クローン人間問題に対する宗教界の反応
生命操作には、終始一貫して大反対:「大本」の見解
大本(出口紅教主、本部:京都府亀岡市)では、脳死臓器移植、遺伝子組み替え食品、クローン技術のヒトへの応用に繋がるES(万能)細胞研究のヒトへの応用等のあらゆる「生命操作」に対して、教団を挙げて反対してきた。
今回のラエリアン・ムーブメントによる「クローン人間誕生」のニュースに対しても、同教団は、代表役員名で直ぐに「反対表明」を行った。以下、同表明文の内容を大本教団のサイトより紹介する。同教団の詳しい見解を知りたい人は、直接、大本のサイトで確認していただきたい。
2002年12月27日付の同教団の「見解」は、以下の通りである。
▼"クローン人間"誕生に対するコメント
スイスに本部を置く新興教団による"クローン人間"誕生が報じられたが、もしこれが事実なら、極めて遺憾なことである。
クローン人間の誕生は、悠久の歴史をもつ"自然の摂理"ないし"進化の法則"に反する重大な過ちであり、このことは人類の生存さえ脅かすものと大いに危惧するものである。
宗教法人 大本 代表役員 島本邦彦
また、2002年4月8日付の小泉純一郎総理への同教団の「要望書」の内容は、以下の通りである。
▼「人クローン胚作製の全面禁止」に関する要望
4月6日付読売新聞によると、「クローン人間計画の推進者であるイタリア人医師セベリノ・アンティノリ氏は、アブダビでの講演で、クローン技術による妊娠に成功し、現在8週間に達していると発表した。事実とすれば、史上初のクローン人間が年内にも誕生する可能性がある」と報じられた。
クローン人間誕生は"自然の摂理"や"生物進化の法則"に反する重大な過ちである。さらに、クローン牛に見られる高い死亡率や先天性の異常発現など、クローン技術に伴う危険性が指摘される中でこれを人間に応用することは、人類史に禍根を残す"科学の暴走"であり、科学技術が地球環境破壊を引き起こしたのと同様、人類そのものの生存さえ脅かす決定的な端緒となるものである。
わが国は一昨年12月、クローン規制法を制定し、いち早くクローン人間誕生を法律で禁じたが、クローン規制法に伴う研究指針(特定胚研究指針、昨年12月文部科学省告示)では、クローン人間につながりかねない「人クローン胚作製」については、将来の研究の余地を残しており、明確には否定していない。クローン人間誕生が現実味を帯びるなか、わが国はクローン人間のみにとどまらず、その禍根を断つためにも「人クローン胚作製の全面禁止」を明確にし、将来にわたってその研究の道が開かれないよう、強く要望するものである。
以 上
「人間を奴隷化する犯罪行為」とバチカンが非難
伝統的な教義から、中絶禁止をはじめ、あらゆる「生命操作」に反対しているローマ・カトリック教会(バチカン)は、今回の「クローン人間誕生」に対しても、間髪入れず、批判声明を発表し、国際社会に同調を訴えた。
▼ヒトクローンは、「人間を奴隷化する犯罪行為」とバチカンが非難
12月27日、スイスの新宗教教団ラエリアン・ムーブメントの関連企業による「クローン人間誕生」の発表を受けて、バチカン(ローマ教皇庁)は、「もし(クローン人間誕生が)本当だとすれば、ヒト・クローン技術は、人為的に人間をコピーする営みであり、人間を奴隷化する犯罪行為である」との非難声明を間髪入れずに発表した。
さらに、「国連などの国際機関や各国政府が早急に『ヒト・クローン禁止の法(条約)』を制定するするように」要請した。
▼クローン人間誕生をバチカンが疑問視
新宗教教団ラエリアン・ムーブメントの関連企業が、「世界初のクローン人間を誕生させた」と発表した問題について、翌12月28日、その後の情報収集を積極的に行ったバチカン(ローマ教皇庁)の報道官は、「ラエリアンの発表が、倫理や思慮に欠ける『非人間的な精神の表れ』である」とし、「クローン人間誕生の証拠が何も提示されていない」ことを指摘。「(ラエリアンの)発表は、科学的裏付けに乏しく、多くの科学者・医療関係者からは懐疑や道徳的非難を招いている」と述べ、教義的だけでなく、科学的にも断罪した。
早急なる法規制の実現を切望:「浄土宗」の見解
浄土宗(中村康隆門主・水谷幸正宗務総長)では、今回のラエリアン・ムーブメントの関連会社による「クローン人間誕生」のニュースに対して、伝統仏教教団の中では最も早く、12月31日付で、教団名での「反対表明」を行い、関係各方面から注目を集めた。以下、同表明文の内容を浄土宗のサイトより紹介する。同宗派の詳しい見解を知りたい人は、直接、浄土宗のサイトで確認していただきたい。
2002年12月31日付の同宗派の「声明」は、以下の通りである。
▼"クローン人間"誕生に対する浄土宗の声明
12月27日、本拠をスイスに置く宗教団体ラエリアン・ムーブメントの化学者がクローン人間づくりによって女児が26日に誕生したと発表した。そして、今後さらに4人のクローン人間の誕生が予定されているとともに新たに20数人の希望者がいると。
その真偽は別として、クローン人間とは、一口で言えば、細胞核を提供した人間の"コピー人間"である。
浄土宗はこのような生命を弄ぶとも言えるクローン人間づくりは決して認めることはできない。このような行為は、人間の思いあがり以外のなにものでもなく、大いなる「いのち」そのものへの冒涜といえよう。
生命の誕生は、すべての生物に与えられた神秘なものであり、冒してはならないものである。それを人間の手によって、人間の"コピー人間"をつくるという行為は、生命の軽視をもたらすだけではなく、まさに、コピーしたい人間をいくらでも再生産するということに直結し、それはまた、人間の優劣・差別、支配・被支配につながるとともに、奴隷人間の生産という修羅道への転落を予告するものである。
浄土宗は、すでにクローン人間づくりを禁止している日本政府に、今後このような生命を弄ぶともいえる、クローン人間づくりを禁止すべく、国際機関に早急なる法規制実現の働きかけを切望する。
平成14年12月31日