ボルドーでG8宗教指導者サミット

 5/23〜24

 ノルマンディー海岸のリゾート地ドーヴィルで開催されるG8主要国首脳会議(通称:G8サミット)に先立ち、2011年5月23日から24日まで、世界的なワインの産地であるボルドーにおいて、G8宗教指導者サミット(略称:G8RLS)が開催され、G8各国は言うまでもなく、昨年末来、急激に民主化が進展しつつある中東やアフリカ各国から三十数名の宗教指導者が参加した。


アンドレ・カラマガ全アフリカ教会協議会事務総長のスピーチを聴く参加者

 23日朝、オテル・プルマン・アキテーヌの会場には、各国から参集した宗教指導者が色とりどりの衣装を着けて着席した。今年度の受け入れ国代表(ホスト)を務めるフランス正教会のエマニュエル府主教の開会宣言でG8宗教指導者サミット2011が始まった。まず、地元ボルドーを代表してカトリック教会のジャンピエール・リカール枢機卿が歓迎の言葉を述べた。続いて、アラン・ジュペ市長(現サルコジ政権の外相を兼任)やサウジアラビアのファイサル・ムアマール副教育大臣や昨年のG8RLSでホストを務めたカレン・ハミルトンCCC(カナダ教会協議会)事務総長らが祝辞を述べた。


参加者による記念写真

 国際ユダヤ教諸宗教対話委員会のリチャード・マーカー議長が基調講演を行ったのに続いて、第1セッションとして、「世界統治の再構築」をテーマに、トロイのマルク・シュテンガー司教を座長に、全アフリカ教会協議会のアンドレ・カラマガ事務総長とロシア正教会のヘグメン・ブレコフ渉外局副局長がそれぞれ発題を行い、フロアの参加者とディスカッションが行われた。今回のG8RLSの特徴は、なんと言っても「深い議論」である。この種の諸宗教会議でありがちな、著名な高位聖職者を雛壇に並べて、差し障りのないことを一言ずつ喋らせるような形だけの会議ではなく、それぞれの問題について一見識ある宗教者が持論を展開し、それに対して、宗教的文化的背景の異なる宗教者から疑問や提言がなされ、一層、議論が深まってゆく…。


大震災や原発事故等で大変な時期にもかかわらず、
遠路日本から参加した三宅善信師に謝意を述べるエマニュエル府主教

 昼食休憩を挟んで、第2セッションとして、「マクロ経済」をテーマに、ユダヤ教のR・マーカー議長を座長に、ベルギー教会協議会のルディヘル・ノル社会部長が発題を行い、フロアの参加者とディスカッションが行われた。特に、2008年秋のリーマンショックショック以来、世界の政治指導者の関心が自国の経済の安定を最優先するあまり、「ミレニアム開発目標(略称:MDGs)」や「地球温暖化防止」といった全人類的・地球的課題に向けられなくなったことをどう取り組ませるかという観点から議論が盛り上がった。


「気候変動」セッションで発題をする三宅善信代表

 続いて、第3セッションとして、「気候変動」をテーマに、正教会全地総主教の神学顧問であるジョン・クリサフギス博士を座長に、英国国教会首座カンタベリー大主教の名代ガイ・ウイルキンソン師と三宅善信代表がそれぞれ発題を行った。昨年のカナダ・ウイニペグでのG8RLSでも「気候変動」問題のパネリストを務めた三宅善信師は、冒頭、今回の東日本大震災に寄せられた各国からの弔意や物心両面の激励に対してお礼を述べた後、「先進各国でその達成が諦められた感のある『京都議定書』の温暖化ガス排出規制値が、大震災による原発事故で3分の2もの原発の停止が余儀なくされたことによって、日本国民を挙げての20%もの節電運動が達成されつつあるが、そのことのひとつのきっかけとして天皇陛下による皇居の毎日2時間の自主停電が国民各層に節電意識をもたらせたことを紹介し、MDGsの達成も、豊かな先進国から貧しい途上国へ援助するという『上から目線』ではなく、先進国の人々が自らの便利で快適な生活を少し犠牲にして、自らも不自由を受け入れ弱者の生活に連帯感を示す以外にない。そのためには、マーケットエコノミー至上主義を退けるべきである」と述べ、熱の籠もったディスカッションとなった。


パネリスト同士での討議で盛り上がる

 さらに、第4セッションとして、「開発」をテーマに、英国シーク教のバハイ・シングQNNSJ議長を座長に、聖エディジオ共同体のジャン・デボルダー男爵とベルギーのドリス・ペシュケ欧州における移民協議会事務総長がそれぞれ発題を行い、昨年末の政情不安以来、アルジェリアやリビアから大量に流入している避難民をいかに保護するかという欧州各国にとって関心の高いディスカッションが行われた。また、この日の夕食会の席上、『MDGs達成のための緊急行動』と題するスピーチがK・ハミルトン師から行われた。


夕食会の最中もスピーチが行われる

 翌24日は、エマニュエル府主教の再開宣言に続いて、第五セッションとして、「平和への投資」をテーマに、レバノンのムスリム・クリスチャン委員会ムハマド・サッマク議長を座長に、シリア正教会の首座グレゴリオス・イブラヒム府主教とドイツEKD(ドイツ福音教会連盟)のマルチン・アホルデバッハ博士がそれぞれ発題を行い、フロアの参加者とディスカッションが行われた。


サウジアラビアの教育副大臣、シリア正教会の首座府主教、
国際ユダヤ教諸宗教対話委員会議長と三宅善信代表

 続いて、第6セッションとして、「平和のための多宗教強力の力」をテーマに、WCRPのウイリアム・ベンドレイ事務総長がスピーチを行い、宣言文起草委員長を務めるユダヤ教のR・マーカー博士から二十四カ条にわたる宣言文案が読み上げられ、フロアから数々の修正要請がなされて文言が修正された後、採択された。また、この度の東日本大震災の被災地において、諸宗教団体が協力して支援活動を行っている様子が、英文による資料と共に懸野直樹野宮神社宮司から報告され、注目を集めた。


カナダの放送局からインタビューを受ける三宅善信代表

 最後に、地元の宗教界を代表してリカール枢機卿とホストを務めたエマニュエル府主教が謝辞を述べ、26日からドーヴィルで開催されるG8主要国首脳会議に提出するため、25日にパリのG8サミット事務局へ『宣言文』が届けられることを報告して、二日間に及ぶG8宗教指導者サミットは閉会した。なお、会議終了後、これまでG8RLSに5回連続参加しているK・ハミルトン師(カナダ)と三宅善信師(日本)とM・アホルデバッハ師(ドイツ)と、来年のG8RLS開催国である米国のR・マーカー博士によって「G8RLS継続委員会」が構成され、2012年に向けての準備作業が始まった。


米国での2012年G8RLSに向けて継続委員会が持たれる

 G8宗教指導者サミット(略称「G8RLS」)は、G8主要国首脳会議(通称「G8サミット」)が開催されるのに合わせて、世界の宗教者からの声を政治的指導者に提言するために、英国国教会の呼びかけで2005年から開催されている諸宗教対話会議で、特に、2000年に世界百数十カ国の首脳が一堂に会して開催された国連ミレニアムサミットの際に採択された「ミレニアム開発目標(MDGs)」の実現がおぼつかない中、この達成期限である2015年までに何がなんでもこれを達成させることを政治指導者に求めるものであり、これまで、G8主要国首脳会議と同時期に、英・露・独・日・伊・加の順に6回開催されてきた。



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