近代法のイロハも知らない韓国
07年05月03日



レルネット主幹 三宅善信


▼GDPの順位が下がる一方の韓国

  報道によると、5月2日、韓国大統領の直属組織「親日反民族行為者財産調査委員会」は、親日反民族行為者9人が所有する土地25万uと36億ウォン相当の財産を還収し国家帰属とする決定を下した。今回は、このことを通して、いかに韓国が、北朝鮮に優るとも劣らないとんでもない国かについて考えてみたい。

韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、大韓民国の59年の歴史で、初代大統領の李承晩(イ・スマン)氏と一二を争う虚け者であることは、後世の評価を見るまでもないが、李承晩氏の場合は、独立直後と朝鮮戦争という「困難の時代」でもあったので、失政は同氏のせいばかりとは言えない部分もあるが、第三代朴正煕(パク・チョンヒ)大統領以下金泳三(キム・ヨンサン)大統領まで四代の政権によって営々と続けられてきた努力によって、韓国が「既に先進国入りした」と言われるようになったが、第五代金大中(キム・デジュン)大統領になって狂いが生じた。言わずと知れた『太陽政策』である。この政策が失敗であったことは、「朝鮮半島の非核化」を論じる「六カ国協議」の継続中に、北朝鮮の独裁者金正日(キム・ジョンイル)政権が核実験を行ったことからも、明々白々である。

それにしても、それまでの韓国歴代政権のいわば「アンチテーゼ」として成立した金大中政権には、政治的にはそれなりの意味もあったし、国民の生活の質を高める経済成長もそれなりに確保されていたので、救いがまだあった。しかし、先進国入りした後の21世紀に入ってから大統領に就任した(註:インターネットを有効に使った選挙運動で大統領に当選したことからも象徴的)といういわば「恵まれた条件」であるにも関わらず、盧武鉉氏の場合は、同盟国である日米よりも敵対する北朝鮮を優遇するというトチ狂った政策を採り続けた。その結果、韓国がやっとのことで手に入れた「GDP世界第10位」(註:第1位の米国以下、日、独、英、仏、中、伊、加、西、韓)の地位をあっさりと、インドとブラジルに抜き去られ、第12位と順位を2つ下げてしまった。盧武鉉氏の任期が切れるまでに、ロシアとオーストラリアにまで抜かれる(第14位に陥落する)のは確実である。仮に、愚かな『太陽政策』が有効であったとしても、その太陽政策を実行するためには、こちらの懐が暖かく(経済的余裕)なければ、それこそ「お寒い話」になってしまうではないか。


▼国際社会によって認められていた日韓併合条約

  このように、盧武鉉政権の失政を数え上げればキリがないが、このたびの「親日反民族行為者財産調査委員会」による個人財産の没収は、大韓民国という国が「先進国ではなかった」どころか、「近代法治国家ですらなかった」ということを満天下に知らしめる結果となった。韓国の歴代政権は、自分たちに不都合なことが起きると常に「反日」機運を盛り上げ、そのことによって国民の目を逸らすという手法を取ってきたのであるが、今回の「親日反民族行為者財産調査委員会」による個人財産の没収という行為は、ひとり韓日間の問題としてではなく、国際的に見ても、韓国という国の論理が、いかにむちゃくちゃであるかを証明することになってしまった。今回の「事件」について知らない人のために、まず、盧武鉉大統領の肝煎りで、昨年7月に発足した「親日反民族行為者財産調査委員会」がなんたるかについて理解するために、過去百年間の日韓間の歴史について概略しよう。

1994年(明治24年)、日清戦争の結果、長年、中華帝国(清朝)の一冊封国(註:朝鮮半島の歴代王朝は、千数百年の長きにわたって連綿と中華皇帝に朝貢していた)に過ぎなかった朝鮮王国(李氏朝鮮)は、大韓帝国と国号を変え、自主独立国となった(註:それまでは、朝鮮国王の敬称は、中華皇帝に遠慮して、「陛下」ではなく、「殿下」であったのが良い例)。その自主独立国たる大韓帝国の政府が、自らの意思で、当時の大日本帝国と1910年(明治43年)に併合条約を締結したのである。その後、1945年(昭和20年)、日本が太平洋戦争に敗戦したことにより、20世紀前半における大日本帝国の行為すべてが否定された結果、「日本が韓国を植民地化した」ことにされたが、1910年の時点では、日韓併合条約は国際社会によって認められた国際法的には正統な条約であったことを忘れてはならない。

その証拠に、1965年に日本と韓国との間で締結された『日韓基本条約(日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約)』によって、日韓双方が「1910年の『日韓併合条約』は、もはや無効であると確認される」とされたこと自体、それまで、日韓両国政府ともに、『日韓併合条約』の存在と有効性を認めていたからに他ならない。その点で、1932年(昭和7年)に日本の支援によって成立した満州国が、国際的には「独立国」と認められていなかったことと軌を一にしないことを確認しておくことがいる。

  つまり、韓国や北朝鮮の政権がなんと言おうと、国際法的には、1910年の『日韓併合条約』は、当時の大韓帝国政府と大日本帝国政府との間に結ばれたものであり、朝鮮・韓民族自らの意思で、大韓帝国の統治権を日本の天皇(日本政府)に委ねたことは間違いない。恨むのなら、日本政府を恨むのではなしに、そのような政府を戴いていた自らの民族の不甲斐なさを恨むべきであり、日本を恨むのはそもそも筋違いである。日本政府や日本のマスコミは、韓国に対して甘い(最近までは、北朝鮮に対しても甘かった)ので、先ほども述べたように、韓国や北朝鮮は、国内で不都合が生じると、常々「日本のせい」にして為政者への不満の矛先をかわしているが、まともに歴史を勉強した者なら、問題は自らの国(つまり、李王朝治下の大韓帝国)にあったことは明白であり、遂に彼らの批判の矛先は、「日韓併合」当時の自国の指導者を「売国奴」に貶めることへと向けられた。どちらにしても、現在の不都合(自らの失政)を第三者(日本や自国の過去の為政者)の責任に転嫁しようと無責任体制には変わりないが…。


▼「親日反民族行為者」って誰のこと?

  さて、いよいよ本日の本題、「親日反民族行為者財産調査委員会」による個人財産の没収について話そう。対北宥和政策も完全に行き詰まり、経済的にも国民に恩恵を施すことのできなくなって、完全にレイムダック化した盧武鉉政権が、最後の手段として採用したのが、この調査委員会である。昨年7月に発足した同委員会は、まず、韓国史の中で「親日派」(註:結果として日本の「植民地」統治に協力した売国奴のことを韓国では「親日派」と呼ばれる)李完用(イ・ワニョン)首相(註:1910年、韓国皇帝からの全権委任を受けて日韓併合条約に調印。後に、大日本帝国の侯爵に叙される)をはじめ452人をリストアップして調査対象に指定した。そして、その第一弾として、本年5月2日、李完用氏の子孫ら9人が所有している土地25万uと36億ウォン相当の財産を還収し国家帰属とする決定を下したのである。『親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法』に基づき、「親日行為の対価として蓄財した」とされたのである。

  『親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法』は、2005年12月8日(言わずと知れた「真珠湾攻撃」の日だ)に韓国国会で可決され、同年12月29日に公布された。この法律の目的は、その第1条に記されているとおり、「日本帝国主義の植民統治に協力し、わが(韓)民族を弾圧した反民族行為者が、その当時、蓄財した財産を国家の所有とすることで、正義を具現し、民族の精気を打ち立てることを目的とする」ことである。これだけ読むと、いかにもご立派な心意気であるが、ちょっと考えてみたらおかしいことだらけである。

  ここでいう「日本帝国主義の植民地統治に協力し」という文言を『日韓併合条約』締結当時のことというのであれば、また、事実、第一弾としてやり玉に挙げられたのが、当時の首相であった李完用であるから、百年も前の話である。百年も昔の人の行為を現在、罪に問うというのである。よしんば、最短距離の人でも、大日本帝国の敗戦によって韓国民が“解放”された(註:彼らは、日本の敗戦を記念して、8月15日を「光復節」と呼んで国家最大の祝日にしている)時まで遡ったとしても、62年も以前のことである。当時、国家の要職にあった人で、現在でも余命を保っている人は恐らくほとんどいないであろう。具体的に誰を裁こうというのだ?


▼百年前の先祖の罪で今裁かれる!

  しかも、近代法の重要な要件のひとつに『罪刑不遡及主義』という原則がある。つまり、「ある行為を処罰する法律がなかった時点の行為を、現在の法律に照らして罰することはできない」という当たり前の原則である。つまり、われわれが守らなければならないのは、現在有効な法律だけであって、過去のある時点で有効であったり(どこかの時点で既に廃止されている)、もしくは、未だ法律として制定されていない事項については、守る必要はないし、いわんや、そのことによって罰せられることはない。という大原則である。さもないと、後から決められた法律のよって、過去の行為が罰せられるとしたら、オチオチと生活していられない。例えば、現在の『製造物責任法(PL法)』によって、50年も前に造られた製品の不具合を処罰されるようなものである。しかし、韓国の『親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法』では、当時の行為を処断しようというのである。

  もちろん、百年前の国家の指導者で現在まで寿命を保っている人間などどこにもいないから、今回、莫大な私有財産を没収されたのも、李完用氏の子孫ら遺産相続者たちである。しかし、これもおかしい。近代法においては、「犯罪は、その行為をなした個人(犯人)にその刑法上の責任が帰されるのであって、その親族にまで責任が遡及されることはない」というのも常識中の常識である。もちろん、古代や中世においては、世界中で、敗戦の将の一族郎党が皆殺しにされたことはいくらでもあるが、少なくとも近代法は、世界中のどの国においても、そのような連帯責任というシステムは取っていない。もちろん、未成年の子供が犯罪行為をした場合に、親権者がその保護監督責任を問われることはあっても、先祖の行為に遡って子孫がその責任を問われることはない。元禄年間の五代将軍綱吉の治下に起こった『赤穂事件』(いわゆる『忠臣蔵』の話)の評定の際に、百年前の「関ヶ原の合戦」時の浅野家と吉良家の先祖の振る舞いで裁定するようなものである。そんな話、江戸時代ですら通用しない。

  さらには、いかなる理由があったとしても、財産を継承した子孫から「百年も前の先祖が行った行為が不正であったので、お前の財産を国庫に没収する」といって財産を没収されたのでは、200年前の『ナポレオン法典』以来踏襲されている「私有財産保護」の原則も無視されている。このような行為が可能なのは、近代法体系の埒外にある共産主義国家くらいのものである。それとも、韓国は北朝鮮と同じ共産主義国家になったというのであろうか…。そういえば、盧武鉉政権は、北朝鮮には甘くて、いったんことが起これば助けてくれることになっている同盟国であるアメリカや日本に対して、不誠実な外交態度を執り続けているから、ひょっとしたら、北の将軍様の傀儡ではないかとすら思えてくる。


▼「反日」のかけ声は自国の憲法よりも大事?

  このように、今回の韓国政府の「親日反民族行為者財産調査委員会」による個人財産の没収というのは、論じることすら恥ずかしくなるくらい、近代法のイロハすら解っていない行為なのである。これを行うための根拠となっている『親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法』自身、『大韓民国憲法』にも明白に違反している。大韓民国憲法第13条には、以下のように謳われている。

第13条

1) すべての国民は、行為時の法律により犯罪を構成しない行為により訴追されず、
  同一犯罪に対して重ねて処罰されない。

2) すべての国民は、遡及立法により参政権の制限を受け、
  又は財産権を剥奪されない。

3) すべての国民は、自己の行為ではない親族の行為により、
  不利益な処遇を受けない。

  そう。まったく“まとも”である。おそらく、どこの近代国家も、多少の表現の違いこそあれ、この原則は貫かれているであろう。1948年に制定された大韓民国憲法よりも1年早く制定された日本国憲法にも、罪刑不遡及については、第39条において「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為について、刑事上の責任は問われない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない」と規定されている。また、私有財産に関しては、第29条の第1項において「財産権は、これを侵してはならない」とある。

  だとすると、もちろん、韓国の国会議員も大統領も、大韓民国憲法の条文については、よく知っているのは当然のことであるから、この『親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法』が大韓民国憲法にも明白に違反していることもまた、理屈の上では十分理解しているであろう。しかし、論理的には十分理解していてなお、「親日反民族(=反日)」という呪文を出されてしまうと、何人もこれに抗することができず、自国の憲法の条文はおろか、国際的にも広く認められた近代法の常識ですら簡単にぶっ飛ばしてしまうことができるほど、合理的な判断が効かなくなるという韓国人の性格を、北朝鮮の独裁者やその他の国が利用してこない手はない。そのことを、日本政府ならびにマスコミや日本国民は認識すべきであるし、そういう韓国政府ならびに韓国人との付き合い方において、あまり入れ込んでは火傷を負うことは必定であるということを努々忘れてはいけないと日本国憲法施行60周年のこの日に再認識させられた。


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