大阪国際宗教同志会 平成16年度第3回例会 記念講演
『大統領選挙とアメリカの宗教状況』
               

同志社大学 神学部長
.                   一神教学際研究センター長
                           森 孝一

10月5日、神徳館において、大阪国際宗教同志会(大森慈祥会長)の平成16年度第3回例会が神仏基新宗教各派の宗教者50名が参加して開催された。アメリカ合衆国における宗教と政治の関わり合いについての研究の第一人者である同志社大学神学部長の森孝一先生を講師にお招きして『大統領選挙とアメリカの宗教状況』という講題でお話しいただいた。本サイトでは、数回に分けて掲載する。




森 孝一 教授
◆日本には伝わってこないアメリカの状況

  ただ今、ご紹介に預かりました同志社大学神学部長の森孝一でございます。どうぞよろしくお願いいたします。本日は、伝統ある大阪国際宗教同志会にお招きいただきまして、しばらくお話をさせていただきますことを、心から感謝申し上げます。

  三宅善信先生から与えられましたタイトルが、ここに書いてあります『大統領選挙とアメリカの宗教状況』ということですが、11月2日に行われる米国次期大統領選挙まで、1カ月足らずとなりました。今日は、私なりに「こうだ」と思うところをお話しさせていただきますが、これはある種、プロ野球の解説者が順位予想をするのと同じことですから、少々辛いところがあります。と申しますのも、1カ月後には「答え」が出るわけですから……。「森先生はああ言っていたけれども、結果は違ったな」ということがはっきり判ってしまうところがございますので、少し緊張しております。

  今、三宅善信先生もおっしゃったように、「日本に伝わってこないアメリカの状況」ですが、日本においては、「アメリカは世俗的で、快楽的な国」というイメージを抱く向きがあると思います。確かにそういう一面はあります。しかし、もう半分のアメリカは、非常に宗教的な国であるにも関わらず、それがほとんど日本に伝わってこない……。この9月に私は、十日間ほど大学院の学生たちを連れまして、ロサンゼルスとワシントンDCとサンフランシスコを巡り、アメリカの宗教の現実を見てきました。

  先ほど、イチローの八十何年ぶりの大リーグ年間安打記録更新の話が出ましたね。ここ数日、日本中がワクワクしながら、彼の活躍を見守ってきましたが、私がアメリカに滞在している間に、ホテルのテレビでスポーツニュースを視ていても、イチローに関する報道は全くございませんでした。おそらく、ここ数日の新記録を出したニュースにしましても、地元シアトルでは、非常に大きなニュースとして扱われているでしょうが、果たして、それ以外の地域でも同じように報道されているのか? 私は、おそらくそうではないと思いますね。しかし、それが日本に伝わってきた時点で、あたかもアメリカ中がイチローの新記録に沸いているかのように見えます。これは別段、ネガティブな情報操作が行われたわけではありませんが、やはり、日本人の読者なり、視聴者なりが喜ぶような形にして、ニュースが伝えられている良い例だと思います。


◆神学論争って何?

  日本に入ってくる情報として、「宗教国家アメリカ」という側面はほとんど入ってきません。本日、私はこちらの泉尾教会にお邪魔する前に大阪のあるホテルで10月末の関西プレスクラブの集まりの席上で行われる講演会でお話をさせていただくための打ち合わせをしてきました。このプレスクラブは、10年前に設立されたそうですが、その日には、関西圏の百社近い報道関係機関――主要なマスコミを中心に、ほぼすべての報道関係機関が集まると言ってもよいでしょう――が集まると伺っております。その時も、アメリカ大統領選挙やイラク戦争における宗教問題について、お話をさせていただく予定です。

  その打ち合わせの中で、「日本のマスコミは宗教が苦手だ。どのように宗教と付き合っていけばいいのか? どういうふうに宗教に関する情報を流していいのか判らない。だから、マスコミ全体に対する苦言も呈してくれ」と頼まれましたが、私はそれをやるつもりです。例えば、『ニューズ・ウイーク』という週刊誌がありますけれども、アメリカで発売されている『News Week』と、日本で発売されているそれとは、(英語版の和訳ではなく)記事内容が違うんですね。アメリカ版の『News Week』では、比較的宗教問題を扱っているんですが、それが日本に入ってきますと、一転してその部分の記事が差し替えられ、別の記事になってしまうんです。それぐらい、日本の読者が「宗教」というものに対する関心が低いからでしょうか? このあたりの問題は非常に大きいと思いますね。

  それから、今度プレスクラブでお話しさせていただく際に、マスコミ用語における「神学論争」という語の意味についても、苦言を呈したいと思っております。以前、小泉首相が防衛問題、すなわち憲法第九条について、野党と議論した時に「そんな神学論争は止めよう」と言われたのです。私は神学部長ですから、そのようなネガティブな意味合いで「神学論争」という用語を使われたら困るんです(会場笑い)。「神学論争」は、英語で何と言うんでしょうか? もちろん、英語に訳せますよ。これはどういう意味かと申しますと、そのまま文字通りに言葉を置き換えるのではなく、小泉首相が言った意味合いで「そのような議論は神学論争である」という言葉を訳したらどうなるか? という話です。

  仮に、この国会でのやり取りをアメリカやヨーロッパに放送したとして、相手に通じるでしょうか? 通じませんよ。「(小泉首相が言うところの)『神学論争』は、どれほど深く、本質的な論争なのか?」というふうに、アメリカやヨーロッパでは取られるのではないでしょうか? ところが、日本では、「出口のない、現実離れした堂々巡りの議論」のことを「神学論争」と呼ぶんですね。どうして「神学」という言葉を使うんでしょうか? これは、日本社会における「神学」や「宗教」というものに対するネガティブなイメージの反映ではないでしょうか? そういった、宗教に対するある種の無理解というものから抜け出さない限り、日本は世界と本当につき合っていくことはできない。そういった意味でも、「宗教」というキーワードの重要性を理解しなければ、「世界」は解りません。本日はそのあたりの話を「釈迦に説法」だとは思いますが、アメリカに話を限って、お話をさせていただこうと思います。


◆大統領選挙の仕組み

  皆様のお手元にお配りしてありますレジュメを基に話を進めさせていただきたいと思います。まず最初に、大統領選挙の仕組みについて簡単にお話しさせていただきます。日本もアメリカと同じように民主的な選挙を行うわけですが、日本の総選挙とアメリカの大統領選挙は、かなり様相が違います。例をひとつ挙げますと、アメリカでは、18歳以上になると投票できますけれども、日本は20歳以上ですね。日本では、20歳になりますと、選挙が近づきますと、自動的に投票案内が送られてきますが、アメリカでは「私は投票するぞ」と意思表示して、有権者登録しなければ、投票することができません。ここからすでに違いますね。また、日本は総理大臣を国民が直接選挙で選びませんね。国民が国会議員を選挙で選び、その第一党の総裁が国会で総理大臣に選ばれます。一方、アメリカでは、国民が直接投票して大統領が選ばれます。

  しかし、ここでちょっと気を付けていただきたい点があります。実は、アメリカ合衆国の大統領は、国民が直接大統領を選んでいるわけではなく――各国民が投票した結果、つまりそのままの得票数の合計に応じて大統領に選ばれるのではなく――国民は「大統領選挙人」を選んでいるわけです。お手元の資料にも書いてありますが、全米で538人の選挙人がいるわけです。そして、11月の終わり頃に、非常に形式的ですが、この選挙人たちが、首都ワシントンDCに集まって、もう一度投票をします。ただその時は、各州毎に民主党と共和党からの代表としてすでに選ばれている状態ですから、それぞれの党の立場と反対の候補者には選挙人は投票することはできないんですね。ですから、非常に形式的ではあるんですけれども、最終的には「選挙人選挙」方式となるわけです。


大統領選挙と宗教の関係について
熱弁を揮われる森教授

  この選挙人の選出は、「勝者独占方式(Winner-Take-All)」という方法を採ります。選挙は州別に行われるのですが、「2004年の州別選挙人団数」の表からも判るように、州の人口に応じて、選挙人の数が違います。例えば、アラバマ州は9人、アラスカ州は3人。一番多いのがカリフォルニア州で55人。これが一番大きい州ですね。その次に、テキサス州の34人、ニューヨーク州の31人、フロリダ州の27人と続いていくわけです。今回の民主党候補はケリー上院議員、共和党候補はブッシュ現大統領ですが、各州毎にこのどちらかの政党に投票します。そして、仮にある州で、共和党が民主党より1票多く取ったとしましょう。すると、その州の選挙人の票は、全て共和党の票になります。これが「勝者独占方式」なんですね。こうして、最終的に選挙人の過半数の票、すなわち、二百七十票を獲得したほうが大統領選挙に勝つ仕組みになっています。


◆大きい映像の力

  さて、現在(10月5日時点)の両候補の支持率なんですが、アメリカの世論調査機関で一番信頼がおける「ギャラップ調査機関」が、9月24日から26日の3日間にわたって調査した一番新しい情報によりますと、ブッシュが52%、ケリーが44%だったんです。ところが、10月3日に行われた第1回テレビ討論で、ブッシュがヘマをやらかしたんです。現代は「映像の時代」とも言えますから、「映像の力」というものが非常に大きい。討論の内容自体ではなく、「そわそわしている」とか、「眼が泳いでいる」といった様子が、投票行動を左右する評価の要因に繋がるわけです。

  4年前に行われた、前回のブッシュ知事とゴア副大統領による大統領選挙は歴史的な大接戦で、結果、わずか300票差でブッシュが勝ったわけですが、あの時も、ゴア候補はテレビ討論において、マイナスイメージを国民に与えてしまったんですね。「画面を視ていると、ブッシュを馬鹿にしている雰囲気が伝わってきた」と……。ゴアは、ブッシュが発言している間、声には出さないけれども、首を横に振ったりしていたんです。その様子がテレビに映し出されていたわけですが、それが視聴者から見ると、「あいつは傲慢(ごうまん)だ」という印象を与えてしまったんです。非常に恐ろしい時代になったと思いますけれども……。

  一週間前まで、ブッシュが52ポイント、ケリーが44ポイントと、8ポイントの差が両者の間にあったんですが、これが10月3日付の『News Week』(註=電子版『News Week』も同様の数値で発表されていた)に掲載された世論調査によれば――これはギャラップのではないんですけれども――この時点で、ケリーが49ポイント、ブッシュが46ポイントと、2カ月ぶりにケリーが逆転しているんです。今日の新聞報道に掲載されていたニュース局CNNの調査にしても、ほぼ拮抗(きっこう)しています。ですから、「並んだ」と考えていいのではないでしょうか。

  では、先週のギャラップの調査投票結果を参考にした場合、52ポイント対44ポイントという、8ポイントの差がついていたから、その時点で「ブッシュは優勢だ」と考えていいんでしょうか? これを選挙の専門家に聞きますと、そうでもないんですね。何故かと申しますと、先ほど申し上げた州別選挙人の制度を採っているからです。大半の州は、「共和党支持か、民主党支持か」、すなわち「ブッシュ支持かケリー支持か」という意思が固まってしまっています。ですから、問題は、まだどちらに転ぶか判らない、また、その州の票が反対側へ動くことによって、一挙に何十票かが動いてしまう大きな州がいくつかあるわけです。

  そういった州は、3つか4つあると言われていますが、その中の3つの州をレジュメの中でも挙げています。すなわち、フロリダ、オハイオ、ペンシルバニアなどがその州ですね。票数で言いますとフロリダが27、オハイオは20、ペンシルバニアが21……。どれもかなり大きな票です。この三つの州の共和党・民主党のそれぞれの支持率を見ると、非常に拮抗しているんです。フロリダは、先週の調査では、ブッシュがある程度優勢でした。しかし、残り2つの州では本当に拮抗している。つまり、たとえブッシュがフロリダの票を取ったとしても、オハイオとペンシルバニアの票を失えば、ケリーが勝つわけです。ですから、この3つの州のうち、2つをどちらが取るか? という点が、この大統領選挙を左右するのではないか? と言われています。全体の支持率を見ても、それがそのまま選挙結果に表れるとは限りません。この点をまず、指摘させていただきたいと思います。


◆選挙結果を左右する宗教的要因

  予想ですが、ここまで来ると本当に判りません。前回と同じように、非常に厳しい様相を呈してきています。今日、特にお話ししたいことは、この大統領選挙において、宗教的なファクターがいかほどの影響力を持っているのか? という点です。これについても、評論家によってさまざまな意見があります。私は「宗教的なファクターが重要だ」とそういう風に考えております。

  レジュメ3「ブッシュ候補支持の理由」のところに入っていきたいと思います。これもギャラップ調査機関が、この9月13日から15日にかけて行った非常に面白い世論調査なんですけれども……。この選挙戦で問題になっている、さまざまな項目があるんですが、その中のひとつに「あなたがブッシュ候補、あるいは、ケリー候補を支持する理由を、1つないしは2つ挙げてください」という問いがあります。

  ここで、いったいどの問題に対して、どの候補者を支持するかで、ブッシュ支持者とケリー支持者の意識が全く違うということが明らかになってきます。ブッシュ支持の重要な理由として「宗教」というキーワードが浮かび上がってきています。ブッシュ候補を支持する理由を、上位から順番に見ていきますと、「大統領としての仕事に満足」、「戦争・対テロ対策・国土安全対策」、「リーダーとしての資質」そして、4番目に「正直さ・誠実さ・倫理観」続いて5番目に「道徳的価値観・信仰」という項目が出てくるわけです。つまり、「信仰」や「倫理観」によって彼を選んでいる人が、それぞれ16%、15%いるということなんですね。

  これは単純に足すことはできません。というのは、1人の人が2つ答えても良い訳ですから……。そして、一番下が、「中絶問題」。ブッシュの「中絶(禁止)問題」に対するスタンスを、彼が大統領にふさわしいと思う理由のひとつとして挙げている人が、5%いるんですね。省略しましたが、もちろんこの下にも、まだたくさんの項目が続きます。


森教授の講演に真剣に耳を傾ける国宗会員諸師

  それに対して、ケリー候補を支持する理由を見ますと、「大統領を代える必要性・ブッシュへの不満」、「戦争・対テロ対策・国土安全対策」これはブッシュと反対の立場でしょう。それから「政策の選び方」これはどういうことかといいますと、ブッシュは、「対テロ戦争・イラク戦争」を大統領選の中心的なテーマとして掲げていきます。「それよりも重要なテーマがあるのではないか?」と訴えているのがケリーですから、そこのところが「選び方」でしょうね。

  次に、ブッシュ支持理由の項には出てきませんでしたけれども「経済政策」、「民主党支持」がそれぞれ11%。「ブッシュが嫌い」、「医療保険」と続きまして、「倫理観」の項目は、11番目でやっと出てくるわけです。「中絶問題」に至っては、たったの1%です。ケリー候補の「信仰の立場」を理由に選ぶ人は数字に出ないほど(1%以下)です。

  これを見比べていただいたら判るように、ブッシュ支持とケリー支持の理由がはっきりと違うんですね。ケリー支持の理由は「ブッシュが嫌いだから」なんですよ。「誰でもいいから、ブッシュを代えたい」わけです。対して、ブッシュが支持される大きな理由は「対テロ戦略」です。この点においては両者に対する評価が全く違います。2ページ目の「選挙の争点」の各項目を見ていただきますと、数字が出ていますが、対テロ戦略においては、ブッシュ支持が60%、ケリー支持が40%です。このように、ひとつの項目において、20%もの開きが出ているものは、他にありません。ですから、当然、ブッシュはこれを選挙の争点にしようとしますね。

  ところが、もうひとつ大きな違いがあります。それが「宗教・倫理」の項目なんです。ところが、この点に於いて、ブッシュを支持している人が、少なくとも15%いるわけです。この問題では、ケリー支持者は1%にも満たない……。


◆国民の4割が毎週教会に行く国

  それから、皆様にはお渡ししなかったんですけれども、別の数値を控えてきていますので、紹介したいと思います。今年の6月に行われました世論調査です。この世論調査では、「ブッシュ支持者、ケリー支持者の信仰的立場」を聞いています。いくつかの質問があります。

  まず、ひとつ目が、「大統領候補者の信仰を、あなたは、大統領を選ぶ時に問題にしますか?」と……。その設問に対して「問題にする」と答えた人は全体では28%です。ところが、「ブッシュに投票する」と答えた人々の中では、42%もの人が、これを「重視する」と答えているんですね。対するケリー支持者は17%です。それから、「大統領は自らの信仰、あるいは信心を政策に反映すべきか?」という質問に対して、ブッシュ支持者は、67%の人が「反映すべきである」と答えたのに対し、ケリー支持者は、わずか29%の人しか「イエス」と答えていない。

  また、別の質問で「あなたは先週、礼拝に行きましたか?」と……。おもしろい問いですよね。アメリカの世論調査はこういう問いの立て方をするんですよ。ギャラップ調査機関も、五十何年もの間、この質問を繰り返しています。答えは「イエス」か「ノー」しかないんです。例えば、「過去何十年間、毎週日曜礼拝に行っていたのに、たまたま先週だけ風邪をひいて休んだ」人は「ノー」なんですね。ところが、「今まで一度も教会に行ったことがなかったが、たまたま教会の前を通りかかったときに、賛美歌の心地よい音色が聞こえてきたので、礼拝に参加した」人は「イエス」なんです。「これではおかしい(実態を反映していない)じゃないか」と思うかもしれませんが、たくさんのサンプルを基に統計をとる時は、このほうが正確なんです。

宗教に関する統計調査を行った場合、日本の場合は、(所轄庁である文化庁に)それぞれの教団が自己申告をする訳ですから、その数字をすべて合算すると、総人口のおよそ2倍という変な数字が返ってきます。僕もダブルカウント、トリプルカウントされていると思いますよ。僕はクリスチャンですが、お正月には神社へ初詣に参りますし、また、お寺でもカウントされているかもしれません。ですから、日本の宗教人口は実際の人口の約2倍になる訳です。


◆アメリカの実像の半分しか見えていない

ところが、アメリカの場合はそうではありません。世論調査会社が4万人ぐらいの人々に電話で先ほどの質問を毎週する訳ですから、答える側としても「イエス」か「ノー」しかないわけです。これをやると正確な数字が出ます。だいたい何パーセントの人が毎週礼拝に出席しているかというと、平均40パーセントですね。東部と西部は30パーセントで、中西部は50パーセント。そして南部は60パーセントです。地域によってパーセンテージが違うんですね。

この40パーセントという数字はすごい数字です。アメリカ滞在の長い日本人の方にこの数字を言いますと、たいてい「嘘だ」と言われます。「そんなはずはない」と……。「私が仕事で、あるいは大学に通うためアメリカで暮らしていた時、周りの人間は10人に4人も礼拝には行ってなかった」と言うんです。それはそうでしょう。何故か? 日本から来ているような外国人と付き合うような人々は、この数字に表れてくる人々とはまた別の人々なんです。彼らが滞在していたいわゆる大学街や大都会において、毎週教会へ礼拝に行く人の数字を出したとしたら、20パーセントぐらいかもしれません。

これに対して、南部では60〜70パーセント。実は、この南部のようなアメリカに関する情報は、日本にほとんど入ってきていません。参考までに、ヨーロッパでの日曜礼拝出席率はどれくらいかと申しますと、先ほど三宅善信先生も触れられましたが、たった5〜10パーセントです。かつてのキリスト教国の中心であったヨーロッパ人の信仰心は、現在その程度なんです。

アメリカは世界第一の先進工業国でありながら、そこに暮らす人々がこのように非常に高い宗教への関心を示しているのは何故か? ここがアメリカを理解する上で非常に重要な点なのですが、日本ではそこが抜けてしまうわけですよ。日本にしてみれば、安全保障という最大の国益も委ねている最も重要な同盟国でありながら、アメリカの実像の半分しか見えていない。これは非常に危険なことだと思いますね。

先ほどのブッシュ支持者、ケリー支持者への「あなたは先週礼拝に出席しましたか?」という質問に対して、ブッシュ支持者は59パーセントが「出席した」と答えているのに対し、ケリー支持者は35パーセントです。確かに、これでちょうど全体では4割になるんですけれども、信仰深い南部は6割、そうじゃない世俗的な西部・東部は3割というのをだいたい反映しているのではないでしょうか? つまり、ケリー支持者は世俗的なアメリカを代表する人であり、ブッシュ支持者は信仰深いアメリカを代表する人であると……。そのように理解していただいていいのではないかと思います。アメリカはこの点において、ハッキリと2つに分かれてしまっています。


◆アメリカを二分する価値観の対立

次のページを見ていただきたいと思います。3ページ目に「文化戦争(カルチャー・ウォー)」ということを書かせていただきました。これは何かと申しますと、「価値観の違いによる対立」です。これはアメリカの様々な面に現れているんですね。それが最も顕著に表れているのが中絶と同性愛の問題なんです。ですから、「結婚」というものを「神様の御前で結ばれること(神聖な契約)だ」と捉えるのか、そうではなく、「男女の自由意志(当事者間合意)によるものだ」と捉えるのか、という二者択一の論理です。

「中絶問題」も、胎児のことを「神からいのちを与えられたもの」と捉えるのか、「中絶は女性(母体)の権利である」と捉えるのか? こういう価値観の違いは、今申し上げたような深刻な問題に限りません。

もっと身近な例を挙げますと、その人が「どんな車に乗るか?」ということからでも判ります。アメリカでは車は必需品ですから、趣向が表れてきます。仮に6万ドル(650万円)もするような高級車を買うとしましょう。その時に、どのようなタイプの車を選ぶのかがポイントです。キャデラックを買うのか?ベンツを買うのか?それともセルシオを買うのか? これらの車はほぼ同じ価格帯で購入することができるのですが、キャデラックを買う人と、ボルボを買う人とでは価値観が違うんです。お解りいただけるでしょうか? これはややこしいことろなんですが、この点が解ると、アメリカが随分見えてくるんです。これまでの日本人のアメリカ理解は、「豊かな人と貧しい人」あるいは「黒人と白人」というようなカテゴリーで二分されていたんですね。

ところが、今申し上げた例は、前提条件として、車を買うために皆、同じ6万ドルを持っているわけです。この6万ドルを使って、ギンギンギラギラのアメ車であるキャデラックを購入するのか? それとも、洗練された外車のボルボを買うのか? これを「経済力の違い」とは呼べないでしょう? このようなところにも、価値観やセンスの違いを見つけることができるんです。つまり、「アメリカ製にこだわらない(アメリカ製でなくとも、良いものは良い)」と思える国際派の人々と、「やっぱりアメリカ製のものでなければ!」というアメリカ至上主義の人々とに二分されているんですね。

そしてそれが、先ほど申し上げました中絶問題や同性愛の問題においても、中絶反対派は国内派(一国主義者)であり、中絶容認派は国際派(協調主義者)であると……。これが現在のアメリカの状況だと思います。今回の大統領選挙を見ていましても――ここ数回の大統領選は皆そうだったと思いますけれども――その両派の争いと言ってもよいと思われます。宗教の関係に置き換えますと、信仰深い人々を代表するか? それとも、世俗的な人々を代表するか? その争いになっていると申し上げてもよいのではないかと思います。

2ページ目に戻っていただきます。4番目の「選挙の争点」の項目です。私は争点はいくつかあると思います。まず、「経済問題」ですが、この点については、現職のブッシュよりもケリー候補のほうが優勢です。これは当たり前なんですね。経済問題に関して言えば、現職はどうしても不利ですよ。これは、どこの国でも同じことが言えると思います。ところが、その数値は10パーセント未満とそれほど差がついていないんです。それから「対テロ戦略」に関してはブッシュが断然有利です。これは現職が有利ですね。特に、戦時においては現職が有利になると思います。


◆アメリカ国民はイラク戦争を支持している

「イラク戦争」に関してはどうか? これは非常に微妙です。これは後ほど詳しく触れたいと思いますが、日本人やヨーロッパ人の、アメリカが行っているイラク戦争に対する理解の仕方と、アメリカ国民のイラク戦争に対する理解の仕方は違います。まず、その点を考えていかなければいけない。だから、ケリーは最後の最後まで「イラク戦争反対」ということを言わなかったんですね。もう不利になって、世論調査で10パーセント以上の差がついてきて「これは駄目だ」というので、最後の切り札のような形で、「ブッシュのイラク戦争は間違っていた」ということを、やっと秋になってから言い始めたわけでしょう。それは何故だったのか? それは、アメリカ国民の大半がイラク戦争を支持しているからですよ。それがわれわれ日本にいる者には伝わってこないんです。今になって、ケリーは「アメリカはイラクから撤退すべきだ」と言っているんですね。

レジュメにも少し書かせていただきましたが、英国政府は「2006年12月に8千人の兵隊を撤退させる」と、現在の与党(ブレア政権)である労働党の大会で表明しました。昨日か今日の新聞を見ますと、もうひとつの重要なイラク参戦国であるポーランドも、「来年の12月で完全撤退する」と言ったそうです。これはブッシュに有利なのか、ケリーに有利なのか……? ちょっと考えると、「イラク戦争がそもそも間違っていたのだから、撤退するんだろう。だから、これ(欧州勢の相次ぐ撤退表明)によって有利になるのはケリーであって、ブッシュではない」と皆さんは思われるかもしれませんが、私はそうじゃないと思います。何故かと言うと、ケリーのイラク戦争に対する政策は何かというと、「(アメリカの)肩代わり」なんですね。現在は13万人のアメリカの若者が戦地へ出て行っていますが、今後、アメリカ軍はそこからある程度撤退して「他の同盟軍によってそれを肩代わりしてもらおう」といった国際協調路線を訴えているわけです。

ですから、「現在イラクに駐留するアメリカをはじめとする同盟国の全てが撤退すべきだ」というのがケリーの意見ではないんですよ。「アメリカばかりがしんどい目をするのは止めよう。これからは国際協調で、他の同盟国にもお金や汗を出してもらおう」というのがケリーの政策です。しかし、イギリスもポーランドも撤兵するとなると、ケリーにはかえって不利に働くと思いますね。したがって、ほとんど差が生まれず、非常に拮抗してきています。


◆創価学会の二倍の票を持つ宗教右派

ここから宗教的要素が重要なファクターになってきます。2ページ目一番最後のところになります。まず、結論的に言うと、私は両者が接戦になって支持率が拮抗していけばいくほど、この「宗教・倫理」というファクターが大きな役割を果たしていくのではないか? と見ています。特にブッシュ陣営がこれを使い出すと思います。何故かと言いますと、今、ブッシュ陣営は非常に危機感が走っています。「1週間前までは8パーセントもの開きがあったのに、この前のテレビ討論で並んでしまった。これをどうやって引き締め、逆転していくか?」ということを、今、彼は必死で考えていますよ。日本の選挙でも同じことが言えると思います。こうなった時に選挙参謀が考えることは何かというと、「固定票を固め、浮動票を取る」です。では、ケリー、ブッシュ両候補の固定票とは何か? 何処にあるのか? この点を考えてみたいと思います。それによって、ブッシュ、ケリーのどちらが今後優勢なのか、僕の予想を少しさせていただきたいと思います。

今回の大統領選は、これまでの選挙以上に、相方の固定票は固まっていると思います。今、日本のマスコミはどこも「先頃公開されたマイケル・ムーア監督作品の『華氏911』という映画は大変センセーショナルで、今後(大統領選挙にも)大きな影響を与える(ブッシュ不利に作用する)に違いない」といった論調ですが、そんなことは絶対あり得ない。あの映画を見て喜ぶ人は、初めからブッシュが嫌いですよ。言い方を変えれば、「あの映画を見てブッシュを嫌いになった人はいない」ということです。ブッシュ支持派は変わらずブッシュを支持し、嫌いな人はその逆です。これはもうはっきりしていて、固まっています。あの映画一本で選挙結果が左右されるようなものじゃないと思いますね。この点は、アメリカでも日本でも選挙の専門家は同じような見解を持っています。それでは、「どちらがより固定票を固めているか」という点ですが、これは次のページを見ていただきたいと思います。

私はここで、ブッシュの固定票としての「宗教票」が、非常に大きな力を持ってくるように思うんです。これは、日本の選挙における創価学会票と非常によく似ていると思いますね。何故、あれほど創価学会票が大きな力を持ってくるのか? というと、全体の投票率が低いからでしょう。仮に投票率が10パーセント上がったら、創価学会票というのはそれほど大きな力にはなりませんよ。

ところが、この現象はアメリカにおいても全く同じなんです。日本の(衆議院議員総選挙の)投票率はだいたい60パーセントですが、アメリカ(の大統領選挙)は50パーセントと、日本よりもさらに投票率が低いんです。先ほど申しましたように、アメリカでは、選挙の度に「自分は投票します」という有権者登録をまずしなければなりません。けれど、登録をしていても当日投票に行かない人もいる訳ですから、結果的には、潜在的な全有権者の半数の50パーセントになってしまうんです。

この全有権者の約半数にあたる人々の中の15パーセントが「宗教右派」と呼ばれている人たちです。彼らは何がなんでもブッシュ支持です。先ほどの世論調査の中にも「何故ブッシュを支持しますか?」という質問に対し、「彼の信仰心、倫理観だ」と答えていた人が15、16パーセントいましたね。これが、この宗教右派の数に相当します。

宗教右派というのは、すなわち「プロテスタントの原理主義者だ」と思っていただいたらいいですね。この人たちは確実に投票に行きますが、彼らはそれのみならず、積極的に選挙運動をやります。


◆宗教右派が牛耳る米国政治

では、この15パーセントという数字がいったいどれほどのものか、ちょっとイメージしていただくために、アメリカのアフリカ系黒人の人口がどれぐらいか申し上げますと、これが、全部で12パーセントなんですね。アメリカで黒人というと、とても大きな勢力を持っているようなイメージがありますが、それでもたった12パーセントしかないんです。対する宗教右派のこの数字(15パーセント)を見て下さい。もしあなたがアメリカの政治家なら、どちらを向いて政治をしますか? 創価学会と比べてみるとどうでしょうか? 日本の国政選挙の比例代表選挙で、公明党が7〜8パーセントを取るとしますと、アメリカの宗教右派は、なんとその約2倍の15パーセントです。18パーセントという統計もありますから、これは少なく見積もって「2倍」ですね。日本の政治における創価学会票の2倍の影響力をこの右派は持っているわけです。

しかも、その大半が共和党支持でしょう? つまり、宗教右派は共和党の中の最大派閥なんです。ということは、共和党員の中で大統領候補になろうと思うと、この宗教右派の支持が無かったら大統領候補に選ばれない。つまり、大統領になる芽がないんです。そして、宗教右派が非常に大きな影響力を働かせて大統領候補を選び、結果、その人がアメリカ合衆国大統領に選ばれた場合、その人が世界の大統領になるわけです。単にアメリカ国内にだけ影響を与えるのでなく、われわれ日本人にも非常に大きな影響力を与えるアメリカの大統領に就任するんです。この宗教右派の大統領選出に対する固定票としての影響力だけをとってみても、われわれ日本に住む者は、もっとこの現実を深刻に受け止めてもいいのではないかと思います。

ブッシュはこの固定票を握っているわけですから、非常に強いですよね。対するケリーのそれに代わる固定票を挙げるとすれば、それは「ブッシュが嫌いだ」という票です。これもかなりの数だとは思いますよ。しかし、こういう人が必ず投票所まで行くかどうかまでを視野に入れて考えた場合、この「宗教右派」のほうがずっと「固定した票」です。ひょっとすると、「ブッシュ嫌い」は、天気が悪いと投票に行かないかもしれませんよ……。


◆同性愛の問題が選挙結果を左右する

それから、次に浮動票ですが、「浮動票がいったい何処にあるのか?」ということを今、両者は必死で探していると思いますね。と申しますのは、もうほぼ票の動きが固まっており、その結果として拮抗しているからです。私はこの僅かな浮動票にしてみても、「宗教」が非常に影響していると思います。私はレジュメの中に「浮動票としての福音派の中の穏健派」と書かせていただきました。この福音派というのは、プロテスタントの中の信仰深い人々です。「プロテスタントの保守派」と言ってもいいかもしれません。聖書を文字どおり信じ、伝道することを熱心に行う。「聖書に書かれていることは歴史的事実である」と受け止めているような人々です。このような人々がなんと驚くなかれ、全人口の4割を占めているんです! このパーセンテージは何回世論調査を行ってもほぼ変わりがないです。

それでは、この4割がすべてブッシュ支持かというと、違うんですね。そうだったら選挙する前に勝負はついてしまっています。ここが問題なんです。「ブッシュがどんなことをしても、あくまでも私はブッシュを支持する」という人々は、その内の15パーセントなんです。そして残りの25パーセントが「穏健派」なんです。この穏健派は必ずしもブッシュの政策を全部支持している訳ではありません。

例えば、イラク戦争に対してどういう態度をとっているかというと、福音派の穏健派の多くは反対だと思います。「イラクやアフガンに攻めていくよりも、アメリカにはもっとやらねばならないことがあるだろう」というのが穏健派の立場です。例えば、貧困の問題、アジアやアフリカのエイズの問題、あるいは環境問題など、こういうことをまずやるべきだと考えているわけです。彼らは非常に信仰深い人たちなんです。信仰深い人たちでありながら、イラク戦争に反対している人たちなんです。私はこれが浮動票としてあると思うんですね。

そうすると、「ケリーはこの浮動票に対してちゃんと働きかけられているか?」という疑問が湧いてきますが、ここで非常に大きな問題になってくるのが中絶と同性愛の問題なんですね。その内、今日は「同性愛の問題」だけを取り上げてお話ししたいと思います。国民の四割を占める「福音派は一枚岩ではない」と先ほど申しましたが、「同性愛の問題」に関しては完全に一枚岩です。「イラク戦争」に対しては一枚岩ではありませんが、「同性愛の問題」に対しては皆、反対です。私はこの「同性愛の問題」をブッシュはこれから持ち出してくると思いますね。

ちょっと時間も迫ってきているので急ぎたいと思います。次の「イラク戦争の大義」というところに進ませていただきます。それと、この「同性愛の問題」を絡めて行きたいと思います。


◆アメリカ人にとってのイラク戦争の大義とは?

「イラク戦争の大義」とは何であったのか?「(アメリカがフセイン政権の危険性の根拠として主張した)大量破壊兵器が、結局は見つからなかったということで、イラク戦争に大義はなかった」という議論が日本やヨーロッパではありますが、私はそれを違うと見ています。

少なくとも、アメリカ国民の目にはそのように映っていない。「大量破壊兵器の問題」ひとつとっても、アメリカ人はこう考えていると思います。「もし、フセイン大統領が『イラクは大量破壊兵器を持っていない』ということを証明していたら、アメリカはイラクに攻め込めなかっただろう」と……。ところが、フセインは実際どうしたかというと、これを曖昧(あいまい)にしたんですね。国連決議で「大量破壊兵器に対する査察を受け入れろ」と言ったのを受け入れなかったんです。

ということは、あの「9.11」米国中枢同時多発テロ以来、年を追うごとにアメリカにおけるテロ攻撃への恐怖心は大きくなっています。もし、あの飛行機に化学兵器や生物兵器が載っていたとしたら、被害はケタ違いに大きくなっていたはずです。まさに戦争なんです。

われわれは、アメリカ軍がイラクへ攻め込んだ時点からこの戦争は始まったと思っていますが、アメリカ人はそう思っていません。「9.11から戦争は始まった」のだと……。その戦場は何処かというと「アメリカ本土」です。米国史上初めて、本土を戦場とする戦争を戦っているんです。「次の9.11をどうやって防ぐか?」アメリカ人が考えているのはまさにこの「恐怖心」という点です。

僕は、今年アメリカに行く前(2004年8月)に、十日間ほどイスラエルに行っておりました。イスラエルでは様々な人々と話をしてきましたが、「9.11」後のアメリカと同じ思いを抱えて帰国しました。イスラエルの中の進歩派である左派の人たちも、あの分離壁に対しては反対ではありません。「あの分離壁というものがいかに非人道的なものであるか。これはベルリンの壁に匹敵するものだ」と国連でも決議され、日本のマスコミもこのことを叩いています。

イスラエルの左派の人々も、あの壁で「完全な平和が実現できる」とは思っていないですけれど、「今の時点では必要だ」と思っています。何故か? これも恐怖心によるものなんです。「テロに対する恐怖心」なんですよ。これからわれわれが平和を作り上げていこうとする時、憎悪や恐怖心をどうやって乗り越えていけるのか? この問題は本当に大きく、また、われわれが考えるほど簡単な問題ではないということですね。

私はアメリカに行った時、そのことをあらためて非常に強く感じました。アメリカはブッシュの『先制攻撃論(ブッシュ・ドクトリン)』を採用し、アメリカ国民はこれを支持しました。それは何故か? 「次の九・一一を起こさないためには、『危険である』と思ったものは、先にこちらから叩かなければならない」あるいは「国連は、次の9.11からアメリカを守ってくれるのか?」これが、アメリカの考え方です。

アナン事務総長は、このあいだ「アメリカの行動は無法である」と発表しましたが、その時、それを聞いたアメリカ人は、アナン氏の発言をどう捉えたかというと、おそらく、今私が申し上げたように感じたと思いますよ……。アメリカの穏健派の人々は、先制攻撃によってテロが防げるとは思っていないですよ。しかし、先制攻撃を行わなかったら、テロは無くなるのかというと、判らないわけです。そうして、恐怖心から先制攻撃論を選び取っていったんだと思いますね。

アメリカは、このイラク戦争なり、アフガニスタン戦争なりを正当化していかなければならないでしょう? 戦争には常に「大義」というものが必要になってきますから……。その場合の「アメリカの大義は何か」と申しますと、次に書いてある「自由と民主主義」なんです。

これは、2001年9月11日にテロ攻撃を受けた当夜から、ブッシュ大統領が言っている言葉です。「この攻撃は、文明と自由と民主主義に対する攻撃である」と……。これは別の言い方をすれば、アメリカのイラク戦争の大義は「次の9.11を防ぐ」ということと、もうひとつは「全体主義と戦う」ということなのだと思います。そして、「それこそが世界に対するアメリカの使命である」と考えていると思います。

第一次大戦ではドイツ皇帝という全体主義、第二次世界大戦はヒットラー、あるいは日本の軍国主義という全体主義、朝鮮戦争やベトナム戦争は共産主義という全体主義、湾岸戦争とイラク戦争においてはフセインという全体主義と戦ったのだと……。そして、全体主義の抑圧のもとにある人々を解放し、自由と民主主義を実現するのが、アメリカの使命であり、大義であるわけです。


◆ブッシュを救った同性結婚判決

しかし、この数カ月前に、このアメリカの大義がグラグラッと揺らいだことがあったんです。それが3ページ目の、イラクのアブグレイブ捕虜収容所で起きた『虐待事件』です。これが明らかになったことで、いわば「自由と人権と尊厳を尊重するために全体主義と戦っているのだ」というアメリカの大義が吹っ飛んでしまったわけです。「人権を尊重する」どころか、アメリカ軍がイラク人捕虜を「虐待している」わけですから……。

私は、これがブッシュ政権において、最大の危機だったと思いますね。ここをケリーが突いていったら、彼は勝てたと思います。ところが、まるで神風の如く、そのブッシュを助けるようなもの凄い追い風が吹いたんです。

それは何かといいますと、捕虜収容所での虐待が明るみに出て1週間ぐらい経過した時だったと思います。マサチューセッツ州が「同性愛者の結婚を合法とする」という州の最高裁判所の判決を出したんです。このマサチューセッツ州というところが重要なんです。というのも、ケリーはマサチューセッツ州選出の上院議員だからなんです。「あのケリーのマサチューセッツ州が同性愛者の結婚を合法化した」ということをブッシュは即座に利用して、この州の最高裁の判決を覆す政策を執ると表明しました。どうするかといいますと、憲法改正案です。最高裁の判決というものは、憲法に従って出されるものですから、憲法そのものを変えてしまえば、この判決は覆されるわけです。

ですから、憲法において「結婚は一組の男女の間で行われなければならない」ということが条文に書かれてしまえば、マサチューセッツ州における同性愛者の結婚もできなくなるわけです。ブッシュはそれを打ち出しました。穏健派の福音派は大喜びだと思いますよ。

では、対するケリーはどうか? ケリーの固定票を支えているのは、「中絶の自由」を認め、「同性愛者の婚姻の合法化」を求めているリベラル派です。ですから、ケリーはこの判決に対して「それは駄目だ」と打ち出せないんですね。彼はこの問題に対して、「個人的には同性愛者の結婚には反対である――これは福音派の穏健派のほうを向いて言っているわけですが――しかし、それを禁止する条例を憲法に書き加えることには反対だ」と答えを打ち出しました。つまり、「各州が独自に判断すべきだ」という立場を打ち出したわけです。

これを大きな浮動票である福音派の中の穏健派は、「やはりそうか。ケリーは同性愛の問題に対して、真剣に反対していないんだな」と受け止めますから、これはケリーにとって、非常に不利だと思いますね。ブッシュはこの点を必ず突いてきますよ。では、ケリーはどうしたらよいのか? この問題はすでに泥沼に填(はま)ってますから、何か別の問題に振らなければならないと思いますね。

別の問題を振ることによってこの穏健派を惹(ひ)きつけなければならないんですが、ケリーはそれをやってないんです。クリントンはこれをやりました。「公立学校における宗教教育の強化」ですが、それが結果的に福音派の三割五分から四割の票を集めて再選に成功したと言われています。

ですから、現時点では拮抗していますけれど、これから、ブッシュ陣営がケリー陣営をこの問題を盾に本気で攻撃すれば、その効果が現れてくるのではないか? というのが私の分析でございます。時間が少々超過いたしましたが、以上で私のお話を終わらせていただきます。有難うございました。

< 質疑応答 >


森孝一先生

三宅善信:  それでは、後半のセッションを始めさせていただきたいと思います。30分間ほどございますので、先ほどの森先生のご講演を受けて、時間の許す限り皆様にご質問をしていただきたいと思います。いつものように、お名前と所属のご教団名をおっしゃってからご質問いただけたら有難いと思います。どなたかございませんでしょうか? いつも最初はなかなか手が上がらずに、終了間際になってから急に続けて質問が出ますと、司会進行として非常に困るのですが……。では、どなたかからご質問があるまで、司会の私のほうから森先生にご質問をさせていただこうと思います。

今、森先生のお話の中にもあったように、一番大事な点は、われわれのよく知っているアメリカと、われわれの知らないアメリカがあるという事実です。われわれは宗教者として、この大阪国際宗教同志会もそうですが、WCRP(世界宗教者平和会議)など様々な諸宗教対話の団体に関わっておられる先生方も多いと思いますが、その中で「(キリスト教とは)異なった宗教である神道や仏教とも対話を続けることが大切だ」と唱えておられるアメリカ人もたしかに大勢おられると思います。しかし、そういう人々は、アメリカ人全体の中では半分以下だということを、われわれ宗教者だけでなく、政治家でも経済人でも知らなさすぎるという事実です。

われわれ日本人は、常日頃からそういう人々とばかり関わっているせいか、「民族のるつぼであるアメリカ人は、外国の異なった文化を持つ人々に対して非常に寛容である」というイメージを抱きがちです。今回の大統領選で言えば、ケリー候補に投票するような人々です。実際、そういった人々は中絶や同性愛の問題に対しても非常にリベラルな人たちなんですね。そのような人たちが「異なる宗教の人々とも対話をすること」に意欲的なんです。

その一方で、先ほどの森先生のお話にも出てきました福音主義(Evangelical)の人たちは、「唯一の正しい宗教はイエス・キリストの福音しかない」と認識していて、「(キリストの福音を相対化させることになる)諸宗教間の対話や協力などはもってのほかだ」と思っているわけです。ということは、われわれ日本の宗教者が当然のこととして、長年にわたって取り組んでいる諸宗教間対話は、アメリカの宗教界においては、そのことに価値を見出しているのは少数派なのだという事実を教えていただいたと思います。この辺でどなたかご質問はないでしょうか?


西奥薫尚:  成道会教団の会長をしております西奥と申します。非常に初歩的な質問なんですけれど、アメリカの人口の40%は福音派だとお伺いしましたが、では、あとの60%の分布はどのようになっているのでしょうか?


森 孝一:  この「福音派」というのは、特定の教派名ではございません。アメリカのプロテスタント諸教派の中の、ある信仰理解を同じくするグループであると考えていただいて良いと思います。アメリカの宗教人口全体の割合をご紹介いたしますと、プロテスタント(諸教派)がだいたい60%、カトリックが25%、ユダヤ教徒が2%、モルモン教徒が2%、ギリシャ正教徒が1%になります。これを全部足しますと、約90%になります。この足された数の人々は、いわゆる「聖書の神を信じる人々である」と言えると思います。

それ以外に、仏教、ヒンドゥー教、イスラム教などがございますけれど、これらを全て合計してもほんの数パーセントです。それから、「全く神を信じない人々はいかほどか?」と申しますと、8%から9%だと言われていますが、その中には「自分はキリスト教の神を信じているが、特定の教派のキリスト教は信じない」という人も含まれますので、全くの不可知論者(註=「人間はものごとの本質や心理など客観的実在については何ひとつ知り得ない」とする哲学的立場)といいますか、無信仰者、無宗教者というのは、4、5%と考えてよいのではないかと思います。

アメリカでは、現在、「イスラム教徒が増えている」と言われていますが、それでは「どれぐらいいるか」という正確な統計はございません。ギャラップの調査では1%を割ります。因みに、アメリカの総人口の1%は約250万人のことです。ある人によれば「600万人いる」とも言われています。以前、イスラムの宗教指導者の方が日本に来られた折に「いったいどれぐらい(信者の方が)おられるのですか?」と伺いましたら、「500万人います」と答えられました。「その根拠は何ですか?」と問いますと、「ニューヨークタイムスにそう書かれていたので……(会場笑い)」との答えでした。つまり、統計的データがないんです。

というのは、ギャラップの集計方法は先ほど申し上げましたように、毎週、電話をランダムに各家庭にかけて「あなたの宗派は何ですか?」と尋ねますよね。その問いに対して「私はイスラム教徒です」と答えた方が1%いるということですが、今、非常にそう答えにくい状況がアメリカにはある。ですから、統計をとると、この数字になっているのではないかと思います。私は、アメリカのイスラム教徒はユダヤ教徒と同じ2%(500万人)ぐらいではないかと思っています。そして、今、問題になっている「福音派」というのは、全人口のほぼ60%(約1億5000万人)いるプロテスタントの中でも、特に信仰深い、あるいは、信仰理解において保守的な層です。ですから、総人口に占める割合から申しますと、40%(約1億人)が保守派のプロテスタント、20%(約5000万人)がリベラル派のプロテスタントということになります。


三宅善信:  有難うございます。本当にわれわれは、アメリカの宗教的状況について、知っているようで知らないなと思いますね。ですから、「福音派」というのはいくつかのプロテスタント教派の中で、特に保守的な考えを持った人々を総称した名前であって、特定の教派名ではないということですね。逆に、「ひとつの特定の巨大な教派を挙げる」とすれば、(プロテスタントではない)ローマカトリック教会が単独で25%(約6000万人)と最大教派なわけです。ですので「福音派」とは、メソジストやバプテストといったプロテスタントの諸教派内に散らばっているということです。

他にご質問はございませんでしょうか? どのような質問でも結構です。なかなか私ども国宗でも、キリスト教の先生をお招きして、お話を伺う機会がございませんので、この際に……。先ほどもアメリカにおけるイスラム教徒の人口が約1%とおっしゃっていましたが、1%という数字の影響力が大きいか小さいかは、日本におけるキリスト教徒の合計も約1%ぐらいですから、日本におけるキリスト教徒のプレゼンスと比較すれば解りやすいかもしれません。文化的には決して小さくはないが、政治的には、全く無力であるという意味です。本日カトリックの先生がお一人来られる予定をされていたのですが、急用が入ってしまい、来られなくなったので、それでは、神道の三輪先生にお願いできますでしょうか? 日吉神社の宮司であられます三輪先生は、本日、わざわざ愛知県からお越しいただいています。


三輪隆裕:  私は、国際宗教同志会のメンバーではなく、本日、飛び入りで参加させていただいたんですが……。実は、この間、自民党のある国会議員にこのような話をさせていただく機会がありました。「せっかくあれほど小泉(首相)とブッシュ(大統領)の仲が良いのだから、全体主義が嫌いなブッシュに頼んで、アメリカから北朝鮮に先制攻撃をかけてもらってはいかがですか」と私が申しましたところ、その国会議員の先生は、「三輪さん、そうはおっしゃいますけれども、アメリカは自分の得にならないことはしませんからね。北朝鮮を叩くなんてことは、ブッシュにとって何の得にもならないから、彼はしませんよ」という答えが返ってきました(会場笑い)。キム・ジョンイル(金正日)は、森先生のおっしゃる第一次大戦時のドイツ皇帝であり、第二次大戦時のナチや日本の全体主義であり、イラクのフセインである訳ですから、得になろうとなるまいと、アメリカの「全体主義と戦う」という大義からいうと、北朝鮮も叩かなければならないはずです。

実際に、北朝鮮は、アメリカが憎む全体主義国家であり、テポドンという核の運搬手段(ミサイル)を持っており、核兵器もほとんど持っている状況だと思います。そう考えると、日本はもっと「北朝鮮の存在に恐怖感がある」と主張しても良いと思うんですね。そうすれば、日本は、同盟国としてアメリカにこれだけ尽くしているのだから、アメリカは日本のために北朝鮮を叩いてくれるのではないか? と思うのですが、その辺はどうでしょうか。


森 孝一:  先ほど紹介にもありました同志社大学が創りました一神教学際研究センターのメンバーには、自衛隊の幹部も入っています。昔(の階級)で言うと少将ぐらいの方です。彼と一緒にいろいろ議論をする中で今のような話も出るのですが、答えは簡単なんです。それは「現在アメリカには、同時に2カ所で戦争をする能力はない」と……。イラクに既に13万人派遣しており、朝鮮半島の軍隊(在韓米軍)数を減らしてでもその分をイラクに派遣している状態ですから、2カ所で戦争をすること(二正面作戦)はできないわけです。

ですから、イラクが片付いたら、その後はどうなるかは判りません。ある人は「この(イラク)戦争は石油目当ての戦争だ。だから、石油のない北朝鮮を攻めていって犠牲を払う価値がない」と言っていますけれども、僕はそれは違うと思います。先ほども申し上げたように、今、アメリカが戦争をしかける一番根本にあるのは「恐怖心」ですから、もし「第二の9.11を起こす危険性が北朝鮮にある」とアメリカが判断したら、いつでも攻めると僕は思います。今は能力的にできないだけだと思います。


三宅善信:  有難うございます。一般的に「軍人は戦争をしたがる」という間違った認識が定着していますが、実際には、軍人は戦争をすることに消極的で、文民(役人)のほうが、実際の戦争の現場の悲惨さを知らないから、割と威勢の良いことを言うこととなっております。アメリカでも、イラク戦争に消極的だったのは、制服組のトップである統合参謀本部議長まで務めたパウエル国務長官で、積極的だったのが、ライス補佐官やラムズフェルド国防長官たちですから……。

他にご質問はございませんでしょうか? それでは、次は仏教界から、融通念佛宗の宗務総長であられます山田隆章先生お願いできますでしょうか?


質疑応答をする
山田隆章師と森孝一先生

山田隆章:  融通念佛宗の山田隆章でございます。森先生の素晴らしいお話を聞かせていただいたことで、常々疑問、不思議に思っていたことがよく解りました。有難うございます。

私が疑問に思っていることのひとつに、アメリカの方々は何かで成功したときに、あの科学の最先端の国の人ながら「これは全て神様のおかげです」と、よく言われますよね。これに対し、日本人は、むしろ「学識者」と呼ばれる人々の中に「無神論者」の方がおられたりします。私はここに問題があると思います。あえて名前を出させていただきますが、この間、道路公団民営化問題の時に頑張られた猪瀬直樹さんという方がテレビ番組に出ておられたのですが、その中で、彼は「私は無神論者だ」と堂々とおっしゃっておられました。私はこの一言に本当に愕然といたしました。以前から「素晴らしい発言をする方だなあ」と注目していた方だったのですが、「どのようにして日々を過ごしておられるのだろう」と思いました。

何故、日本人は、かくも簡単に、「私は無神論者だ」「無宗教者だ」と言いきれ、あるいは、海外で「あなたは何を信仰していますか?」と尋ねられたときに、はっきりと自分の信仰について答えることができないのだろうか? そういった疑問点を念頭に置きながら、森先生のお話をきかせていただきました。

今の日本では、一年に35,000人にも及ぶ人が自殺で亡くなっており、日々新聞を見ましても、巷には残忍な殺人事件が溢れております。私は、これは宗教心、あるいは、宗教教育の欠如が引き起こしたのではないかと思っているのですが、その辺の森先生のお考えを聞かせていただけたら、と思います。


森 孝一:  これはむしろ私が教えてもらわないと駄目なところだと思います。やはり、歴史的背景の違いが大きいのではないかという気がいたします。ヨーロッパやアメリカの歴史は、すなわちキリスト教の歴史でもあります。キリスト教がローマ帝国の国教になったのが紀元391年のことですが、それ以降ヨーロッパや、その延長と言えるアメリカの歴史と、キリスト教は深く関わってきたわけです。しかし、中世の歴史を見ていただいても判りますように、いわゆる政治権力と教会が対立した時代があるわけです。

ところが、日本の宗教の歴史を見てみますと、そういった(政治権力と宗教の)対立はほとんどない。常に政治が宗教を支配し、利用してきたのではないかと思います。そういう中で、一般的な日本人の宗教に対する評価というのは「教団宗教に対する評価」だと思うのですが、それが非常に否定的なものになってきていると思います。残念ですが、そのことがまず事実としてあるのではないでしょうか。

それから、日本のいわゆる「インテリ層」というものについて考えてみたとき、日本ほどマルクス主義がインテリ層に大きな影響を与えた国は少ないのではないかと思います。そのマルクス主義の影響で、彼らは容易に宗教に対する否定的な態度を執ることが、さも教養ある者のあり方だという風に考える傾向が日本にはあるのではないでしょうか。

これはひとつの文明史観でもあると思いますけれど、ここ300年ぐらいの「近代」を支配したものの考え方の中心にあるのが、「人間がだんだん知恵をつけて進歩していくと、人間は自分の足で立つようになる。そして、神や仏を必要としなくなってくる。そして、人間は自立し、最後には宗教は無くなるのだ」とか、あるいは、「宗教は阿片であるが、経済格差が無くなれば、この阿片は必要なくなるのだ」と……。これが、近代思想の根本にあると思います。これを「世俗化」と申します。代表的な思想家を挙げるとしたら、僕はマルクスだと思います。

では、歴史はそれに対してどう実証したかといいますと、全く反対の答えを出した訳です。すなわち、「宗教の消滅を予言したマルクス主義が崩壊し、その崩壊後に、民族と宗教を中心とするアイデンティティというものが現れてきている」というのが、現在の状況ではないかと思います。ですから、「世界に目を向ける限り、宗教というものは、実は人間にとって重要な働きをしているのだ」ということは認めざるを得ない。しかし、日本のマスコミや知識人はそれを認めたがらない。そんなところから、私は現在の日本を、世界のレベルから見た場合、「少し(常識の)外にいるのではないかな」という印象を持っております。

それでは、日本の宗教と欧米の宗教を同列に扱っていいのか? と申しますと、私はもう少し丁寧にやるべきではないかと思っています。私は「日本人は非宗教的である」とか、「宗教に対して否定的である」とは思っていません。ただ、日本の宗教の型と、欧米のそれとは違うんじゃないかと思います。欧米の宗教の型というのは、やはりキリスト教を中心とする教団中心型宗教だと思います。

ところが??もちろん、本日ここにお集まりいただいている先生方は、それぞれの教団を代表しておられる方ですけれども??一般的な日本人の宗教性というものを考えたとき、教団宗教が中心ではなくて、むしろ、生活の中や年中行事、そういうものの中に表れてくる宗教性と、祖先崇拝が非常に深く関係したものが宗教性の中心になっているのではないかと思われます。そうでないと、毎年毎年くり返し初詣に8000万人もの人が行くはずがない。実際は4000万人ぐらいだと思いますが……。たいてい、初詣は2カ所ぐらい行きますからね。それらがダブルカウントされて……。しかし、そうだとしても、すごい数字じゃないですか。ところが、その4000万人の人々は、自分がどこかの神社を信仰しているが故に行っているか? と考えると、「そうじゃない」と僕は思います。ほとんどの方が「信仰とは関係ないもの」として行っていると思います。

では、その行為を、外国人から見ても「宗教的な行為ではない」かと言うと、やはり、これは立派な宗教であるわけです。『ゆく年くる年』のテレビを視た時や、初日の出を見た時、初詣に行った時、清々しい気持ちになる。この「清々しい気持ち」は、紛れもなく宗教だと思いますね。しかし、これは、キリスト教的な型の宗教とは違う型であるわけです。型が違うだけで、日本人が宗教的であることには変わりがないと思います。しかし、『紅白歌合戦』や『ゆく年くる年』の視聴率が年々下がってきているということは、日本の宗教性にとって、大きな地殻変動が起こりつつあるのではないだろうか? という風に考えています。


三宅善信:  有難うございます。先ほど教団宗教のお話が出ましたが、キリスト教の場合、信仰告白や教義がしっかりとありますが、日本人の宗教的習俗というのはそうではない部分が多いわけです。ですから、森先生のおっしゃるように、これを単純に比較することは難しい訳です。しかし、少なくとも、新宗教というものには「教団」というものが、その行動様式も含めて非常にはっきりとした形で表れていると思います。もちろん、教団運営についての日本的閉鎖性も否めませんが、一方で、日本の新宗教ならではの国際性もあるのではないかと思います。という訳で、新宗教の教団を代表して、妙道会教団の宮尾先生にご質問をお願いしたいと思います。


宮尾早雄:  妙道会の宮尾でございます。よろしくお願いいたします。もうあと1カ月弱で、大統領選挙の本番ですが、テレビ討論があと2回ございます。森先生のお話によりますと、宗教と倫理がひとつの中心的なテーマとなり、これから討論が行われるということでしたが、その詳細をもう少しお伺いできたらと思います。内容と申しますか、予想される状況についてお願いいたします。


森 孝一:  私は、宗教と倫理の問題がテレビ討論の中心テーマになるとは思いません。ただ、ブッシュはこれをケリー批判の重要なファクターとして利用していくのではないだろうかと見ています。それは、先ほど申し上げましたように、今回は中絶問題よりも、同性愛者の結婚を合法化するかどうかが中心になっている訳ですけれども、それに対する賛成派と反対派は、はっきり分かれています。むしろ、浮動票の中にも同性愛婚に反対する人々がいますから、おそらくブッシュは「ケリーはその問題についてどう思うのか?」というようなことを聞いてくるのではないかと思います。また、ケリーの態度の曖昧(あいまい)さと申しますか、立場を時によって変えるところを攻撃するために持ち出してくるのではないでしょうか。


三宅善信:  できれば、相手とまともにディスカッションができない日本の総理大臣を、むりやりテレビカメラの前に引きずり出して、答弁拒否を許さない形でディスカッションさせてみたいと、私は常々思っています。野党の質問に対して答弁義務のある国会でも、本気で答弁しているように思えませんし……。アメリカのような政治家の選抜システムだと、日本の今の総理大臣は絶対に大統領には選ばれないんだろう。それが日米の違いなのだろうかと考えながら聞かせていただきました。そろそろ時間も迫ってまいりましたので、誠にお名残り惜しいのですが、ひとまずこれで森先生とのディスカッションを終えさせていただこうかと思います。森先生、有難うございました。

                          (連載おわり文責編集部)