アッラー神に雷撃されたスペースシャトル・コロンビア号  
       03年03月19日
 萬 遜樹


 いま世界を一つの奇っ怪な噂が飛び交っている。2月1日、大気圏再突入時に異変を起こして燃え上がり、7人の乗る船体が分解したアメリカのスペースシャトル・コロンビア号の事故は、イスラムの神アッラーの怒りが雷の一撃となって放たれたことによるものだ、という噂である。これによると、さすがのビン・ラディンやアル・カイダも手が届かぬ天において、彼らに代わって神がテロリズムに手を染めたということになる。

 NASAには、スペースシャトルは全部で五つあった。しかし、1986年にその二番船であるチャレンジャー号が発射後73秒で、世界が見守る中、爆発し空中分解して失われた。今度は「旗艦」(一番船)のコロンビア号が、その帰還を世界が見守る中、流れ星となって消えたのだ[注1]。地球を蓋(おお)う大気と、天である宇宙をさえぎる、見えざる厚い壁を感じざるを得ない。そこは神の領域なのか。神はアメリカを試しているのか。

[注1]「コロンビア」の名は、「新大陸」の第一発見者コロンブスにちなむ(ヨーロッパ語では船や国の名は女性名詞になる)。コロンブス自身はそこを「西インド諸島」だと思っていたので、後着のアメリゴ・ヴェスブッチに大陸名「アメリカ」を取られてしまった。本来なら「コロンビア大陸」だったのだ。「コロンビア」とはアメリカのもう一つの呼び方であり、日本で言えば「大和」のようなものなのだ。つまり、「宇宙戦艦ヤマト」ならぬ「宇宙船コロンビア」である。そういう特別な船だった(三宅善信氏の教示による)。 →「コロンビア号爆発事故の意味」

 2月1日というタイミングでのコロンビア号爆発はいかにも意味ありげだ。実は、チャレンジャー号のときにも「神の警告か」と囁かれていた。そのときはレーガン大統領がソ連と最後の冷戦を戦っている真っ最中で、ソ連の核弾頭ミサイルを人工衛星からのレーザー兵器で破壊するという通称「スター・ウォーズ計画」(SDI:戦略防衛構想)が進められていた。今度は、ブッシュ大統領のフセイン・イラク攻撃を前にしての大事故だ。

 爆発したときのチャレンジャー号のミッション(任務)は、将来の宇宙旅行に向けて、NASAの専門宇宙飛行士以外の民間人が搭乗することが初めて許された特別なものだった[注2]。乗組員は、船長のフランシス・スコビー、パイロットのマイケル・スミス、女性飛行士ジュディス・レズニク(ユダヤ系)、日系三世のエリソン・オニズカ空軍大佐、物理学者ロナルド・マクネイア(黒人)、エンジニアのグレゴリ一・ジャービス、そして初の一般人として一万千人の志顧者の中から選ばれた女性高校教師クリスタ・マコーリフであった。

[注2]映画「スター・ウォーズ」は「宇宙旅行」ができる世界が前提になっている。そういう意味で、チャレンジャー号のミッション失敗は、「スター・ウォーズ計画」も可能な世界への参入が「ある見えない意志」によって阻止されたとも象徴的に読める。

 一方のコロンビア号も特別であった。乗組員は、リック・ハズバンド船長、パイロットのウィリアム・マックール、黒人飛行士マイケル・アンダーソン、結婚してアメリカ人となったインド出身の女性飛行士カルパナ・チャウラ、医学博士のデビッド・ブラウン、同じく医学博士で八歳の息子の母でもあるローレル・クラーク(奇しくも従兄弟が9・11テロで死亡)、そしてイスラエル空軍のパイロットで1981年のイラク原子炉破壊攻撃に参加した経験もあるイラン・ラモンだった[注3]。

[注3]ラモン氏は初のイスラエル人宇宙飛行士。祖父はナチス・ドイツのユダヤ人強制収容所で死亡しており、また祖母と母親はアウシュビッツからの生還者だった。

 それから、1981年に空爆されたイラクの原子炉は建設中であった。イスラエルはこれを知り、イラクがやがて原爆を製造してイスラエルを襲うであろうと予測した。そこで、ためらわず原子炉を破壊したのだ。核保有国イスラエルによる自衛のための先制攻撃である。言うまでもなく、国際法違反だ。今回のアメリカ軍のイラク攻撃も、アメリカにとっては「自衛のための先制攻撃」である。

 このミッションは、あたかもアメリカ・イスラエル・インドの「共同プロジェクト」だったようにも見える。というのも、申し合わせたように三国とも、イスラム教ではない宗教を「国教」としている核保有国であり、しかもそれぞれ相手こそ違っても「反テロ」を理由にイスラム教国を敵として現にいま戦っている国々だからである。まるでアンチ・アッラー神、反イスラム連合によるスペースシャトルなのであった。

 すなわち、キリスト教を「国教」とするアメリカは言うまでもなくフセイン・イラクと、ユダヤ教のイスラエルはアラファト・パレスチナ(および周辺アラブ諸国)と、そしてヒンズー教のインドはパキスタン(イスラム教)・ゲリラと戦っている。そして、その「反テロ」という理由ははなはだ疑わしく、むしろこの三国の方が戦争を仕掛けているのではないかと思われるのだ。アッラー神の怒りもむべなるかなである。

 さらに暗示的なことには、7人の乗組員を乗せたまま炎上・分解したコロンビア号の無惨な残骸が降り注いだところがブッシュ大統領の本拠地テキサス州であり、コロンビア号の爆発はパレスタイン(Palestine)、つまり「パレスチナ」という名の町の上空で起きたというのだ。このでき過ぎた「偶然」はアッラー神の意志でしかあり得ないというのが、噂を信じるイスラム教徒たちの主張である。

 ご承知の通り、それから二か月弱経った昨日、ブッシュ大統領はイラクのフセイン大統領に最後通告を行なった。まもなく戦争は始まるのだろう。だが、コロンビア号の事故原因についてははっきりしないままだ。まさかアッラー神の雷撃によるものとは発表されないだろうが、あえて原因究明やその発表を遅らせている可能性はある。9・11テロと違って「犯人」だと決めつけるテロリストを見出せず、このタイミングでの真相解明はかえって「反テロ連合」の失敗をさらけ出すだけでヤブ蛇だからだ[注4]。

[注4]もっとも、その9・11テロ自体もその全貌は愚か、概要さえまだまだ不明なことが多い。すべてがアメリカの自作自演とは言わないまでも、ビン・ラディンやアル・カイダが犯人だという決定的な証拠はない。

 無論、コロンビア号の乗組員たち自身に罪はなく、たとえばアメリカ人パイロットのマックールは平和を求める「イマジン」を船中で聴いていたと言われる。しかし、アメリカはもちろん、イスラエルとインドという国家には、自ら「敵」を作ることで自らの欲望を達しようとしているエゴが、むしろ垣間見えている。神は虚偽や傲慢を嫌うものである。コロンビア号がもし雷撃されたとしたら、果たしてそれはアッラー神によるものだったのであろうか。


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