求道会創立71周年記念 男子壮年信徒大会 記念講演
『第2のセーフティネット施策の効果と課題
―生活困窮者自立支援法の施行から2年を経て―』
大阪市立大学都市研究プラザ副所長
ホームレス支援全国ネットワーク理事
水内俊雄

2月19日、求道会創立71周年記念男子壮年信徒大会が開催され、『第2のセーフティネット施策の効果と課題―生活困窮者自立支援法の施行から2年を経て』と題して、大阪市立大学都市研究プラザ副所長、ホームレス支援全国ネットワーク理事の水内俊雄氏が記念講演を行った。本サイトでは、数回に分けて、水内俊雄氏の記念講演を紹介してゆく。

水内俊雄氏
水内 俊雄氏

▼大正区との関わり

ただ今ご紹介に与(あずか)りました水内俊雄と申します。私は和歌山市出身で教会長先生と同い歳の昭和31年生まれです。JR大阪環状線に乗る度に「大きな屋根の教会が見えるな…」とずっと思っておりました。大阪市立大学で教鞭を執っておりますので環状線に乗る機会も多いですし、大阪の街については市役所と一緒にいろんな仕事をさせていただいております。

今日の話にも出てきますが、1998年に当時の磯村隆文市長―彼はもともと大阪市立大学の教授で、その後、市長になられました―から、当時、激増していた公園に住まう野宿生活者(ホームレス)の方々が何人いるかが判らないため、市長の言葉を借りますと「ホームレスの国勢調査をしてほしい」と頼まれました。それができるのは大学しかないだろうと、ご自身の出身大学でもある大阪市立大学に依頼され、まずはスタッフ総出で何人住んでおられるのかを調査しました。その翌年には、その方々はどのようなニーズがあるのか聞き取り調査をしようとなったのですが、これを契機に私は急にホームレスの問題に接することになりました。「今日は何の話をされるのかな?」と思っておられると思いますが、私のひとつの原点は、大学で大阪の野宿生活者(ホームレス)の問題に接したことだと思います。私自身はもともと地理学が専門なのですが、この時の一連の調査をきっかけに福祉の世界に入ったという感があります。

昨日は元来の専門の地理学の観点から、住吉の歴史について、住吉大社で400人ぐらいの聴衆を前にお話しさせていただきました。住吉さんの話をすると、4世紀に遡(さかのぼ)ります。実は私共の大学のある住吉区、阿倍野区、西成区の辺りは、14、5世紀頃に四天王寺さんと住吉さんという2つの大きな宗教勢力による所領争いがあった場所です。ご存知の通り、住吉大社さんは今でも基本的に氏子を持っておられません。四天王寺さんも檀家のない官寺だったので、長年大きな所領(荘園)を有していろいろと運営されていたのですが、どうも四天王寺さんと住吉さんの境界線が阿倍野区辺りにあり、所領の取り合いをしていたという話があります。いずれも古い歴史を持っておられますが、昨日は明治から昭和の話をさせていただきました。

求道会員に熱弁を揮う水内俊雄教授
求道会員に熱弁を揮う水内俊雄教授

本日お集まりの皆様は、全員、大正区にお住まいという訳ではないですよね? 基本的に大阪府下にはお住まいだと思いますが…。ご存知の通り、大正駅は海抜マイナス1.5メートルの低地にあります。私と大正区との関わりで申し上げますと、戦災で焼けた後に土地のかさ上げ事業をする際に、ジェーン台風の時に半年以上浸かってしまったこともあり、土地の低さをどう克服するかが常に課題だったと思います。私は1999年から2000年にかけて大正区の戦後復興について調べていたのですが、その時に接したのが沖縄から来られた方の話です。1年ぐらいずっとこの教会の前を通って、今の鶴町4丁目の手前の済生会病院のある所(北村3丁目)で調査しました。そんな形でいろんなご縁があり、現在の筋原章博大正区長とは高校が一緒で、小中学校は隣り合わせでした。筋原さんのお母さんは、私の通っていた中学校でカレーを作っておられた思い出もあり、近しい存在と思っています。うちの大学も住吉区、西成区、住之江区と協定を結んでおり、いろんなことをやっているのですが、筋原区長からも「是非、大正区でやってもらえないか」と言われています。今日は大正区で初めて講演をさせていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。


▼社会保障と生活保護の中間の領域

今日は端的に申し上げますと、皆さんに一番新しい情報を提供しようと思っています。何の情報かと申しますと、前のスクリーンとお手元の資料にも載っていますが、セーフティネット(社会の安全網)が3つございます。そのうちの厚生年金、医療年金、あるいは共済組合といった社会保障として存在する第1のセーフティネットがあります。ところが、この第1のセーフティネットは長年企業と家計でカバーされてきたのですが、そこで巧くいかない方を、極端に言うと、今までストンとカバーできたものは生活保護だけでした。つまり、第1のネットである社会保障と、第3のネットである生活保護しかなくて、その一歩手前の第2のネットがないのが現状でした。今日の話は、この2つのセーフティネットの間に、全国的に新しい制度がひとつ、一昨年(2015年)4月から導入されました。「生活困窮者自立支援法」という制度ですが、まずは新しい受給の対象者が生まれたことを知っていただきたいと思います。要するに「生活困窮者」という名前が法律として登場したということです。

ところが困ったことに、この「生活困窮者とは何か?」ということが一番難しいところなんです。この法律は全国の自治体が実施することを義務付けましたので、一昨年の4月はどの自治体も「さあ、どうしようか…」と大変でした。まず生活困窮者支援の窓口を設けて、相談をしていかなければなりません。しかも、今まで困った人に対しては「じゃあ生活保護を受けようか…」となったのですが、役所によって異なりますが「ちょっと待って。実は、こんな制度もありますよ。この制度を利用したら、より自立的に生活できる可能性がありますよ」と、生活保護一歩手前に相談窓口が入ったことになります。大正区の場合ですと、大正区役所の中に社会福祉協議会と一緒にそういう窓口があります。大阪は24区制度ですので、24区それぞれにそういう窓口があります。では、誰がこの制度の窓口業務を担っておられると思いますか? 長年、生活保護行政は役所が直営でやっており、この方針は今も変わりません。ですので、基本的に生活保護行政は役所の職員さん(公務員)がやっておられます。

ところが、社会保障制度と生活保護制度の間に入った「生活困窮者自立支援」は何処がやるのかと申しますと、この制度を創った厚生労働省は「誰がやってもいいですよ」と事業実施主体をお任せにしました。宗教法人がやっても良いですし、医療法人がやっても良い訳です。基本的に大阪市については、どの区も役所は直営でやっていません。と申しますか、そんな業務まで区役所だけではとてもやれません。「新しい仕組みですから、新しい人たちにやっていただこう」ということで、大部分は各地の社会福祉協議会が請け負っているのですが、さりながら、このご時世では「じゃあ、社会福祉協議会がやってくださいね」と、いわゆる随意契約に対しては慎重になっていますので、まず公募で「私がします」と手を挙げてもらい、役所がその中から選ぶということになりました。結果として、社会福祉協議会が単独でやったのが、24区中13〜14区です。大正区は社会福祉協議会単独ですが、例えば西成区は大阪市西成区社会福祉協議会と社会福祉法人である大阪自彊館がジョイントでやっています。唯一、社会福祉協議会が取れなかったのが旭区で、ここはNPOである社会福祉法人リベルタと一般社団法人ヒューマンワークアソシエーションの共同体が取りました。


▼大変手厚い支援制度に

生活困窮者自立支援法では、どんな人が支援の対象になるのかをまとめてありますが、実際に支援が必要な人はなかなかこういう案内を積極的に読みません。場合によってはご自分が当事者になってしまうことがあるかもしれませんが、もし皆さんがそういう方を見かけたら、この制度はどういった方が対象になるかが書かれた冊子であり、だいたい区役所に置かれてますから、ひと声かけていただけたらと思います。まず一番上に「再就職のために住居の確保が必要な人」とあります。例えば「就職が決まったけれども、未払いの家賃がある」とか、「新しい所に就職するために家を借りたいけれども、その家賃がない」といった方に、3カ月分の家賃を貸与するといった「住宅確保給付金」という制度をひとつ挟んでいます。これは必須事業ですので、3分の1は自治体負担ですが、3分の2は国の補助が付きます。ですので、皆さんの周りに「あの人、仕事をやる気は十分あるんやけど、家がなくて困ってる」というような人が居られたら、この住宅確保給付金で行けます。
それから2番目の就労支援は、すぐ働ける人もいれば、ちょっとしんどい人も居られますので、3段階に重ねています。「就労準備支援事業」は、協力企業と提携して3カ月ほど試験雇用をしていただくという制度です。就労支援は別の民間企業がやっておられまして、登録された方に職種をマッチングしてお薦めすることになっていますが、就労準備支援事業は当該区の企業さんの協力が必要なので、企業を経営されている方にご検討いただければ有り難いです。これは一定期間企業側にもお金が入る仕組みになっていますので、「ちょっと雇ってみようか?」という会社がありましたら、大正区ならば社会福祉協議会が企業さんに伺います。

「認定就労訓練事業」は、直ちに一般就労は無理だけれども、訓練所に行って研修を受けることができる人が対象です。大阪でこの近くですと、この認定訓練事業に手を挙げているのが、大浪橋を渡ってすぐの芦原橋にある大阪地域職業訓練センター「’Aワーク創造館」です。それから、もう生活保護を受けてしまったけれども、働ける可能性のある方に対しては、ハローワークのOBがケースワーカーと一緒になって出て行き、後押しをする事業をしています。今はどの区もこの「総合就職訓練事業」というのをやっておりまして、生活保護を受給した人も対象になります。自立を助けるために、ハローワークも結構バックアップをしているということです。こんな手厚い支援は、日本では初めての試みです。非常に注目されていますし、是非ともこの分野に皆さんのご協力を賜れたらと思います。


▼一時生活支援事業とは何か

その次が「一時生活支援事業」です。実は、私の専門分野はこの分野になりますが、これは何かと申しますと、今までのホームレス事業、あるいはシェルター事業に相当します。要するに「家がない」、「家を失う寸前だ」、「知人の家を転々としている」、「ネットカフェにいる」、「飯場にいる」、「社員寮や派遣寮にいる」あるいは女性の場合「夫からDV(家庭内暴力)に遭って家に帰れない」といった方々の緊急避難のための家をあちこちに設けています。大正区は飯場で有名なエリアですが、東京オリンピックの需要で大阪のいわゆる土木建設工事作業員派遣企業がどんどん東京に進出して、マンションを借り切ったり、空きの社員寮を買収して若い労働者の人を寮住まいさせていますが、大正区や此花区、西成区にも、仕事とセットで一時住まいを提供している企業が多くあります。

こういう人たちの問題は何かと申しますと、仕事がなくなると家もなくなってしまう点です。リーマンショックの時、「派遣切り」に伴って大量に家を失う人が出たこともありますが、実はそういったケースで家を失った人に、一時的に無償でシェルターを貸しているのが、この「一時生活支援事業」です。私はホームレス問題に関わっていますけれど、「ホームレス自立支援法」という法律とは別に、この新しい「生活困窮者自立支援法」ができたことで、厚生労働省の頭の中では、「ホームレス」は「生活困窮者」という言葉に包括され、事業も一時生活支援事業に一本化しますよ、という立て付けにしています。ですので厚生労働省としては「ホームレス対策予算」としてよりも、「一時生活支事業予算」として出しているところです。

講師の熱弁を真剣に拝聴する求道会員たち
講師の熱弁を真剣に拝聴する求道会員たち

では、「ホームレス自立支援法」はどうなるのかについては今日はもう話しませんが、今年の7月31日にその法律が切れますので、今は延長するべく議員さんに対して働きかけをしているところです。「ホームレス自立支援法」の制定時に関しては、大阪希望館の設立の際に金光教さんに署名もたくさん集めていただき、大変お世話になったと記憶しております。有り難いことに超党派の議員立法でずっときていますので、今回も同様に超党派でやることになっています。2002年に法律ができた時には、大阪の公明党さんと自民党さんと、当時の民主党さんが動いてくださり、とりわけ民主党の議員さんが動いてくださったのですが、その後、民主党が崩壊してしまい、民進党では背負いきれないため、現在、大阪では自民党さん、公明党さんの国会議員さんを中心に進めています。厚生労働省も、ホームレス自立支援法は10年間の時限立法ですので、残すことを考えて現在延長に向けて、私が所属しているNPO等を中心に、必死でロビー活動を行っておりますが、金光教の皆様にも、前回同様、お力添えを頂けたらと思います。

「一時生活支援事業」もここに入っていますが、その下にある「家計相談支援事業」は、家計管理をサポートしますよという凄い事業です。もうひとつの「子どもの学習支援事業」も新しく導入された事業ですが、現在の吉村市長は「子どものことにお金を投下しよう」という方ですが、大阪市の子どもの支援事業に関しては、同和対策事業との関連もありまして、児童館事業や勤労青少年ホームといった、留守家庭児童を対象とした子ども事業など、当時としては先進的な面白い取り組みをやっていたのですが、この10年間、スクラップアンドビルドのスクラップのほうが強くて、なかなか目玉商品となる事業がなく、かろうじて全小学校を対象とした「児童いきいき放課後事業」や、民間の部屋にお世話になっている「学童保育事業」をやっていたのですが、残念なことに大正区は少子高齢化が凄く進んでおり、学童保育そのものが消滅してしまいました。対象となる児童が10人を切ってしまうと、学童保育は補助金が少なくなるため維持できなくなるんです。

もちろん、一番シビアな区は何処かというと西成区なんですが、その次が生野区、大正区。続いて平野区、東住吉区がしんどい状況です。大正区は都心へのバスも路線も多く、決して不便ではないのですが、やはりイメージ的に場末感がある区ですから厳しいと思います。そんな中、筋原大正区長も一生懸命頑張っていますし、うちの大学も平尾商店街に入って空き店舗を改装し、「リノベ・平尾・大正」というのをやっていて、地域の魅力を生かしたリノベーションを考えるなど、さまざまな取り組みをしているのですが、相変わらず子どもの減少が止まりません。


▼大阪の困窮度は全国一

説明が長くなりましたが、現在は全国896の福祉事務所が、このような仕組みで動いています。立て付けとしては「自立相談窓口」が絶対必要で、これがないと次へ進めません。皆さんが市役所へ行かれたら必ずあるのがこの窓口で、最低2名の職員が対応してくれます。「住宅確保給付金」の窓口も必ずありますが、これ以外は任意事業で、現在はだいたい4割ほどの自治体が取り組んでいます。大阪全体が取り組んでいるのは「就労準備支援事業」で、他はやっているところとやっていないところがあります。「一時生活支援事業」のシェルターに関しては、各区でやると効率が悪いので、大阪市全部で一括して窓口を設けて別途やっておられますが、その中心が福祉局です。今日の話で言いますと、皆様のネットワークや支援や知り合いの形を、是非ともこの新しいセーフティネットに入れ込んでいただけたらというのが私のひとつの願いです。

では、実際どうなのか。相談件数を人口10万人あたりで割った場合、実は大阪府がダントツ(最悪)なんです。2番が神奈川県、そして、愛知県、福岡県、兵庫県、高知県、沖縄県、千葉県、埼玉県、北海道、静岡県、岡山県、群馬県、福島県、長野県、岩手県と続きます。相談件数で比較しますと、大阪府は約2万8,000件なのに対して、二番手の神奈川県の約1万5,000件と比較しても1.5倍です。これをどう評価したら良いのか。私はこのことを大阪市役所も含めてあちこちで言っていますが、困窮度を数字で表すと、今は大阪がダントツで高い数字が出ます。ただ、大阪市の区によっても大きな格差が出ています。私は西区の区政会議の議長をしていますが、西区は豊かな区で、人口もドンドン増えていて、堀江地区は小学校・中学校共にパンク状態で全然足りません。堀江は大正区の目と鼻の先で、大正橋を渡ってすぐなのですが、三軒家東小学校は「西区の生徒さんをウチで受け入れましょうか」という話をするほど定員に満たない状況です。人口で比較しますと、中央区、西区、天王寺区、北区では、過去5年間で10万人以上増えていますが、一方、一番減っている西成区は人口減少が止まらず、この5年間でまた1万人減りました。大正区も6,000〜7,000人減っています。西成区、大正区、東住吉区、平野区、生野区、北のほうで旭区が、さまざまな混乱現象を抱えているのではないかと思います。混乱度が高いことは事実ですが、逆に言えば窓口が頑張っている、あるいは掘り起こしていると言うこともできるかと思います。しんどいけれども、大阪の現状は福祉が頑張っているとも言えます。


▼住むところを失った人は

どの事業が一番よく利用されているかを件数別で見てみますと、「自立就労」が一番多いですね。「声をかけたら自分で就職した」というのが一番有り難い話です。つまり、大部分の人は訓練や準備を間に挟まなくても窓口対応で自分で就職できているということです。もちろん、困っている人には就労準備、就労訓練、住宅確保を使うのですが、そういった支援メニューを使う前に就労される方が多いです。自立就労の次に多いのは「一時生活」事業で、これがいわゆる「ホームレス事業」です。一方、就労準備、就労訓練など、手間暇がかかるものは件数が少ないです。ですので、この生活困窮者自立支援法は、まず就職のお手伝いをするという本来の目的が、この数字から見えてくるのではないかと思います。
次に、一時生活支援事業の中身を少し紹介させていただきます。現在、全国で1万6,000件の利用がありますが、大阪はそのうち9,000件を占めていますから、実に全国で支援を必要としている人の4割以上が大阪に居られることになります。逆に言えば、大阪にはそれだけ支援団体が多いとも言えますが…。因みに、この一時生活支援事業を利用する人のイメージですが、皆さんはどのような人がこの事業を利用されると思いますか? だいたい年間4万人ぐらいの人が「家がない」あるいは「家賃を滞納している」といったSOSを発します。

皆様の中にも賃貸アパートで収入を得ておられる方がいらっしゃると思いますが、家賃の不払い、払えない入居者からの回収は、やはり大きな問題だろうと思います。そのように大家さんがしんどい思いをするのを肩代わりする業者が出てきていますが、大正区や西成区では、不動産業者がそういう事業に当たっておられます。街の不動産屋さんの主な仕事は何かといいますと、最近は賃貸物件の商談だけではなく、大家さんが近所に住んでおられない所も多いので、賃貸物件の管理業もやっておられます。リクルートがこの事業に大々的に取り組んでいます。これまでは、店子(たなこ)に面と向かって取り立てていたのですが、この法律ができたことで「払えないんやったら、まず生活困窮者自立支援の窓口に行きませんか?」と、横に座って一緒に考える方針に変わりつつあります。

少子高齢化時代ですから、不動産業者もいかに良い付加サービスを提供するかという方向に動き始めています。大東建託という管理業大手や、ダイワホーム、パナホームといった住建メーカーも、高齢の大家さんに新しいアパート経営をしてもらうにはどうすれば良いか。老朽化した家がたくさんあるけれども、どうすれば良いか判らない人も多い。そういった現状を踏まえると、付加価値を高める必要性は大都市には不可欠ですね。より付加価値の高い支援付きのものを導入していくためには、管理業者やNPOの支援が必要になります。そういう支援を合わせていくことで、なんとか街で暮らしていくことができるのではないかと思います。

全国で毎年4万もの人がSOSを発していますが、そのうち路上生活をしている人は、今はだいたい3割を切っています。つまり、SOSを発している時点で、路上に出た人は3割に留まっていて、残りの7割の人が「1カ月後はどうなっているか判らない」、「屋根のある所で暮らしているけれども、知り合いの家を転々としており、家賃も払っていない」といった寸前の人が大勢を占めるようになってきています。大阪も昔は2,500ほどあったテント生活者も、現在は西成公園で10、三角公園(萩之茶屋南公園)、四角公園(萩之茶屋中公園)、あいりん地区に20ほどあるぐらいで激減していますので、テント生活者はある程度カタが付いたと言えます。

今問題になっているのは、駅で段ボールで暮らしている人ですが、大阪でだいたい500人ぐらい居られると思います。大阪は今年の1月の段階で、現在約1,600人の路上生活者が居ると発表していますが、実際に路上生活に出ている人は500人程度で、後はシェルターに入っている人々です。大阪は緩いカウントを取っており、路上生活者は釜ヶ崎あいりん地域の夜間シェルターに入っている人の数もカウントしています。実は、東京はシェルターに入っている人は勘定していません。今年1月の発表では、大阪が約1,600、東京が約1,500でしたが、仮に東京都もシェルターに入っている住居喪失者にカウントした場合、その数は2,500に膨らみますので、ダントツで多いことになります。あまり正直に言うとショックが大きいのか、厚生労働省はわざと言っていません。大阪は国からの交付金が欲しいですから、もうあけすけに言いますが…(会場笑い)。


▼シェルターとしての刑務所、ヤクザ、病院

「住居喪失者」あるいは「住居不安定者」とわれわれは呼んでいますが、本人あるいは家族名義の住居に住んでいる人が、だいたい16%います。例えば、自分の家に住んでいるけれども維持することができない状態、つまり家庭内ホームレスの方が、もはや引き籠ることができなくなった状態です。親が居ない、もしくは親が死に体だけれども、名義変更がされていないため財産処分も大変です。しかし、財産処分を始めると生活保護を受給できないので、「シェルターに行こう」という話になります。また、以前に比べて数はずいぶん減りましたが、医療施設から退院後、行き場がない方も居られますし、派遣業に従事していて社員寮に住んでいる人は、仕事の契約期間終了後は社宅を出て行かなければなりませんが、次の仕事へとうまく繋げることができず、行き場を失う人も居ます。ホテル、旅館、簡易宿舎や、サウナ、ネットカフェ、ファーストフード店、もしくは他の団体が提供するシェルターや知人の家、飯場を転々とする人もこれに該当します。

近頃は刑務所も多いです。私は今年に入って2回刑務所で講演をさせられたのですが、問題になるのは刑務所を満期出所した人の場合です。仮出所の人は保護観察が付くので、一応管轄内の施設を利用できるのですが、満期出所の人の場合はそういった支援がありません。以前はヤクザさんも良いシェルターだったのですが、最近は、昔のように「出所後も組で面倒を見る」というより、高齢者用のアパートを元組員に提供したり、最初から「高齢者お断り」というところもあります(会場笑い)。そういったセーフティネットも使えない人たちが、かなり多く、満期で出てくる人は「窃盗(万引き)や無銭飲食といった軽犯罪を10回、20回、と重ねるぐらいなら、刑務所の生活のほうが楽」という人も居ます。1回出てきても一度でも無銭飲食したら実刑で即刑務所行きですが、これを繰り返す訳です。そういう方々は手癖が悪かったり所持金が少ないこともありますが、ちょっと支援があればすぐ地域生活に移行することが可能ですが、今ようやくそういう方々を受け入れるシステムが少しずつ見えるようになってきています。

ホームレス支援に取り組んでいる団体が提供した施設に入っていただくのですが、全国の刑務所から満期出所の方が出てこられた時に、ふと釜ヶ先を思い出す方も結構居られるようです。私は西成区で刑務所を出てきた方に住居を斡旋(あっせん)している業者の方に聞き取りも行っていますが、行き場のない人も多く、需要が多いことを実感します。私も知らずにそういう人たちの現場に行ったんですけれども、結構、現役の組員の方も居られて、道端で刑務所を出てきた人に声をかけて「部屋要る? どんな部屋が良い? 三畳でオーケー?」といった調子で、ものの10秒ほどで決まってしまいます。そして一緒に福祉事務所に赴いて生活保護を申請し、住居を紹介します。紹介する受け入れ先の簡易宿泊所は、それで賃貸を得ていく訳ですが、出て行ったら出て行ったで次の人が入ってくる。もし仮に長生きして長居した場合は、優等生として一般アパートに転居し、今度は街の不動産屋さんがカバーしていくという、フレキシブルで面白いシステムです。まだ明らかにされていない部分もありますが、今回こういった話を1冊の本にまとめたものを3月に出版しますので、ご関心のある方には読んでいただけたらと思います。

さまざまな人がホームレスの状況にあり、しかも、そういう人々が年間4万人に上るということ……。また、全体の8割が生活保護法を利用しており、1割強がホームレス自立支援法(現在は一時生活支援事業)を利用して、地域で暮らせるようにと動いていく訳ですが、地域に移った時に、何割ぐらいの方々がこういった法律を利用して何とか次のステップに進んでいると思いますか? 一番良いのはアパートに住むことですが、アパートに住める確率は、われわれの調査によりますと6割です。これを「6割も」と捉えるか、「6割しか」と捉えるか微妙なところですが…。では、アパートの次にあたる場所は何処だと思いますか? 実は病院なんです。それまでは行くこともできなかったけれども、支援を受けることによって病院に入ったというケースです。肝臓や高血圧など、治療が必要なケースで入院する人が15、6%います。もちろん、社会福祉施設に入るケースもありますし、結果的に死亡されることもあります。その他、失踪される方も多いので、全体が上がっていく流れには、なかなか反転しません。そういった所で、さまざまな支援団体が活動していくことになります。


▼国家予算の半分近くがセーフティネット

あとは予算をご覧ください。これは2002年から2014年までのホームレス対策予算の推移です。このホームレス対策は、2002年に国がちゃんと予算化し始めた新しい法律なんです。当初の数年間は、だいたい30億円の予算で推移していますが、「派遣切り」が問題になり、日比谷公園に年越し派遣村が開設された2010年は自民党から民主党に政権が移る時でしたが、「家がない人を救わないといかん」という反派遣、反貧困のうねりの中で、政府は予算化の措置を執らず基金を取りつぶす形で、「絆(きずな)再生事業」を発動して、内閣府と厚労省が動いて独自の判断で一挙に115億円まで予算額を上げました。この勢いが生活困窮者自立支援法に繋がり、初年度はたった700億円でしたが、現在では、生活保護費の予算総額は10兆円にまで急増しました。政府の一般会計総予算は100兆円ですので、10兆円が生活保護、15兆円が介護保険、20兆円が医療です。要するに、国の全予算の半分近くがセーフティネットに使われている訳ですが、今後少ない予算と少ない人で効果的に支援を打つには、この制度を大事に育てていかなあかんと思っています。

次に、ホームレス支援における大阪の状況をお伝えしておこうと思います。11番目の資料をご覧ください。各県の一時生活支援事業利用件数を比較した場合、大阪府がダントツです。2位が京都府ですが、大阪は京都の8倍ぐらいあります。神奈川県、福岡県、東京都と続きますが、住居に関するSOSを受けて支援する件数を全国で比較した場合、大阪が飛び抜けて高いことがお判りいただけると思います。大阪市は厚生労働省とずいぶんやり取りをして、結局この数値に落ち着きました。これは何かと申しますと、あいりん地区に生活ケアセンターという2週間から3カ月間タダで利用できる施設があるのですが、そこを10回、20回、30回と、何回も利用する人が居るのです。「そういった人々がダブルカウントされているけれども良いのですか?」と大阪市は何度も厚生労働省に尋ねたそうですが、「制度上、これもシェルターですから、予算も一時生活支援に使ってください」とのことでした。現在数値上は9,900以上ありますが、ダブルカウントの人が大勢居ることを考えると、実際は2,000弱ぐらいではないかと思います。それでも全国1位であることには間違いありませんが…。

誤解のないように申しますと、大阪はもちろん困っている人も多いですが、大阪は助けるための施設も揃っているということです。やはり大阪市の職員さんは、基本的に福祉に優しい心を持った人が多いところで、できるだけ敷居を低くいろんな人を受け入れる伝統があり、そのため、さまざまな社会福祉法人も周辺にある訳です。「それこそが生活支援を求める人を大阪に呼び寄せる原因になっているのではないか」と問われる部分でもありますけれども、私自身は原則として福祉は万民に開かれたものでなければならないと思いつつ、効率性も必要なのだろうだと思っています。


▼宗教界の支援

最後に、大阪だけだと判りにくいかもしれないので、ごく普通の事例として、大阪市、福岡市、川崎市、京都市、那覇市、岡山市、横浜市、札幌市のうち、岡山市と札幌市の取り組みや、使っている施設の写真をお見せしようと思います。大阪だと釜ヶ崎の印象が強いですが、例えば岡山の事例ですと、3,300万円を一時生活支援事業に使っていますが、これは民間のNPOがやっているもので、マンションを丸ごとシェルターにしました。ご覧の通り、普通のマンションです。この後ろ姿のお2人がNPOの代表となっておられますが、ここに座っているのが、このシェルターを利用している若者です。岡山は十代から二十代の若者が多く、家に居れない人がこういったシェルターを利用しています。このように、共有の居間がありますが、マンションの各部屋がそれぞれの居室になっています。だいたい1人当たり5,500円のお金が国から下りますので、食費を賄って、支援品やベッドなどを備え付けています。ここで2週間から3カ月ぐらい、就労活動をしながら無料で寝泊まりをすることができます。

その後、卒業するか、巧くいかない場合は生活保護をもらうという形で一般アパートに移っていきます。大阪では天理教さんが刑務所を出た方を対象に一時生活支援事業をやっておられますね。岡山のこの団体は、弁護士さんや司法書士さん等々と連携して活発に活動されています。金光教さんは天六の大阪希望館では一緒にやらせてもらっていますが、ここはもともとカトリックの炊き出しから始まったところですが、現在はカトリックに限らずプロテスタントなどキリスト教系の方が多いです。若者が共同生活を送っていますが、家族の絆を失った方にとって共同生活は、ある種温かみも感じられる部分もあると思います。

次に札幌の事例ですが、手前の女性が札幌市の一時生活支援事業自立相談窓口で受け付けている人です。この人の紹介で訪れたアパートが「NPO法人みんなの広場」のシェルターです。「ちょっと就労は無理かな」という中高年の人たちが生活保護を取るまで支援をするのがここのやり方です。これは(写真を示しながら)一時相談窓口がある札幌市北区北二十四条は繁華街ですが、札幌は空きビルが一杯ありますので、そこに窓口を設けています。もうひとつは同じく札幌市ですが、このアパートの2階に、就労間近な若い人たちが集団生活を送るオフィスがあり、こちらの写真がそれぞれの居室になります。皆さん、しばらくここで過ごされた後、仕事に就いて出て行かれます。こんな風に既存のアパートなどを巧く利用しつつ、支援の人を受け入れて一時生活支援が行われていますが、皆さんにもその実態が少しお判りいただけたかと思います。

海外に目を向けますと、韓国でも宗教団体が非常に熱心ですが、韓国の場合は主にキリスト教団体ですが、仏教団体も支援活動を行っています。街の資源を利用する時に、宗教団体さんのネットワークは非常に重要です。私は全国どこでも知り合いが大勢いますので、もしご関心のある方が居られましたら、お声がけいただければ何処でも飛んでいきますので、ご紹介いただければ有り難いです。こういう新しいセーフティネットがあるということを皆さんの周囲の方々にもお伝えいただき、支援の輪を広めていただけたらと思います。少し時間をオーバーしましたが、私の講演はこれで終わりとさせていただきます。どうも有り難うございました。



(連載おわり 文責編集部)

 


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