イスタンブールでG20諸宗教サミットに

2015年4月14日〜15日
金光教泉尾教会 総長
三宅善信

 2015年11月16日から18日までの3日間、トルコのイスタンブールで、世界各国から約300人を集めて、『宗教・調和・持続的発展』をテーマにG20諸宗教サミットが開催され、日本人としては唯一人、善信先生が参加され、全体セッションのモデレータや分科会のパネリストを務められた。

▼G8からG20へ

このG20諸宗教サミットは、2006年以来、G8主要国首脳会議開催国の宗教界が持ち回り当番となって毎年開催されてきたG8宗教指導者サミットが、ウクライナ問題による欧米との対立でロシアの離脱した(G8からG7サミットへ)ことに伴い、G7主要国首脳会議のテーマが経済問題から1970〜80年代に盛んに議論された西側諸国の集団安全保障問題へと先祖返りしたので、開発や経済発展に伴う富の再分配などを主に討議してきた従来の枠組みでの宗教サミットが開催困難になったことを受けて、中国・ブラジル・インドといった新興国に、オーストラリア・サウジアラビア・南アフリカといった資源国を加えて新たに世界経済の中心的プレイヤーとなったG200首脳会議に合わせて、宗教界の声を世界に向けて発信する手段として昨年再構築されたものである。

トルコで開催されたG20諸宗教サミットの開会式
トルコで開催されたG20諸宗教サミットの開会式

特に、今回の諸宗教サミットは、WCRP(世界宗教者平和会議)やIARF(国際自由宗教連盟)やURI(宗教連合構想)やPWR(万国宗教会議)などの既存勢力に加えて、国際的宗教対話の「新しいプレイヤー」として昨年のオーストラリアに続いて今回のG20諸宗教サミットを主催し、新たなフォーマットを確立した豪州グリフィス大学宗教文化対話研究所のブライアン・アダムス所長と、「ホスト」として今回のサミットを共催したトルコのスルタン・メフメット大学文明間対話研究所のレセプ・センチュルク所長らに加えて、これまで、各国で順次開催されてきたG8宗教指導者サミットをホストしてきたフランス正教会のエマニュエル府主教、カナダ教会協議会のカレン・ハミルトン事務総長、イタリアの聖エジディオ共同体のアルベルト・クアトルッチ事務総長、米国ジョージタウン大学のキャサリン・マーシャル教授と日本の私が一緒になって新しいスタイルの諸宗教サミットの運営に協力したことが特筆される。

直前(11月13日)にパリで発生した同時テロ事件や今年になってシリア等からヨーロッパに大量の「難民」が流出する「経由地」となっているトルコでの開催だけに、メディアからも大きな注目を集め、会場となったトプカピホテルで11月16日の午後1時から催されたセッションには、正式の開会式が翌日であるにも拘わらずテレビのカメラが並んだ。また、夕方7時から同ホテルの宴会ホールで開催された歓迎晩餐会では、レセプ・センチュルク所長の司会進行で、トルコ共和国首相首席顧問のベキル・カルリガ国連諸文明連合トルコ国内委員会会長が受け入れ国を代表して歓迎の挨拶を行った。また、イスタンブールのイスラム教最高指導者であるラミ・ヤラム師、フランス正教会のエマニュエル府主教、ハイナー・ビレフェルト国連信教の自由委員会特別報告者、米国国際信教の自由問題担当大使のデビッド・サーパースタイン氏、オーストラリア政府人権委員会のティム・ウイルソン委員長らが、参加者を代表して祝辞を述べた。

▼議論三昧の宗教サミット

翌17日の午前9時、トプカピホテルの一番大きな会議場で、『宗教と持続可能な開発』というテーマで開会全体セッションが始まった。イタリアの国際法学・宗教学コンソーシアム(共同体)のコール・デュルハム会長がモデレータとなって、元世界銀行総裁顧問の米国ジョージタウン大学宗教・平和・世界問題研究所のキャサリン・マーシャル教授、トルコのレセプ・センチュルク所長、米国LDSチャリティのシャロン・ユーバンク人道奉仕部長、米国の信教の自由とビジネス財団のブライアン・グリム会長、フランスのガイダンス金融グループのモハマド・アモール会長らが、経済的観点から見たこの問題に対する見解を述べた。

G20諸宗教サミット全体討議のモデレータを務める
G20諸宗教サミット全体討議のモデレータを務める

私はこの全体討議の際に、中世のペルシャの神秘主義哲学者アル・ガザーリの言説を例に挙げて、同じ神を戴く「啓典の民」であるところの一神教徒(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)相互間で通じる共同体概念や相互扶助の精神が、仏教やヒンズー教などの「そうでない宗教」を戴く人々とシェアすることが可能かという趣旨の質問をフロアから行い、注目を集めた。何故なら、300名におよぶ今回のサミット参加者の中で、恐らく私1人が、非一神教徒ではないかと思われたからである。

30分間のコーヒーブレイクの後、4つの分科会に分かれて、A分科会では『難民救援と宗教』と題して、B分科会では『宗教と平和と持続可能な共同体』と題して、C分科会では『宗教とビジネスと経済的発展』と題して、D分科会では『イスラム金融と開発理論』と題して、それぞれのセッションが同時並行で進行した。今回G20諸宗教サミットでは、サブテーマごとに、全体セッションや分科会が数多く設けられ、1枠90分単位で、それぞれにパネリスト4、5名が約15分ずつプレゼンテーションを行い、モデレータの進行によって、会場からの質問を交えて議論を進める形式で、全体集会ならびに4カ所で並行する分科会が開催された。こうして3日間に140名以上の発表者が登壇して、持論を展開し、他のパネリストやフロアからの質問に答えるという密度の濃いサミットであった。1時間半とタップリ時間の取られた昼食時にも、地元トルコをはじめ、欧米各国から参加した上院議員や下院議員といった政治家たちが数名登壇して、次々とスピーチを行った。

午後2時半からの全体セッション『信教の自由と経済的発展』では、インドのアミティ大学の創設者であるタヒル・マフムード前理事長がモデレータとなって、インドのナルサル法科大学のファイザン・ムスタファ副理事長、ベルギーのルーベン・カトリック大学のマリクレール・フォブレ社会人類学研究所長、イタリアの欧州大学のパスカル・フェラッラ事務局長、米国国際信教の自由委員会のカトリーナ・スウェット委員長らがパネリストとなって、90分間の討議が行われた。コーヒーブレイクの後、4つの分科会に分かれて、A分科会では『宗教と生産・適切な雇用』と題して、B分科会では『宗教と質の高い教育と文化的発展』と題して、C分科会では『宗教と健康・福祉』と題して、D分科会では『貧困の緩和と宗教』と題して、それぞれのセッションが同時並行で進行して、この日のプログラムを終えた。

▼全体集会のモデレータと分科会のパネリスト

サミット最終日の18日の9時からの全体セッション『持続可能な発展における信仰的展望』において、私は、カナダ教会協議会事務総長のカレン・ハミルトン博士と共に共同モデレータを務めた。ハミルトン博士とは、2007年以来、G8宗教指導者サミットの継続委員としてずっと一緒に仕事をしてきた「盟友」であり、お互いに気心も知れている。この全体セッションでは、米国の国際宗教的自由協会のガノウン・ディオプ事務総長、ニュージーランドのユネスコ諸宗教理解と関係委員会のポール・モリス議長、南アフリカのシュテレンボッシュ大学神学部のピーター・ケルツェン名誉教授、中国社会科学院世界宗教研究所の?筱?副所長らのパネリストが発表する中、私はモデレータとして、専ら一神教的観点からしか論議を展開しえないパネリストたちをそうでない視点へ関心を向けるように注意を喚起しながら、ヘブライ語やギリシャ語やラテン語の知識を活かして、モデレータとしてパネリストそれぞれの主張を巧く引き出すことができた。

全体討議のモデレータとして問題点を指摘する
全体討議のモデレータとして問題点を指摘する

よほどこの全体セッションにおける私のインパクトが強かったのか、30分間のコーヒーブレイクの時間を利用してテレビ局のインタビューを受けることになった。日本のマスコミは、宗教関係者(特に「新しい宗教」)のメディアへの出演を嫌う傾向が強いが、海外ではまるでその逆で、社会的に意見の分かれる問題について、積極的に宗教者の見解を取材し、テレビ番組で紹介する。今年(2015年)だけでも、私が外国のテレビ局の取材に応じたのは、8月にイタリアとポーランドと韓国の、10月にはアメリカのテレビ局からのインタビューに続き5度目である。私はこういった機会を利用して、日頃はなかなか発信されない日本の主張を大いに展開することにしている。

コーヒーブレイクに続いて開催された4つの分科会、すなわち、A『宗教的遺産の保護』、B『宗教と環境と持続可能な発展』、C『NGOパネル:社会的・諸宗教的結集の提唱者としての青年』、D『ロシアと中央アジア地域パネルI』のひとつである『宗教と環境と持続可能な発展』において、私は、トルコ教育省のイブラヒム・オズデミル国際局長、インドのマディンアカデミーのセイイド・ブフハリ理事長、バチカンのドミニコ・セッサ駐トルコ大使らと共にパネリストを務め、古代メソポタミア文明と縄文文明を比較しつつ、神話がそれぞれの民族の環境問題に対する理解を含む世界観・死生観はもとより、「神」理解についても大きな影響を与えたという点について発表を行い、大いに注目を集めた。

▼宗教サミットのあるべき姿

昼食休憩後も、3つの分科会に分かれて、A分科会では『中国における精神的な資本と経済的な発展』と題して、B分科会では『女性と宗教と持続可能な開発』と題して、C分科会では『ロシアと中央アジア地域パネルU』と題して、それぞれ90分間のセッションが同時並行で進行し、コーヒーブレイク後もさらに、3つの分科会に分かれて、A分科会では『人道支援組織と持続可能な開発』と題して、B分科会では『文明間の対話』と題して、C分科会では『アジア太平洋地域における諸宗教対話地域パネル』と題して、それぞれ90分間のセッションが同時並行で行われた。

環境問題に関する分科会で発表を行う
環境問題に関する分科会で発表を行う

3日間にわたるG20諸宗教サミットを締めくくる晩餐会でも、多くの著名人が入れ替わり挨拶を行い、宗教家や学者のみならず、国際機関や政界・経済界からも多くの有力者がマイクを持って登壇し、あるいはプレゼンテーションを行い、世界各国からのべ百数十人の専門家の意見を聞き、これにコメントを加えることができたこと自体、日本で見られがちな「一部の偉いさんが登壇して決められた挨拶文を読むだけ」の予定調和的な「国際会議」よりははるかに有意義であったが、同時に、宗教者のみならず、欧米や中東の政治家や経済人にとってみれば、「世界は一神教徒によって成立している」と無意識に考えて議論を展開しているが、「世の中はそれほど単純ではない」ということを自覚して貰う意味でも、私の参加は、G8宗教指導者サミットから衣替えしたG20諸宗教サミットにおいてもエポックメイキングな出来事であった。ただ、惜しむらくは、日本人の参加者が私1人であったということである。来年のG20諸宗教サミットに一人でも多くの日本人宗教者が参加して、宗教界だけでなく、各国の政界・経済界のリーダーともドンドンと意見をぶつけて欲しいと願うと同時に、これまで10年間にわたって積み上げてきたG8宗教指導者サミットの成果を具現化させてもらいたいと思った。





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