WBCの総決算

 09年03月31日



 レルネット主幹 三宅善信            
                   


▼何故、大リーグの選手権をワールドシリーズと呼ぶのか?

  第2回World Baseball Classic (WBC)は、日本の連覇で幕を閉じた。今回、野球で国民がひとつになれた――テレビの高視聴率はもとより、どこへ行っても、WBCの話題で盛り上がった――ことからも明らかなように、日本の“国技”が野球(註:この「野球」と「Baseball」が同じものであるかどうかについては、従前から意見が分かれていることは言うまでもない)であることがあらためて証明された。因みに、“国技”を僭称している大相撲など、両横綱をはじめ、有力上位力士の過半数は外国人である。また、その観客動員数など、年間90日(6場所X15日間)の興行で数十万人にすぎないから、パ・リーグの最も不人気な一球団のそれよりもまだ低い。しかも、日本の野球界は、セパ両リーグのプロ野球(最近、地域に根ざした「独立リーグ」も結成された)を頂点に、都市対抗大会などの社会人野球、東京六大学など各地にリーグのある学生野球、春夏の甲子園大会で盛り上がる高校野球、さらには少年野球等々、他のあらゆるスポーツと比べても圧倒的に裾野が広い。

  ベースボールとは不思議なスポーツである。他のほとんどのスポーツ競技は、そのスポーツにおける世界中のほとんどの国の競技団体が加盟する「国際○○連盟」といった国際機関があって、その競技における「世界一」と決めるための「世界選手権」や「ワールドカップ」といった大会、もしくは、オリンピック大会という機会がある(註:競技別の「ワールドカップ(世界選手権)」により権威がある(サッカー型)か、「オリンピック大会」により権威がある(バレーボール型)かは別として、いずれにしても、その種目の競技者の誰もが認める「世界一」を機会がある)が、ベースボールにも、70年の歴史と百カ国以上の加盟国を擁する国際野球連盟(IBAF)という組織があるものの、単独では「最大の組織」であるところのアメリカのプロ野球機構であるMLB(メジャーリーグ)が加盟していないため、IBAF主催のインターコンチネンタルカップやワールドカップの覇者が本当に「世界一」のチームかという恨みがある。

  とは言っても、MLBはあくまでクラブチームの連合体で、客寄せのオールスターゲームはしても、どこか外国のナショナルチームと戦うための「チームUSA」として練習から共にするという環境ではなかった。言葉を換えれば、「ベースボールはアメリカが言わずもがなのナンバーワン」という“常識”が、アメリカ人を長年支配してきた。その証拠にMLBのアメリカン・リーグとナショナル・リーグの優勝チーム同士が覇を競う北米一(註:MLBには米国だけでなくカナダの球団も加盟している)を決める選手権のことを「ワールドシリーズ」と言って憚らなかった。私は中学生の頃から、何故、プロ野球日本一を決める大会を「日本シリーズ」というのに、北米一を決める大会を「北米シリーズ」と呼ばずに「ワールドシリーズ」と呼ぶのか納得できなかった。


▼実績から言えば「実力世界一」はキューバ?

  もちろん、このアメリカの独善的な態度を世界各国が唯々諾々と許してきたのではない。長年の紆余曲折を経て、野球はついに1984年のロサンゼルス五輪で「公開競技」となり、88年のソウル五輪を経て92年のバルセロナ五輪から「正式競技」となった。しかし、「正式競技」となったと言っても、96年のアトランタ五輪まではプロ選手の参加認められなかったので、野球を「国技」としている社会主義国のキューバなどの印象が強く、プロ野球の盛んな日本やアメリカでは「オリンピック競技」としての野球に認知度は今ひとつであった。ただし、2000年のシドニー五輪からはプロ選手の参加も認められて、ある意味「実力世界一」を決めることのできる大会とも言えた。ただし、夏季オリンピック大会の開催期間が、ちょうど、MLBの公式シーズン後半の山場と重なるため、MLBの一線級の選手が出場せず、果たして「オリンピックが世界一を決める大会か?」という点で、多くの人々が納得しなかったというきらいがある。

  その点、長年「バスケットボール世界一」を自負していたアメリカが、1988年のソウル五輪でソ連に破れて面子を潰されたので、次のバルセロナ五輪では、12名の年俸の合計が百億円はあろうかというNBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)の超一流選手(マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソン、ラリー・バート等のスーパースター)を集めて結成された『ドリームチーム』を派遣して圧勝し、「バスケットボールの世界一はアメリカである」ということを実証して見せた。しかしながら、この『ドリームチーム』システムは長持ちしなかった。各国代表チームが、長期間にわたるナショナルチームとしての練習を繰り返す中、「オールスターゲーム」の感覚で、チーム練習もほとんどせずに、オリンピック期間中だけパッと集まり、その不自由な生活を嫌ってオリンピック委員会の指定した選手村――気合いの入りまくっている他競技の選手と触れることも、自己のテンションを高めるのに役立つ――に宿泊もせずに、自家用ジェットで乗り付けて、超高級ホテルのスイートルームに宿泊して、自分の出場する試合だけに参加するという物見遊山気分では、当然、いくら実力があったとしても、一試合にいのちを懸けている選手とは迫力が異なることは明白である。事実、21世紀に入ってからは、『ドリームチーム』構想は色褪せ、一応「ドリームチーム」を結成していることはしているが、2002年のアテネ五輪では、あろうことかアメリカ代表チームはプエルトリコとリトアニアとスペインに敗れ、銅メダルしか取れなかった。

  さて、話をベースボールに戻そう。アメリカにとって、たとえメジャーリーグの超一流選手が出場したとしても、バスケットボール以上に国際大会における「世界一」が難しいのが野球であることは、誰の目にも明らかであった。何故なら、長年にわたって、社会主義国キューバのナショナルチーム(当然、全員アマチュア)が、各種の国際大会で圧倒的な成績を挙げてきたからである。例えば、国際野球連盟(IBAF)が主催したインターコンチネンタルカップでは、13大会中10回優勝(3回準優勝)。同じくIBAF野球ワールドカップでは、28大会中、優勝25回(準優勝1回、3位2回)(ただし、準優勝と3位になったのは、1941年度、44年度、51年度と半世紀以上前のことで、最近半世紀は負け無し)。オリンピックでは、過去5大会中、金メダル3回(銀メダル2回)。と、群を抜いている。フィデル・カストロ前国家評議会議長をして「野球はキューバの国技」と言わしめるだけのことはある。

  しかも、この十年ほどの間に、40名ほどの日本人メジャーリーガーが誕生し、その内、半数近くが現在でもMLBに在籍して活躍している。ということは、ことベースボールに関する限り、日米間の実力差はほぼ無くなったと思われる(註:とはいっても、日本人プロ野球選手の中で渡米できるのは、やはり「超一流選手」だけであるから、メジャーリーグのほうがレベルが高いとも言える)。同様に、韓国のプロ野球もかなり強いらしい(註:WBCの韓国チームの活躍だけを見ていると、韓国チームの「実力」は相当なものだが、一方で、オリンピックとワールドカップではそれぞれ1回ずつしか優勝したことがないので、一概に評価できない)。もちろん、言うまでもなく、「アメリカの裏庭」であるプエルトリコやドミニカ共和国やメキシコやベネズエラといった中南米の国々からは元々数多くのメジャーリーガーが排出している。ということは、「ベースボールの本家」を自負するアメリカに、ベースボールが競技される世界の各国が無条件で敬意を払うとは限らないということである。ちょうど、柔道がもはや「お家芸」ではなくなった日本のように…。


▼「たすき掛け」がないという奇妙な方式

  そこで、MLBが考えた「実力世界一決定戦」がWBCである。21世紀になってから創設された大会であるにもかかわらず、「クラッシック」と平気で名付けるあたりがいかにもアメリカである。世界百カ国以上が加盟利し、半世紀以上の歴史を有しているIBAFの主催してきた「インターコンチネンタルカップ」や「ワールドカップ」あるいはIOCが主催するオリンピック競技に、今さらながら「一加盟国」として参加するベースボールとしてではなく、自分たちの国益(わがまま)が最大限に確保できる形で、MLBの決めたスキームの中で、自分たちが最大限に有利になる形(例えば、通常の競技の国際大会においては、審判団は各国から選ばれ、しかも、対戦当事国以外の国のレフリーが笛を吹くことになっているが、WBCの場合、アンパイヤ(審判団)は全てMLBに所属する審判である)での“主催者”としての米国として振る舞いたいがための装置である。この点、ドラフト制度を骨抜きにする逆指名制やFA制度の導入に見られるような日本プロ野球界における読売ジャイアンツの振る舞いと共通するものがある。こうして、2006年春に記念すべき第1回のWBC大会が開催される運びとなった。

  国際野球連盟主催(IBAF)の大会でなく、MLBよって制定され、明らかに「アメリカ有利」なルールで開催されるWBCにおいて、アメリカがいかにキューバを恐れていたかは、第1回WBC大会時における予選一次リーグと二次リーグにおいて、アメリカは絶対にキューバと当たらない対戦システムを考えたことからも明らかである。サッカーのワールドカップでもそうであるが、通常は、予選一次リーグ(複数)と二次リーグ(複数)があり、各一次リーグの上位の2チームが二次リーグ勝ち上がれるシステムの場合は、一次リーグと二次リーグの組み合わせはシャッフル(「たすき掛け」方式という)され、一次リーグで対戦したもの同士は二次リーグではぶつからないものだ。ただし、その両チームとも運良く二次リーグを勝ち上がって決勝トーナメントまで進出しできたら、その時はじめて、二度目の決戦があるということになる。つまり、一次リーグと二次リーグが総当たり方式で、準決勝・決勝がトーナメント方式であるということは、同じ対戦相手とは最大でも2回しか当たらないのが常識である。

  ところが、第1回WBCにおいては、一次リーグの上位2チームがそのまま二次リーグにおいても同じリーグに入り、その上、同じ二次リーグの1位チームと2位チームが再度準決勝で対戦する(普通は、ここでも「たすき掛け」が行われ、二次リーグ1組の1位と2組の2位が、1組の2位と2組の1位が対戦するのが常識である。さもないと、二次リーグで頑張って1位を取ったというアドバンテージが意味をなさなくなる)という奇妙な組み合わせとなった。その結果、韓国は日本と3回戦うことになり、日本との直接対戦成績が2勝1敗にもかかわらず、日本が優勝して韓国は3位という奇妙な結果となった。日韓両国の直接対戦成績だけでなく、全試合の勝率も、日本の.625(5勝3敗)に対して、韓国は.875(6勝1敗)と遥かに成績が上であったにもかかわらず、準決勝トーナメントで唯一敗れたことが響いて、結果的には雲泥の差となったことは、韓国に言いようのない不満を残したことは事実である(もし、日本主催の大会でこのようなことになっていたら、韓国は大いに文句を言ったであろうが、幸か不幸かアメリカ主催の大会であったから、これくらいで済んだとも言える)。これも、「決勝戦まではキューバと当たらずに済む」というアメリカにとって都合の良い組み合わせがもたらせた弊害であった。


▼やたら同一対戦カードが多いWBC

  今回の第2回WBC大会においては、第1回大会の反省(註:アナハイムで開催された第二次リーグ1組で、3勝0敗だった韓国を除くと、日本・アメリカ・メキシコの3チームが共に1勝2敗で並ぶという想定外の出来事が起こり、その中で日本が失点率の少なさという解りにくい形で決勝トーナメントに進出した。しかも、その日本が、準決勝で「たすき掛け」ではなく、また韓国と対戦して勝利するという後味の悪い形が残った)として、日本・プエルトリコ・メキシコ・カナダで開催される第一ラウンドと、アメリカのサンディエゴとマイアミで開催される第二ラウンドにおいては、前回のような「総当たり」の予選リーグではなく、変則トーナメントの一種ダブルエリミネーション方式(註:高校野球大会などでお馴染みの「1度でも負ければ即、敗退」の単純トーナメント方式ではなく、「2敗しない限り敗退しない」という、敗者復活方式のトーナメントの一形式。「フロック」勝ちが生じにくいという理由では、単純トーナメント方式より優れていると言えるが、全く当たらない組み合わせがある一方で、「同一対戦カード」がやたらと増えるという欠点がある)が採用されたが、相変わらず、キューバと対戦したくないアメリカの「たすき掛け」方式拒否によって、16カ国もの参加国がありながら、優勝した日本は全9試合中5試合を韓国と対戦するという極めて歪(いびつ)なスキームとなった。

  この歪な組み合わせについて、キューバのカストロ前国家評議会議長は「アメリカは、第1回WBC準優勝、北京五輪準優勝の実績があるキューバチームとできるだけ対戦せずに済むように、第1回WBC優勝の日本と北京五輪優勝の韓国といった強豪チームと第二ラウンドでキューバを同じグループに入れ、この二強とつぶし合いをさせた」と批判したが、まさにそのとおりである。第二ラウンドの組み合わせを見ても、日本の入っていた1組は、韓国・キューバ・メキシコといった強豪国であったにもかかわらず、アメリカの入っていた2組は、ベネズエラ・プエルトリコ・オランダと、「楽な組」であったことは否めない。

  参考までに、第2回WBCの全チームを勝率順に並べると、@日本.778(7勝-2敗)、Aベネズエラ.750(6-2)、B韓国.667(6-3)、キューバ.667(6-3)、プエルトリコ.667(6-3)、E米国.500(4-4)、Fメキシコ.333(2-4)、オランダ.333(2-4)、中国.333(1-2)、イタリア.333(1-2)、オーストラリア.333(1-2)、ドミニカ共和国.333(1-2)、Lカナダ.000(0-2)、台湾(中華台北).000(0-2)、パナマ.000(0-2)、南アフリカ.000(0-2)という順番になるが、実際には、日本が優勝、韓国が準優勝、ベネズエラと米国が3位ということになった。


▼公平な組み合わせはこうして作れ

  実は、第1回WBC大会と第2回WBC大会とでは、参加した16カ国は同じ顔ぶれである。IBAFには加盟国が百カ国以上あるのに、これらの16カ国は、どういう基準によって選ばれたかも定かではない。因みに、第1回大会と第2回大会との通算成績を勝率別に並べると、@日本.706(12勝-5敗)、A韓国.750(12-4)、Bプエルトリコ.667(8-4)、Cキューバ.643(9-5)、ベネズエラ.643(9-5)、Eドミニカ共和国.600(6-4)、F米国.500(7-7)、Gメキシコ.417(5-7)、Hカナダ.400(2-3)、Iオランダ.333(3-6)、Jイタリア.333(2-4)、K台湾.200(1-4)、L中国.167(1-5)、オーストラリア.167(1-5)、Nパナマ.000(0-5)、南アフリカ.000(0-5)の順である。

  もし、第3回WBC大会も16チームで争われるとしたら、これまでに一度も勝ち星を挙げていないパナマや南アフリカに第3回WBC大会の出場権を与えるかどうかは疑問である。同様に、勝率.167のオーストラリアにも無条件の出場権を与えるかどうかは微妙なところだ。勝率.200の台湾と.167の中国に関しては、過去の2大会とも、一次予選が強豪の日本と韓国と同じリーグに入っているので、この成績は立派であると言えよう。第2回WBC大会では、決勝に進出した日韓両国は第一次ラウンドA組、準決勝まで進出したベネズエラと米国は第一次ラウンドC組であったから、同B組(キューバ、メキシコ、オーストラリア、南アフリカ)と同D組(オランダ、プエルトリコ、ドミニカ共和国、パナマ)からは、まったく準決勝へ進出できなかったことになり、第一次ラウンドでどこの組に入るかどうかはかなり運不運がある。

  今後、より公平を期す(実力のあるチームが順当に第二次ラウンドや準決勝トーナメントに出場できるように)ためには、第一次ラウンドに強豪チームから順位別に入れ込んでいくべきだと思う。たとえば、第2回WBC大会の勝率を参考に第3回大会の組み合わせを考えると、第一次ラウンドについては、A組には、日本、オランダ、中国、南アフリカ。B組には、ベネズエラ、メキシコ、イタリア、パナマ。C組には、韓国、米国、オーストラリア、台湾。D組には、キューバ、プエルトリコ、ドミニカ共和国、カナダ。といった具合にである。そして、第二次ラウンドでは、A組の1位と3位とB組の2位と4位だったチームを第1組に入れ、B組の1位と3位とA組の2位と4位だったチームを第2組に入れて予選ラウンドを戦わせれば、組み合わせは完全なシャッフルとなる。もちろん、準決勝トーナメントには、第二次ラウンドの1組の1位と2組の2位が、もうひとつは、2組の1位と1組の2位が対戦し、その勝者同士が決勝戦を行うのが、最も平等な組み合わせである。このような変更が実施されることを望む次第である。


▼「侍ジャパン」というネーミング

  さて、数字で見る話はこの辺にして、今回のWBCで日本代表チームの選手が一致団結でき、また、日本国民がこぞって応援できたのは何故かという、より「人間臭い」問題について考えてみよう。それは、ズバリ『侍ジャパン』というネーミングだと私は思う。プロの一流選手が参加するようになった野球の国際大会(註:2000年のシドニー五輪にプロ・アマ混成チームで参加した日本は、オールプロの韓国に完敗し、1984年のロサンゼルス五輪で野球がオリンピックの公開競技に採用されて以来、初めてメダルを逃したことを反省して、以後の国際大会においては、日本は全員プロ選手による『ドリームチーム』を結成してきた)では、2004年のアテネ五輪の時が『長島ジャパン』で、2006年の第1回WBCの時が『王ジャパン』、そして、2008年の北京五輪が『星野ジャパン』と、日本代表チームの監督名でナショナルチームを識別する習慣があった。このことは、何も野球に限ったことではない。女子バレーボールの『柳本ジャパン』しかり、サッカーの『岡田ジャパン』しかり…。

  ところが、今回はナショナルチームの監督の人選を巡って大いに揉めた。WBCナショナルチーム結成の数カ月前の北京五輪に「金メダル以外は要らん!」と大見得切って望んだ星野ジャパンが、4位という全く揮わない結果しか残せず、文字通り「銀メダルも銅メダルも取れなかった」という日本オリンピック史上最悪の成績となったからである。因みに、公開競技・正式種目を問わず、野球がオリンピックで行われた1984年のロサンゼルス五輪以来、日本がメダルを取れなかったのは2000年のシドニー五輪だけである。ただし、その時は、「プロ化」が進んだ国際大会であったが、日本は、当時、読売ジャイアンツのオーナーであった渡邉恒雄氏が「(ペナントレース期間中に開催される)オリンピックに選手を出すような球団は優勝を放棄するのか。そんな球団は(セ・リーグから)出て行け!」と脅しをかけたため、セ・リーグからは2名しか参加せず、パ・リーグ、社会人・大学生という中途半端な混成チームだったので、単純比較はできない。

  本当の一流プロ選手による最初の「ドリームチーム」は、2004年のアテネ五輪の『長島ジャパン』が最初である。しかし、長島繁雄氏自身は、直前に脳梗塞で倒れ、中畑潔氏という選手としても監督としても実績のない中途半端な人物が監督代行をつとめ、オールジャパンの豪華メンバーであるにもかかわらず銅メダルしか取れなかった。ここで明白になったことは、単に超一流選手を揃えれば勝てるのではなく、選手が超一流であればあるほど、監督も彼らが一目置く存在でなければならないということである。その意味でも、2006年の第2回WBCで監督を務めた王貞治氏(当時は、ソフトバンクホークスの現役監督)には、当時既に大リーガーとして押しも押されもしない実績を上げていたイチロー選手をはじめ、文句をつけるものはいなかった。結果は、言わずと知れた記念すべきWBC初代チャンピオンとなった。


▼問題を残した代表チームの監督選び

  北京五輪時の日本代表チームは、全員がプロ野球選手であったことには違いないが、既にこの時点で日本人大リーガーは20名を数えていた(つまり、超一流選手のいなくなった日本プロ野球は、MLBのマイナーリーグ化してしまっていた)が、その誰もがオリンピック日本代表チームのメンバーに入らなかったということは、決してオールジャパン「ドリームチーム」と見なすことはできず、成績もさんざんなものであった。そこで、第2回WBCの日本代表チームの監督選出で大いに揉めた。イチロー選手なんか「少なくとも(セ・パ両リーグの)現役監督から選べないようなら、“本気”で取り組んでいるとは言えない」と越権行為の発言までして、星野仙一氏の監督就任にクレームを付けたことは、日本プロ野球機構の弱腰を白日の下に曝した。私が、監督選出の責任者であれば、(大リーガーまで居るドリームチーム選手に一目置かせるためにも)選手としての実績と監督としての実績を考慮に入れたら、野村克也氏(東北楽天ゴールデンイーグルスの現役監督)しか居ない――本人もやる気満々だった――と思うけれど、“球界の盟主”を僭称する読売ジャイアンツに対して四十年にわたって批判的な態度を取ってきた野村氏を「日本代表監督」として受け入れるだけの気概は日本プロ野球機構にはなく、第2回WBC日本代表チームの監督は、原辰徳氏というジャイアンツの現役監督で落ち着いた。

  ただし、さすがに『原ジャパン』と呼ぶのは尻が痒いのか、いつの間にやら『侍ジャパン』と命名された。これは、サッカーの日本女子代表チームの『なでしこジャパン』から借用した命名方法だと思われる。しかし、これが巧くいった。恐らく、『原ジャパン』では、原辰徳氏より実績のあるイチローや松坂大輔をはじめとする大リーガーたちが、原監督の言うことを素直に聞いたかどうかは疑問である。優勝できたから良かったようなものの、事実、原監督には「疑問?」の采配が多々あった。しかし、なにせ『侍ジャパン』である。「武士は喰わねど高楊枝」である。「侍」と持ち上げられた以上は、少々の不満があっても、これを口にしたのでは、日本男児の恥である。「侍ジャパンの紋所が目に入らぬかーっ!」、「ははっー!」

  という訳で、個性豊かな選手たちも皆、首脳陣の言うことを聞き、原監督の疑問采配――キューバのカストロ前議長にも指摘されていたくらいだ――にもかかわらず、優勝することができた。もし、惨敗しておれば、前回が優勝しただけに、原監督の責任が問われ、侍だけに「腹(原)切り」させられるところであった。応援する人々も、もし『原ジャパン』のままなら、大活躍したらしたで、巨人ファン以外は忸怩(じくじ)たる思いであったろうが、『侍ジャパン』ならこだわりなく応援できる。


▼WBC本当の勝者はアメリカ

  こうして、日本はWBCを2大会連続で優勝するという大きな成果を挙げることができたが、韓国ナショナルチームの活躍を見ても判るように、ベースボールという競技は、ナショナルチーム同士のレベルとなると、どうもあまり実力差が出ないスポーツかもしれない。というか、たとえ「弱い(と思われる)チーム」であったとしても、たまたまその試合の先発投手の調子がもの凄く良ければ、強豪チームでも倒してしまう「番狂わせ」が発生しやすい競技である。その点、ラグビーのワールドカップなどは、必ず「強いほうが勝つ」スポーツと言えよう。であるから、本当にベースボールという競技で、16チームの間で「最強チーム」をハッキリさせようと思うのならば、全試合数が15でケリがつく(優勝するには4連勝すればよい)単純トーナメント方式(註:ダブルエリミネッション方式なら30試合必要)ではなく、総当たりで120試合を行うリーグ戦形式でない正しい“実力”が反映されないのではないか? そうなると、投手陣のやりくりとか、選手を休ませるための“捨てゲーム”を作るとかいった要素が加味された采配が必要になってくる。ただし、国際大会で120試合も行うための日数を確保できるかというと難しいと言わざるを得ない。

  つまり、ベースボールという競技は、短い期間内に、ナショナルチーム同士が「実力世界一」を決める大会を開催するということが難しいスポーツであるということができる。プロスポーツとして興行的にも難しい。しかし、よくよく考えてみると、今回のWBC大会に参加した各国のナショナルチームの選手たちは、共産主義国家の中国とキューバを除けば、中南米勢はいうに及ばず、日本や韓国に至るまで、アメリカの国内スポーツであるMLBに一流選手を取られて、国内リーグが空洞化している国が多い。これはちょうど、自国を「工場化」することによって工業製品の対米輸出を行い、外貨を貯めまくった日本や中国、また、原油の輸出でたっぷりとオイルマネーを蓄えた中東諸国が、自分たちの資金の運用のためには、結局、米国の金融市場でしか金の運用ができないのと同じである。米国は、自分たちが紙切れに印刷したドル紙幣で、日本人の汗の結晶である自動車を購入し、中東から燃料を購入し、自分たちがモータリゼーションの益を享受し、おまけにいったん支払ったドル紙幣まで、自分たちの創ったマネーマーケットへ戻ってくるんだから、これ以上、美味しい話はない。

  同様に、自分たちで選手の育成を行わずに、自分たちは「メジャーリーグ」というパフォーマンスの場所だけを提供し、しかも、自分たちの存在が相対化される歴史あるIBAF主催の『インターコンチネンタルカップ』や『ワールドカップ』の価値をなき者にしてしまえるという副産物まで付けて…。「アメリカの裏庭」である中南米のベースボールは、初めから米国の下請け工場みたいなものであったが、第1回・第2回のWBC大会を通じて、日本や韓国の野球もすっかりMLBというマーケットに組み込まれてしまったではないか…。MLBは、アメリカチームが勝とうが勝とまいが、日本や韓国からも放送権をガッチリ稼いで、WBCで活躍しためぼしい選手をMLBのチームに組み込んで…。世界経済同様、競争に負けたふりをして“実益”を全部独り占めにしてしまうアメリカの作戦が見事に的中しているので、WBCの総決算は「日本のV2」ではなく、「アメリカの一人勝ち」ということになるのである。


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