求道会創立71周年記念 男子壮年信徒大会 記念講演
『第2のセーフティネット施策の効果と課題
―生活困窮者自立支援法の施行から2年を経て―』
大阪市立大学都市研究プラザ副所長
ホームレス支援全国ネットワーク理事
水内俊雄

2月19日、求道会創立71周年記念男子壮年信徒大会が開催され、『第2のセーフティネット施策の効果と課題―生活困窮者自立支援法の施行から2年を経て』と題して、大阪市立大学都市研究プラザ副所長、ホームレス支援全国ネットワーク理事の水内俊雄氏が記念講演を行った。本サイトでは、数回に分けて、水内俊雄氏の記念講演を紹介してゆく。

水内俊雄氏
水内 俊雄氏

▼大正区との関わり

ただ今ご紹介に与(あずか)りました水内俊雄と申します。私は和歌山市出身で教会長先生と同い歳の昭和31年生まれです。JR大阪環状線に乗る度に「大きな屋根の教会が見えるな…」とずっと思っておりました。大阪市立大学で教鞭を執っておりますので環状線に乗る機会も多いですし、大阪の街については市役所と一緒にいろんな仕事をさせていただいております。

今日の話にも出てきますが、1998年に当時の磯村隆文市長―彼はもともと大阪市立大学の教授で、その後、市長になられました―から、当時、激増していた公園に住まう野宿生活者(ホームレス)の方々が何人いるかが判らないため、市長の言葉を借りますと「ホームレスの国勢調査をしてほしい」と頼まれました。それができるのは大学しかないだろうと、ご自身の出身大学でもある大阪市立大学に依頼され、まずはスタッフ総出で何人住んでおられるのかを調査しました。その翌年には、その方々はどのようなニーズがあるのか聞き取り調査をしようとなったのですが、これを契機に私は急にホームレスの問題に接することになりました。「今日は何の話をされるのかな?」と思っておられると思いますが、私のひとつの原点は、大学で大阪の野宿生活者(ホームレス)の問題に接したことだと思います。私自身はもともと地理学が専門なのですが、この時の一連の調査をきっかけに福祉の世界に入ったという感があります。

昨日は元来の専門の地理学の観点から、住吉の歴史について、住吉大社で400人ぐらいの聴衆を前にお話しさせていただきました。住吉さんの話をすると、4世紀に遡(さかのぼ)ります。実は私共の大学のある住吉区、阿倍野区、西成区の辺りは、14、5世紀頃に四天王寺さんと住吉さんという2つの大きな宗教勢力による所領争いがあった場所です。ご存知の通り、住吉大社さんは今でも基本的に氏子を持っておられません。四天王寺さんも檀家のない官寺だったので、長年大きな所領(荘園)を有していろいろと運営されていたのですが、どうも四天王寺さんと住吉さんの境界線が阿倍野区辺りにあり、所領の取り合いをしていたという話があります。いずれも古い歴史を持っておられますが、昨日は明治から昭和の話をさせていただきました。

求道会員に熱弁を揮う水内俊雄教授
求道会員に熱弁を揮う水内俊雄教授

本日お集まりの皆様は、全員、大正区にお住まいという訳ではないですよね? 基本的に大阪府下にはお住まいだと思いますが…。ご存知の通り、大正駅は海抜マイナス1.5メートルの低地にあります。私と大正区との関わりで申し上げますと、戦災で焼けた後に土地のかさ上げ事業をする際に、ジェーン台風の時に半年以上浸かってしまったこともあり、土地の低さをどう克服するかが常に課題だったと思います。私は1999年から2000年にかけて大正区の戦後復興について調べていたのですが、その時に接したのが沖縄から来られた方の話です。1年ぐらいずっとこの教会の前を通って、今の鶴町4丁目の手前の済生会病院のある所(北村3丁目)で調査しました。そんな形でいろんなご縁があり、現在の筋原章博大正区長とは高校が一緒で、小中学校は隣り合わせでした。筋原さんのお母さんは、私の通っていた中学校でカレーを作っておられた思い出もあり、近しい存在と思っています。うちの大学も住吉区、西成区、住之江区と協定を結んでおり、いろんなことをやっているのですが、筋原区長からも「是非、大正区でやってもらえないか」と言われています。今日は大正区で初めて講演をさせていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。


▼社会保障と生活保護の中間の領域

今日は端的に申し上げますと、皆さんに一番新しい情報を提供しようと思っています。何の情報かと申しますと、前のスクリーンとお手元の資料にも載っていますが、セーフティネット(社会の安全網)が3つございます。そのうちの厚生年金、医療年金、あるいは共済組合といった社会保障として存在する第1のセーフティネットがあります。ところが、この第1のセーフティネットは長年企業と家計でカバーされてきたのですが、そこで巧くいかない方を、極端に言うと、今までストンとカバーできたものは生活保護だけでした。つまり、第1のネットである社会保障と、第3のネットである生活保護しかなくて、その一歩手前の第2のネットがないのが現状でした。今日の話は、この2つのセーフティネットの間に、全国的に新しい制度がひとつ、一昨年(2015年)4月から導入されました。「生活困窮者自立支援法」という制度ですが、まずは新しい受給の対象者が生まれたことを知っていただきたいと思います。要するに「生活困窮者」という名前が法律として登場したということです。

ところが困ったことに、この「生活困窮者とは何か?」ということが一番難しいところなんです。この法律は全国の自治体が実施することを義務付けましたので、一昨年の4月はどの自治体も「さあ、どうしようか…」と大変でした。まず生活困窮者支援の窓口を設けて、相談をしていかなければなりません。しかも、今まで困った人に対しては「じゃあ生活保護を受けようか…」となったのですが、役所によって異なりますが「ちょっと待って。実は、こんな制度もありますよ。この制度を利用したら、より自立的に生活できる可能性がありますよ」と、生活保護一歩手前に相談窓口が入ったことになります。大正区の場合ですと、大正区役所の中に社会福祉協議会と一緒にそういう窓口があります。大阪は24区制度ですので、24区それぞれにそういう窓口があります。では、誰がこの制度の窓口業務を担っておられると思いますか? 長年、生活保護行政は役所が直営でやっており、この方針は今も変わりません。ですので、基本的に生活保護行政は役所の職員さん(公務員)がやっておられます。

ところが、社会保障制度と生活保護制度の間に入った「生活困窮者自立支援」は何処がやるのかと申しますと、この制度を創った厚生労働省は「誰がやってもいいですよ」と事業実施主体をお任せにしました。宗教法人がやっても良いですし、医療法人がやっても良い訳です。基本的に大阪市については、どの区も役所は直営でやっていません。と申しますか、そんな業務まで区役所だけではとてもやれません。「新しい仕組みですから、新しい人たちにやっていただこう」ということで、大部分は各地の社会福祉協議会が請け負っているのですが、さりながら、このご時世では「じゃあ、社会福祉協議会がやってくださいね」と、いわゆる随意契約に対しては慎重になっていますので、まず公募で「私がします」と手を挙げてもらい、役所がその中から選ぶということになりました。結果として、社会福祉協議会が単独でやったのが、24区中13〜14区です。大正区は社会福祉協議会単独ですが、例えば西成区は大阪市西成区社会福祉協議会と社会福祉法人である大阪自彊館がジョイントでやっています。唯一、社会福祉協議会が取れなかったのが旭区で、ここはNPOである社会福祉法人リベルタと一般社団法人ヒューマンワークアソシエーションの共同体が取りました。



(連載つづく 文責編集部)

 


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