますと、資本論の世界――弱肉強食の世界――が、世界的に展開を始めてきた。強い者が弱い者をどんどん呑み込んでいく。それが当たり前。「弱い者が強い者の餌食になったって仕方がないんだ」という、そういう思想と言いますか考え方が、世界中に蔓延(まんえん)をし始めたと思います。
日本の場合も、残念ながら、この十数年、その影響を強く受けておりますね。「勝ち組負け組をハッキリさせたほうが良いんだ」と……。「強い者は何も遠慮することはない。中小企業、零細企業、個人商店を、大企業がどんどん呑み込んで、一部の会社が勝ち組で行くのが、活力のある社会だ。日本はそうあるべきだ」というような風潮がまかり通っています。
少し前までは、皆さん、「亀井静香のやり方では駄目だ」って言ってきたのが、「亀井さんの言う通りだ」と言う人が、最近増えてきました。もうちょっと遅いと思うんですが……。それでも、最近はちょっと雰囲気が変わってきたんですけれどもね。こういった間違った考え方が、もう、怒涛の勢いのごとく、この十数年、日本を覆った訳です。
「規制緩和」と称し、「自由貿易」と称し、「グローバリゼーション」と称してですね、市場原理最優先……。「市場原理に従って、経済は流れていくべきだ」と……。「商売もそれに従ってやるべきだ」と……。「弱者を守るというようなことをやってはいけない」と……。その市場原理主義にひと言でも反対の意見を言おうものなら、私なんかは「守旧派だ」とレッテルを貼られて、大変、指弾をされてきた訳でありますけれども、残念ながら、この十数年は、そういう流れでありました。
▼アメリカの陰謀に填はまった
簡単に言いますと、これから日本社会が生き延びてゆくためには、もう「アメリカ流の経済、アメリカ流の生活の仕方を真似る以外にない」という考え方です。これがもし本当なら、とんでもない話です。アメリカの社会は、皆さんご承知の通り、「殺し合い」の社会です。「殺し合い」の文化……。商売仇がたきをどう潰つぶしていくかというのが、アメリカ流の経済の戦い方であります。そうした状況の中で、総人口のわずか2〜3パーセントの金持ちが、一人当たり年間何十億という巨額の富を得ておりますね。
一方、97〜8パーセント程度の一般の国民の方は、ヒスパニック(中南米系)、黒人層を中心として――一般の白人もそうでありますけれども――どういう状況であるかと申しますと、日本のいろんな職業と比べてみましても、低い所得に抑えられています。軍人さんも自衛官と比べて3分の2くらいの給料ですね。また、一般のサラリーマンの給料もだいたいそんなもんであります。一部の人が握っている巨万の富というのも、実は、一般の人々の生活水準が非常に低く抑えられていることの結果にすぎません。
これを外から見ておりますと、アメリカン・ドリームとして、一握りの大金持ちの巨万の富がきらきらと輝く訳であります。この外見だけを見て、「すごいなあ。アメリカというのは活力があるなあ」と思ったり、「アメリカを見習うべきだ。日本というのは社会に上下の格差がないから、停滞しちゃっている」というような誤った考え方が、ご承知のように蔓延いたしました。そうして、「アメリカの経済の仕組みを、そのまま日本にも適用すべきだ」という、政治家や経済人が数多く出てきました。これは簡単に言いますと、アメリカの手に乗せられちゃったんです。
十数年前、バブル経済全盛期の日本を思い出して下さい。アメリカは太平洋戦争に勝った国、日本は負けた国。しかも、日本には資源が何もありませんね。ないない尽くしの日本が、石油も出ればなんでもありのアメリカ……。あんなでっかい大国、しかも日本に戦争で勝った国であります。そのアメリカに対して、戦争で負けた日本が、不死鳥の如く廃虚の中から立ち上がり、戦後50年にして、そのアメリカに経済的に勝っちゃったんです。アメリカを超えて世界一の経済大国になっちゃったんです。これは紛れもなく歴史的事実ですね。そこで、アメリカの指導者たちは、「日本が成功したのはなぜだろう?」と……。その頃のアメリカは、「Look
Japan日本を見習え」と大合唱を得た訳です。
ところが、社会背景の異なる日本の真似をしたって、到底うまくゆくはずがない。そこで、今度は逆に、「日本のやり方をぶっ壊しちゃえ。自分たちのやり方に合わさせたら、日本と競争するのに自分たちが有利だ。簡単だ」ということに気付いたんですね。それで、怒涛の如く、グローバリゼーション、自由貿易、規制緩和という名のもとに、アメリカ流のやり方を押しつけてきましたよね。
アメリカに留学して、アメリカかぶれして帰ってきたような経済学者、アナリスト、マスコミの方たちが、それを煽(あお)りまくったのです。私は本当に残念なんです。責任を感じているんです。ところが、なにしろ多勢に無勢でありまして、こういう流れを食止めることはできませんでしたけれども、私も、相当の「抵抗」をしたつもりであります。大型店の進出で地元の商店街をぶち壊してしまうような、大店法(大規模小売店舗規制法)の制度についても、体を張ってやった訳でありますが、結局は、なかなか思うようにはいきませんでした。そうしたことの中で、今の日本の経済社会が生まれてきました。
▼小泉内閣は日本を不況にするのが公約
今の小泉さんのやっていることは決定的に駄目だということを、私は、小泉さんに直接言っている訳です。小泉内閣という代物は、簡単に言いますと、「弱い木を間伐をして、切って捨てて、強い木だけ残して、それで、元気な森を作りましょう」というのが、これが小泉内閣ですね。ちょっと考えると、「おっ、それも良いじゃないか。弱い木ばかり面倒を見ておっては、税金も掛かるしいろんな手間が掛かるから、弱いのは消えていってもらって、全部が強い木になれば、それが一番良いじゃないか」ということを言う人がいる。一見もっともらしいのであります。しかし皆さん、これ、本当でしょうか?
一方では、経済を成長させない、マイナス成長。あの方は、別に嘘を言ってないんです。私は総裁選で、橋本内閣の時に(構造改革を無理強いして)日本経済は水浸し……。戦後最大の不況に入っちゃった。そのマイナス成長から、小渕内閣、森内閣と、私が(政調会長として)政策を預かりまして、景気回復を第一目標に上げ「これをしないで何をやったって駄目だ」と、そればっかりやりました。そして、2パーセント成長を達成し、やっとマイナス成長から戻ってきたんです。昨年の4月のことですね。更に、「亀井静香に総理総裁をお任せ下されば、3〜4パーセントの成長率が戻ってきますよ」と、私は具体的な政策を提出いたしました。石原慎太郎知事ともお話をいたしました。「大阪をどうするんだ。東京をどうするんだ」ということも含めて、お話をいたしました。
ところが、国民のほうは、どうも……。私は今になって、親を怨むところがあるんですが――私は親に苦労をかけて、親が無ければ、今日のこんな状況はありませんですけれども――「もっとましな顔に産んでくれれば良かったなあ」(会場笑い)と、この点だけはちょっと親を怨んでいるんですが、国民は顔を見て、小泉さんに入れちゃったんです。総裁選の公約として「圧倒的に不景気にします。マイナス成長にします。倒産や失業や自殺、こういう痛みが伴うことを皆さん理解して下さい」と言いました小泉さんのことを、「そうだ。そうだ。そうだ」ということで、90パーセントの方が拍手喝采しちゃったんです。そして、その通りのことを、小泉さんはおやりになっているんです。それを今になって、「話が違う」と、90パーセントあった支持率が、30数パーセントまで落ちているのですが、どうも、日本の国民というのは、得手勝手すぎるということを感じざるを得ません。小泉さんは、あの時、言われたことをそのまま今、実行しておられるんですね。人呼んで「枯葉作戦」。世の中を不景気にして……。
では、どうやって強い木を作るんですか……。作れませんね。去年の秋頃まで、まだまだ「強い木」だと思われていた中小企業や零細企業も、去年の秋ぐらいから皆「弱い木」になってしまって、今また枯れようとしていますね。じゃあ、本当に「強い木」が残るのか? 残るとすれば、外国資本だけですね。今どうですか? 大阪だってそうです。土地を買い漁(あさ)って、会社を買い漁っているのは外資だけです。かつて、100億円ぐらいした土地が、今では5〜6億円で手に入りますね。もう、どんどん外資が仕入れていますね。日本の会社なんて手を出さない。「社長、良い出物がありますよ」と言われたって、銀行が「不動産には手を出してはいかん」ということで、日本の企業は一切手を出さない。そうすると、外資の独壇場ですね。そういう状況の中で、日本の企業は、どんどん外資の傘下になってゆきます。もちろん、ごく一部の企業が、アメリカに対する輸出と円安効果で――ここ最近は円高になって来ましたけどね――一部の勝ち組はあります。しかし、アメリカ経済頼みや円安頼みで、いつまでも日本の今の勝ち組と言われている企業が生き残れるのか、私は無理だと思います。現に、アメリカの経済が大変な状況に、再びなりかけていますね。「アメリカの仕組みを勉強しろ。アメリカかの仕組みのようにしろ」ということで、真似てきた。
▼日本は今でも世界最大の金持ち国
ところが、アメリカの仕組みはどのようでしたか?透明で情報公開されている企業会計だったはずが、エンロンやワールドコムなどの大企業が、意図的に株価を上げるために粉飾決算をやった。ということは、株価を維持するために粉飾決算ができるような会計システムを米国が採ってきたということです。それが、今、バレちゃって大変な状況になっているという深刻な問題が起きています。私は、このあいだ、小泉さんに会って申し上げたのは、そうした外国頼みでない方法を考えることです。皆さんご承知のように、皆さん方は貯金を持っていらっしゃる。世界中の人たちの持っている貯金の6割は、皆さん方日本人の貯金なんです。全世界の6割ですよ! そうして、日本の外貨準備金(保有しているドル)等については、もう日本は使いきれないくらいの多額です。5,000億ドル(約60兆円)に近い。こんな国、世界中にありません。国にとって一番大事な国民の金融資産が、1,200兆円でしょう。また、世界最大の外貨準備高を誇る国です。200近い国が世界にありますが、こんな国、世界中にありますか?
よその国はどうですか。アメリカは世界中の国から、特に、日本から何百兆とお金を借りている(アメリカ国債の最大保有国は日本)んです。ほとんどの国がそう(債務国)なんです。ところが、「日本の財政赤字が大変だ」と外務省のバカが口を開けば言って(会場笑い)いますが、この連中は本当にバカだと思いますね。私は口が悪いですが……。「お前たちがアホだ。お前たちが権限を持っているために、バカなお前たちによって日本がおかしくなっている。歴史に汚名が残るぞ」と、私は今も言っているんです。
とにかく日本は今、「借金が大変だ。借金が大変だ」と何かというと、国と地方の借金を合わせて700兆円もあるということを強調します。たしかに、国民所得(国内総生産GDP)が500兆円ですから、借金の総額は、それ以上の巨大なものです。たしかに、大変は大変ですね。しかし、皆さん。別に日本の場合は、アメリカやイギリスやよその国のように、外国からお金を借りている訳じゃないのです。日本国民から借りている。もっと正確な言い方をすれば、政府が助けてやっている金融機関からお金を借りているだけなんです。
こんなもの「内輪の話」なんです。内輪で政府が金融機関からお金を借りている。それに、こんなに外貨が残っていながら「大変だ」というのは間違いです。こんなものは、景気さえ良くしていけば、十年、二十年経ったら、簡単に解決できる話なんです。アメリカがそれをやりました。景気を悪くしましたね。もう、税金が上がらなくなるでしょう。払う人がいなくて借金だけが残ってくる。景気を悪くして借金を返せる方法なんていうのはありません。そういう意味で、残念ながら、今のアメリカの猿真似をする日本の経済、今の経営者なんか、皆そうでしょう。ロクな経営者はおりませんね。
▼経営者がもっとしっかりしなければ
この間、日本経団連の会長に就任したトヨタ自動車会長の奥田碩さんが、私のところに挨拶に来られました。私は一時間近く、「あなた、しっかりしなさい」ということを、こんこんと申し上げました。奥田さんは私に「亀井先生の考えと同じです」と言われるので、「同じならやって下さい」と、私は言ったんですけどね。日本の経営者もダメですね。ちょっと、会社が赤字になって製品が売れなくなると、従業員がバサッと首を切られる。リストラという横文字を使えば、誰も責められない。クビ切りを自由自在にやっていますね。下請け関連会社も「どんどん切っていけ」でしょう。そんなことで、日本経済はちゃんといくのか? 儲からん所を切るんですからね。従業員を切れば、人件費は少なくなる。一時的には収益が良くなるか知らんけれど、そんなことをしておいて、日本の経済がかつて世界一になったような活力を取り戻せるはずがない。こんなこと子供が考えても解る。戻せませんね。
これは、十四、十五年前、日本が世界一の経済大国になった。なぜなったかを分析してみれば判ることです。日本には天然資源があるわけではありません。では、何が日本をして勝たせたのか? それは、われわれ日本人の魂がアメリカに勝ったんです。そうでしょう。当時の経営者は、今みたいにすぐに社員の首を切りません。下請けなんか処理しません。たとえ今、ヒット商品があったとしても、将来これが、いつまでも売れるとは限らない。そこで、研究・開発をやって、技術改革をどんどんやって、新しい製品をどんどん作っていたんです。これによって、従業員の首も切らないで、下請け関連の整理もしないでやっていったんです。そのエネルギーが、日本を世界一にしたんです。
今のように、切って切ってですね、あとに何が残るのか?という話になってしまう。そして、なんでも「中国で安く造れ」ということになる。どんどん中国に会社(生産拠点)を移してしまうということを平気でやっておりますけど、果たして、全体主義国家の中国にこんなことをやっていて安全なのか? 一夜にして契約条件が変えられたら、手の打ちようがない。この間、阿南駐中国大使から電話がありましたので、「お前たち何しているのだ」と言ってやりました。すると、大使は「亀井先生、そんなことばっかしなんですよ」と言うので、「そんなことばっかしだと言っている場合じゃない。大使というのはそういうがんばっている企業を守るために、お前たちがいるんだろう」と説教いたしましたけどね。
そうした安易なことだけやっておって、日本の経済がうまくいくはずがありませんね。東レの前田勝之助という、今相談役になっている方がいらっしゃいますが、この方なんか凄まじいですね。十数年前の世界経済の立役者の一人ですけどね。「亀井さん、縁あって東レに入ってくれた従業員、縁あって東レと取り引きしてくれている下請けや孫請け関連会社、この人たちを幸せにしないで金を儲けたって、しようがない」とおっしゃるんです。凄まじい経営者魂ですね。「亀井さん、うちも外国に工場出しますよ。しかし、日本人を幸せにしないで、金儲けしたって仕方がないでしょう」とおっしゃるんですね。そういう経営者がおったからこそ、日本は世界一になった。ところが、今は、魂を抜かれちゃったのですね。
▼アメリカに魂を抜かれてしまった日本人
これには歴史的な理由があります。敗戦後、日本はアメリカ軍に占領されました。占領軍というのは、別に、チューインガムやチョコレートをくれるために来ているのじゃない。当たり前の話であります。日本人は自分たちと戦った相手でありますから、自分たちに二度と刃向かって来れないような国にするには、どうしたら良いのか? ということで占領しているだけの話でしょう。敵であった日本人を幸せにするために来ているのではない。なぜ、こんな小さな国が大国アメリカに戦争をしかけるくらい強くなったのか? それには、「日本人の魂を骨抜きにしなければ、自分たちの将来が危ない」ということで、徹底的に占領政策がなされましたね。教育を含めて、あらゆることについて、やられてしまった。過去の日本人の生活の仕方、心の持ち方について「こんなのはダメだ」ということで、あらゆる機会を作って、どんどん魂を抜かれていった。
ちょうど十数年前、本当の日本人魂を持っておる人たちが、なんとかそこまで持ってきたんです。ところが、その人たちが皆、政界からも、財界からも、民間からも、マスコミはもちろん、あらゆる分野から、齢としを取ってリタイアしちゃったんです。そして、アメリカの占領政策の下で育った人たちが各界のリーダーになってしまった。それだけに、今の日本の状態というのは、小泉さんの「思いつきの改革」によっておかしくなっているだけであれば、まだ軽症なのでありますが、そうではないですね。もっともっと根の深い所(魂の骨抜き)があることがとても問題であろうと、私はこのように思うわけであります。
しかし、ご時勢だからといって放っておくわけにはいきません。皆さま方と共に、われわれは間もなくあの世に行く(会場笑い)わけでありますから、当面は1,200兆円の金融資産があれば、どうにかやっていけるでしょう。しかし、私たちの子や孫の時にどうなっていくのか? われわれが今、キッチリしておかないといけないと思います。そういう意味では、政治家が先頭に立たなければなりませんが、一番の問題は、先ほど言いましたように、経済政策については、「間違った」と思えば、また、考え直せばいい。それはやれます。しかし、「魂の骨抜き」の問題というのは、なかなかそうは行かない深刻な問題であると思います。
もう時間があまりありませんが、特に「魂を抜かれている」のが男性であります(会場笑い)。今日は婦人部の皆さんの大会だから、そう言っているのではありません。私はどこへ行ってお話しする時でも、そう言っておるのです。今、どんな山奥に行きましても、昔のように薄汚れたヨボヨボしたおばあちゃんって、いらっしゃいませんね。皆、溌剌はつらつとしている。見た感じだけではありません。今の女性は特に、内面がしっかりしてきていますね。それに比べて、男性はダメになったね。もう、腑抜ふぬけになっています。「日本男子どこにおるのか?」というのが今の日本ですね。
特に若い男の子たちはそうでしょう。牛の鼻繰(はなぐり)みたいなもの(ピアスのこと)をぶら下げて喜んじゃってね。そういう子が女の子にモテるんですよ。しかし、モテるといっても、結婚してくれるかと思ったら、女は狡ずるいから、「遊び相手ならいいよ。そんな男の子と一生は嫌よ」と言うんです(会場笑い)。それでも、結婚するとしても、まあ幸せだと思うのは、成田を出発する時まで。成田に帰って来たら、「なんで、こんな男と結婚したんだろう」(会場笑い)ということになって……。
だから、子供が産まれないんです。今の特殊出生率(日本人女性が、一生の間に産む子供の数)の平均が、1.33人ですね。このままで行きますと、あと100年経ちましたら、日本の人々は半分の6,700万人になり、500年経ったら自然に消滅しちゃいますよ。最後の日本人が泉尾教会の皆さまかどうか判らないけれども、そのミイラが大英博物館に陳列されて、「こんな日本人がおった」(会場笑い)ということになっちゃうんですよ。皆さん、笑いごとじゃなくって、本当にそうなっちゃうんですよ。このまま出生率1.33人でゆくと……。もうそこまできちゃったんです。
日本民族というのは、本当にどうしようもない。特に、今の男というのはそうでしょう。家庭の中でも、町内会でも、会社でも、われわれ国会議員でもそうだ。国政の中でも、男としての責任を果たそうとしませんね。家庭だってそうでしょう。昔は、息子が悪いことをすると、親父はぶん殴って、お母さんが「よしよし」と宥なだめていた。それが、良い塩梅あんばいにいくから、良い子に育っていたんです。しかし、今は、どうですか。夫婦で子供の溺愛の競争をしてますね。溺愛の競争ならまだしも、最近は浮気の競争(会場笑い)まで夫婦でしちゃってる。そんな情けない時代になってしまいました。
私なんか、子供の時に父親からさんざん殴られて、隣近所のオヤジからも殴られて育ちました。今、隣近所の子供を叱りつける人はおりますか? おりませんね。昔は違う。学校に行くと、先生からも殴られて……。私も田舎に帰ったら、(恩師に)「先生、お幾つになられましたか?」と言って時々、近況報告をするんですけどね。今になったら、(先生に殴られたことを)感謝しています。本当に感謝しています。昔は、学校の先生が「憎くて、憎くて」と思ったくらい(会場笑い)、よく殴られました。私が悪いことをしているのでしょうがないんですが……。私は、生まれた時には、可愛い顔をしていて、「光源氏」みたいに可愛かった。だから、「静香」という名前を付けてもらった(会場爆笑)。お解りでしょう? ところが、殴られているうちに、とうとうドン亀になってしまった訳でありますけども……。しかし、これらはすべて愛の鞭むち、これを今の男は加えることができなくなってしまいましたね。
▼国家が誇りと自信を持たずして
外国に対してもそう(男が弱くなった)です。皆さま、国家が誇りと自信を持たずして、立派な日本男子が産まれて育つはずはありません。それもこれも、政治家に責任があるのです。私にも責任があるのです。外国人に対して、ペコペコ頭を下げておることが、これが外交だと……。この間の瀋陽の事件(註=日本総領事館への「駆け込み」事件)を見て下さい。同じように、脱北者に領事館に駆け込まれても、韓国と日本とでは、あれだけ対応が違っているんですよ。
韓国の領事官員と中国の武装警官と揉み合いになって、自分がケガをしても中国の公安当局の介入を阻止しようとしました。それを日本の副領事は、わざわざ相手の帽子まで拾ってね(会場笑い)。日本では、今、『有事立法』が国会にかかっていますけどね……。皆さん、有事とは、別にミサイルが大阪に飛んでくるとか、あるいは、駿河湾に敵が上陸して来るのだけが有事でないのですね。もちろん、そういう軍事的な事態も有事に違いありません。しかし、治外法権である日本の総領事館に、中国の武装警官が乱入をして、(保護を求めて駆け込んできた人に)暴行を加えているということ……。これも、また、有事なのです。
そういう時に、日本政府のあの体たらく。私は小泉さんに「あなた自身はどんどん支持率が下がっているけれど、起きたことはしょうがない。これをちゃんと対応すれば、国民の支持は元に戻りますよ」と、直接、総理に申し上げ、「ちゃんとしなさいよ」と意見しました。しかし、何ですか。この間の外務省の処分は……。有事において、日本を代表する外交官が、あんな無様であっても何の処分も受けない事実……。じゃあ、(日本が他国に攻められる)本当の有事において、政府は国民に、何を求めようとするのですか? これで有事法案を今、出しているのですからね。これは矛盾です。そういう意味において、本当に、もう残念至極な日本であります。
たしかに、歴史的事実はいろいろあります。反省をすべき歴史もあります。また、屈辱の歴史もあるでしょう。しかし、一方では、誇るべき栄光の歴史もあるんです。それをわれわれは、「過去はすべてダメだ」ということにしてしまった。アメリカの占領政策にしたって、東京裁判にしたって、勝ったほうが負けたほうを裁いたんですからね。こんなもの公正なわけあるはずがない。神様が裁いたわけじゃない。公正な国際法が裁いたわけでもない。勝ったほうが負けたほうを裁いたのでありますからね。そこで使われた論理をもって、日本の行為をすべて断罪するのは、間違っています。
もちろん、われわれの先輩の中には、やってはいけないことをやった人がいるかもしれないです。しかし、アジアの人々のために汗を流して、そのために血を流していくという崇高な行動をしたわれわれの先人もたくさんいるわけです。そういうことを、なんで、われわれはもっと民族の誇りとして、世界に対して、また、学校教育で子供たちに対しても、きっちり教えることをしていかないのか? しかし、ここでこんなことを言いながら、私自身は気恥ずかしい気持ちで一杯です。戦後の政治をほとんど担当したのが、わが自由民主党であります。そういう意味で、われわれに最も責任があるのですから、非常に恥ずかしい思いをしております。しかし、がんばらないといけません。
▼大阪から総理大臣を
柳本君(柳本卓治代議士)が、先ほど、私のことを持ち上げた挨拶をしてくれましたが、彼は私のかけがえのない同志であります。今、うちの村(派閥=志帥会)の事務総長代理をやっていただいております。国会議員五十七名の面倒を見る大役なのです。そのために大変汗を流してくれています。彼は、中曽根先生(康弘元総理)の末っ子(最後の弟子)でもありますけれど、志帥会のエースとして育てていきたいと、このように考えております。私は責任を持って、やっていきたいと思っています。
小泉さんが総理をやってるうちは、(党の言うことを聞かずに)勝手に自分がおやりになりたがるから、私が「これを」と言ったって、なかなか聞かれない場合が多いですが、小泉さんもいつまでも総理をやれるわけありませんからね……。今のような政治をやられる限りは、私はそんなに長くおやりになることにはならないと思います。「国民を不幸にする政治」は長く続くわけはありません。人事というのは派閥がやるのです。それは、そうでしょう。
総理だって、神様でありませんからね。広い党内の中から、誰が有能かなんて判りません。それは、それぞれのグループの責任者が責任を持って、「うちは、こういう適材人物がいるよ。これを使いなさい」、「ああ、そうか」と、党の幹部と相談をしながら、大臣等を決めていくのが当たり前の話です。そういう意味で、柳本君は本当に素晴らしい政治家であります。だから、私も責任を持って、ちゃんと役に付けてまいります。ただ、選挙だけは、皆さま方のお力を頂戴しなければなりませんので、そこのところをよろしくお願いします。
皆さま。この大阪の地は、本当に総理候補が育ちませんね。立派な方が多いですのにね。中山ご兄弟(註=中山太郎元外相と中山正暉元建設相)や、塩川先生(註=塩川正十郎財務大臣)も含めて、たくさんいらっしゃるのですが、なかなか総理候補が育ってこない。総理というと、たいていド田舎からばっかり……。まあ、小泉さんは例外(神奈川県)でありますけどね。これは、ひとつには、大都市の選挙は大変だということですね。ぜひ、柳本君は、まだ年齢は若いわけであります。この大阪の地から、たまには総理を出したらどうですか?(会場拍手)。彼は、義理人情も弁わきまえておりますし、政治家としての才能・素質も十分持っておるわけでありますので、「私より先に」という訳にはいきませんが、将来の総理候補として育てていきたい。このように考えている訳であります。皆様どうぞよろしくお願い申し上げたいと思います。
今、日本の国は正念場に立たされています。私共は正念場に立たされて、「国民のほうが間違っている(註=小泉総理を支持しているということ)から、しょうがない」と言ったら、いつまでもきりがない。やはり政治家は、まさに政治生命を賭して戦わねばならない時があると思います。亀井静香もその時は決然としてやるつもりでおります。万一、四条河原に引きずり出されて、打ち首獄門と、亀井静香が相果てることがございましたら、柏手の四つをしていただければと思います。本当に皆さま今日はありがとうございました。
(おわり、文責編集部)