左藤 章先生
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▼何故、郵政民営化に反対したのか
衆議院議員の左藤章でございます。お手元に資料が配られていると思いますが、最初に確認させていただきます。安保法制に関する資料と、この2部に加えて「Q & A」と書かれた資料がございます。こちらが日本の防衛に関する資料です。それから、表紙に「参考資料」と書かれたものが、中国公船が領海侵入した際のスクランブルに関する資料でございます。資料が揃っているのを確認しましたので、話を始めさせていただきます。
本日はお招きをいただきまして有り難うございます。国際宗教同志会様には、義父の恵(註:左藤恵元法務大臣。2006年から2010年まで国際宗教同志会の会長を務めた)も大変ご厄介になっていまして、感謝申し上げます。私は2000年に初当選し、2005年まで衆議院議員を務めさせていただきましたが、その年の夏に、小泉政権が強行した「郵政民営化の是非」を問う総選挙がございました。私は郵政民営化に反対しましたが、何故、反対したかと申しますと、民営化に反対というよりは、その法案の中身がハチャメチャなので「これはえらいことになる」と思ったからです。
残念なことですが、その後、われわれが心配した通り、現場はえらいことになっています。全国に約24,000カ所の郵便局がありますが、これを100%民営化すると採算ベースの問題になります。そうすると、当然、田舎の郵便局は赤字になります。東京駅前にある東京中央郵便局の収入だけで、北海道にある約1,500カ所の郵便局の赤字を全部穴埋めにすることができますが、それほど地方の郵便局は赤字経営だということです。
地方には、信用金庫、信用組合を含めて銀行はそれほどありませんが、2003〜04年頃には、大合併もあってその銀行の数も減ってまいりました。私は大阪市阿倍野区に住んでいますが、阿倍野区にあった大手銀行ですら減ってしまいました。「採算が合う、合わない」を基準に考えますと、当然、地方の郵便局は赤字ですから、地方の郵便局はなくなっていきます。そうなった場合、田舎の人たちの日頃のお金の出し入れを含めた金融をどうするのか? それと共に、田舎は過疎化が進んでおり、言い方は悪いですが、お年寄りばかりになってしまいます。そうなると、お金を出し入れしようにも、中核市の中心部にしかない銀行は遠いですから、自然と郵便局を利用することになります。当時は、お婆ちゃんが顔馴染みの郵便局の配達員の人に「明日、10万円おろしてきてね」と通帳とハンコを預けると、翌日もしくは次の配達時にお金をおろしてきてくれるというサービスも行っていました。
これが民営化すると、それまで郵便局が担っていた配達、貯金、簡保等の業務が、それぞれ別会社になりますから、他所の仕事はできなくなります。当然、サービスは悪くなりますし、お年寄りも手持ちの現金をこまめに出し入れできなくなります。しかし、私が一番心配したことは、そうなった場合、お年寄りは現金を家に置いておかなければならなくなる。これではまるで「泥棒さんいらっしゃい」と言わんばかりです。また、田舎の家は都会のように壁一枚で隣り合っている訳ではありませんから、強盗に気が付いて大声で騒いだとしても、隣家の人は全然聞えないことだってあり得ます。治安も含めて、大変なことになるなと思いました。確かに、お役所仕事よりは民営化したほうが良いとは思います。しかし、それならもっと良いやり方があるだろうという思いから反対した訳です。
国宗会員諸師に防衛問題について解りやすく講演する左藤章氏
一番ショックだったのは、郵便局の資産―「資産」といっても郵便局のものではなく、われわれ国民が作った財産ですが―が一山ナンボで売られてしまうことです。例えば、1万円で売られた施設があります。どこが買ったか調べに行くと、銀座にある会社でしたが実態がない幽霊会社でした。この施設は結局転売され、6,000万円で売れたそうです。鹿児島県の指宿に温泉付きの簡易保険の施設がありますが、資産総額4億7,000万円の価値がありましたが、10万円で売却したそうです。買った人はボロ儲け…。そんないい加減で出鱈目なやり方でわれわれの資産を処分しているのが見えていましたので反対しましたが、当時、小泉さんはアメリカと一緒になって郵政民営化に賛成した訳です。
実は、当時の日本郵政公社はたった1社で320兆円もの資産を有する世界で最も資金を持った組織でした。その膨大な資産をいかに資金運用に回させるかがアメリカの本音であります。郵政公社を民営化して株式3分の1を取れば、経営権や運用権を取れます。そういうことを争点として、2005年8月8日に衆議院が解散されました。ニューヨークタイムズやワシントンポストの見出しには「間もなく日本から1兆ドルがやってくる」と書かれていました。これはつまり、「今日本の郵便局にある320兆円ものお金は全部アメリカの自由になるんですよ」と見出しに書かれていたんです。
ところが、そのことは日本では全く報道されませんでした。何故か? これが日本の政治のおかしなところで、報道機関がいかにいい加減かということもよく表しています。例えば、アリコジャパンなどのアメリカの保険会社が日本のテレビや新聞でコマーシャルを打ちました。そして「郵政民営化は素晴らしい」ということをどんどん番組で言ってもらうようにしました。「郵政民営化はおかしい」と言って反対した学者や評論家は、一日二日はテレビに出られますが、三日目には出演させてもらえなくなりました。
そして、郵政選挙です。これは後で判ったことですが、アメリカの人たちが言っているのですから、私は本当の話だと思います。この時、アメリカはいったいどれだけの広告宣伝費を使ったと思いますか? 実は、320 兆円を取るために、5,000億円ものお金を使ったんです。これを彼らは「金利にもならない」と考えたんです。50億円も使えば日本のマスコミは喜んで宣伝してくれるのに、5,000億ですよ! それだけの大金を使って郵政を民営化した訳です。政治の怖いところでありますが、結果は巧くいっていません。実際にやってみたところ、あの制度設計ではガタガタになりました。
▼増加する周辺国の軍事費
郵政の話をするために今日ここへ来た訳ではありませんが、そういう事情から選挙の時に私の選挙区にも刺客が飛んできて、まさか落選するとは思いませんでしたが、落ちてしまいました。都会ということも含めて、マスコミの力をあらためて知った次第です。これまで正しい事実を述べ、信念を曲げずにやってきましたが、信念を曲げないだけではなかなか通じないものです。私も含めて凡夫の世界だなと思います。
日本の防衛費の推移
現在、日本を取り巻く国際環境、とりわけ安全保障に関する環境は大変な状況になっております。冒頭に資料の説明をさせていただきましたが、アメリカの防衛費は年々下がっているものの、中国やロシアの防衛費はどんどん増えています。日本はどうかと申しますと、資料1をご覧ください。今年の予算で4兆8,600億円ちょっとありましたが、実際は5兆円を超えています。これに加えて1,933億円がSACO関係経費として計上されています。これは対アメリカの諸経費です。例えば、沖縄基地の従業員の給与ですとか、沖縄の基地をグアムへ移転するための費用を入れると、5兆ちょっとになります。「日本の防衛費はどうなっているのか」という声がよく聞かれますが、実際はほとんど変わっていないということです。平成9年と現在を比較した場合、物価は上がっていますし、人件費も上がっているにもかかわらず、防衛費の総額はほとんど変わっていません。これが日本の防衛費の実態であります。
ロシアの防衛費の動向
では、中国はどうかと申しますと、資料11ページをご覧ください。左側にありますように、8,896億元と素晴らしい伸びです。為替によって変わるので一概には言えませんが、1元を17.4円で換算した場合、ざっと16兆円になります。この金額は前年対比12.2%の伸びです。今年はさらに6.9%の伸びですから、ざっと17兆円になります。これは表の話で、現実は20兆円を超えているんじゃないかと言われています。隣のロシアはどうかと申しますと、23ページをご覧ください。ロシアも一時景気が厳しくなりましたが、防衛費は上げてきています。これらのポイントを押さえた上で、話をお聞きいただければと思います。アメリカは中東へ戦争を仕掛けたりといろいろあったため膨大な費用がかかっていますが、防衛費そのものは減っています。それでも50兆円以上使っています。「日本は再び軍事大国への道を歩んでいる」と言われますが、周辺国の防衛費と比較した場合、どうということはないなと思います。
中国の公表国防費の推移
▼北朝鮮の脅威
われわれが気になるのは、北朝鮮の核とミサイルの発射実験であります。3ページに今年のできごとだけをピックアップしてありますが、何発も弾道ミサイルを発射していますし、核実験も行っております。先日行われた労働党大会の前後にも「ムスダン」というミサイルを発射して4回連続で失敗しました。この「ムスダン」というミサイルは、射程距離が3,000キロから4,000キロあります。資料8ページをご覧ください。「ノドン」というミサイルがありますが、この射程距離が1,300キロですから、日本はこの「ノドン」の射程距離内となります。にもかかわらず、何故このムスダンの実験を繰り返し失敗を繰り返しているのか? それは、このミサイルがグアムまで届くことが可能だからです。「テポドン」は、アメリカ本土まで届けることが可能です。それ故に、これらのミサイルはアメリカにとっても脅威であり、北朝鮮は威嚇として用いることが可能なのです。因みに、ノドンミサイルは300から400発あると言われていますが、このミサイルは固定発射台を必要としません。トラックに乗せて移動させ、何処からでも打つことができるのです。ノドンはこれまで失敗していませんから確実に日本に届きます。彼らの狙いは、核やミサイルでもって北朝鮮の国際的ポジションを引き上げ、アメリカや日本からいろんな援助を引き出すことです。悪い言葉で言えば「恫喝」です。威嚇に使われています。若い金正恩は大丈夫か? という声が聞かれますが、実は父親の代からしょっちゅうクーデター未遂はありました。見事に潰されましたが…。金正恩の時代になってからも何度かクーデター未遂事件が発生したことがあるようです。北朝鮮に限らず、日本でも酒の席で酔っ払って、つい「うちの親父は駄目だ」などと父親の悪口を言ってしまったり、愚痴をこぼしてしまったりしますが、北朝鮮の場合は、たとえ愚痴でも、言った途端に捕まります。
北朝鮮が保有する弾道ミサイル
現在、北朝鮮は水陸両用の訓練を行っていますが、これはどういうことかと申しますと、米韓の軍が北朝鮮へ北上してきて朝鮮半島がやられた場合、海から水陸両用の戦車を揚げて奪還する訓練を行っています。正直なところ、北朝鮮の兵器のレベルは大したことありませんが、訓練を怠っていません。さまざまなミサイル発射に関する改良を重ねております。
先日、北朝鮮が潜水艦からのミサイル発射実験に成功しましたが、潜水艦が何処にあるかは偵察機や衛星で見ていてもなかなか判りません。日本は今度、P-1という新しい哨戒機を造りましたが、この哨戒機は1万メートルぐらい上空から敵の潜水艦を探査します。これで「ちょっと怪しい」と感じたところにソノブイを落として行き、水中ソナーでもって確実に敵潜水艦をチェックしています。
北朝鮮の弾道ミサイルの射程
現在、水中からミサイルを発射する能力を有しているのは、アメリカ、ロシア、中国、イギリスぐらいでしょう。北朝鮮はこれに含まれませんでしたが、仮にこれが確実に日本まで届くことになった場合、防衛するのはなかなか困難です。北朝鮮の保有するミサイルの射程距離を平壌から同心円状に表した時のものが資料の9ページにまとめてありますが、これをご覧いただくと判りやすいと思います。現在の状況はそういった感じであるということだけは認識いただけると思います。
▼一触即発の現場
今、一番「困ったことだ」と思われることのひとつが、中国による南シナ海における人工島の建設ですが、東シナ海に対しても酷いものです。資料11ページに中国軍機に対する自衛隊機のスクランブル発進の回数をグラフにまとめたものが載っていますが、こちらの新しい表をご覧ください。以前はスクランブル自体少なかったのですが、近年大幅に増えています。他国の軍用機が日本の領空に飛んできた場合、自衛隊の戦闘機が「ここは日本の領空だから帰るように」と追い出すためにF2やF15という戦闘機がその都度発進しています。グラフをご覧いただくと、一度減ったスクランブル発進の回数が、近年再び増えてきていることが一目瞭然です。平成26年度のデータを見ると、943回スクランブル発進を行っています。その内訳は、ロシア軍機が473回、中国軍機が464回です。ちなみに米ソ冷戦時のスクランブル発進回数が944回ですから、冷戦当時と変わらないという訳です。
中国機に対する自衛隊スクランブル発進の回数
平成27年に入って、ロシア軍機の回数は減りましたが、これに反して中国軍機の回数がドッと増えました。殲11という戦闘機が中国にありますが、これはロシアのSu 27を改良したものです。これが東シナ海で接近し、日本の哨戒機の機首から30メートルのところをマッハで横切った訳です。車でいいますと、20〜30キロで走行中の車に60〜70キロの車がほんの10センチ、20センチ先を横切るような危険な行為です。この後もう一度、60メートルのところを横切っています。また、米軍の戦闘機に対して、下からガバーッと脅しをかけ―われわれは「被(かぶ)る」と言いますが―ました。これも非常に危ないことです。ひとつ間違えば事故に繋がり、それが発端となって戦争になる…。そういうことを中国は平気でやっています。
私が防衛政務官の時に、中国のフリゲート艦が日本の護衛艦に火器管制レーダーを照射しました。火器管制レーダー照射とは「後はボタンを押すだけでミサイルが飛んでくる」という意味ですから、国際法で言うところの「宣戦布告」に相当します。しかし、自衛隊の諸君は冷静でした。敵艦船を双眼鏡で確かめたところ、大砲があっち(別の方角)を向いていたので、「これは単なる脅しだな」と判断しました。もし、慌てて日本側も対抗してレーダー照射していたら、中国は「正当防衛だ」と主張してミサイルを撃ってきていたかもしれません。自衛隊は、冷静に対処し、そういう口実を中国軍に与えなかったのです。しかし、このままではえらいことになると、われわれは海上連絡メカニズムを通じて連絡を取り合っていましたが、尖閣諸島が国有化されてからそういう話がすべて止まってしまいました。
これは1年程前から課長レベルで再開することになりましたが…。去年の今頃には次官級で話し合いができるかと思っていましたが、なかなか話が進みません。今、ASEANの国防大臣がシンガポールに集まってシャングリラ会談が行われていますが、その時に中国の国防大臣と話をしました。そこで、不測の事態が起きないように、お互いに連絡を取り合う海上連絡メカニズムをあらためて提案しました。これは具体的にどういうことかと申しますと、飛行機、艦船、それぞれ周波数帯を決めます。そしてすぐ話ができるようにするのです。以前と比べてちょっとはマシになりましたが、まだまだといったところです。
▼中国による南シナ海の埋め立てについて
話は戻りますが、実はこの南シナ海の問題が一番頭の痛い話であります。このように、北京から見た地図をご覧いただくと判りやすいと思います。ここがサハリン、北海道、本州…。ここが南シナ海です。ここが日本のシーレーンですから、もし南シナ海の岩礁が埋め立てられ軍事化されると大変なことになります。その場合、日本のタンカーはグルッと回ってボルネオ島とジャワ島の間のほうから行かなければならなくなります。私は同じ地図を、東京と大阪の事務所、そして防衛副大臣室にも貼らせています。軍人も含めて外国の方々が訪れますが、この地図を見て皆さん驚かれます。
逆さ地図
中国の思惑は、第1列島線を突破してここから広大な太平洋に出て行きたい訳です。3年ほど前にオバマ大統領と習近平国家主席が会談をしましたが、その会談の席上で習近平は「広い太平洋は2つの大国を収容できる空間がある。東半分はアメリカ、西半分は中国が管理しましょう」と言ったんです。その時、オバマさんは黙ってたんです。外交の世界で沈黙は「暗黙の了解」と取られますが、われわれからすれば「中国のどこが太平洋に面しているんだ?」となります。これは、私たちがインドへ行って「インド洋の西側半分は日本が管理して、東側半分はインドが管理しましょう」と言うのと同じことです。つまり彼らの野望は、安全保障に留まらず、この太平洋の資源もひっくるめてすべて自国のものにすることです。13億人の民を養うには、陸の資源だけでは食べていけない。海洋資源はまだ未開発ですから、そこも含めて狙っているんです。私はそれが彼らの本音ではないかと思っています。
そうだとすれば、南シナ海に面した国々は全部邪魔になりますよ。ご存知の方も居られると思いますが、彼ら独自の論理である「九段線」に基づいて、彼らはここからここまで(南シナ海の大半の領域)がすべて中国のものだと言うんですからね…。そして、東シナ海のここにあるのが尖閣諸島。先島諸島の一番南西にあるのが与那国島。この島には、この4月から自衛隊を配備し、170名が現地に赴いています。これはだいぶ苦労しましたが、自衛隊配備に空のレーダーサイトも含めて、私が政務官の折にやっと話が付きました。台湾まで110km、北上して尖閣諸島まで170km、石垣からも同様に170〜180kmです。尖閣諸島を民主党政権が国有化してしまってから、先程申し上げたスクランブル発進の回数が増えてきました。
中国による南沙諸島の地形開発状況2
話を戻しますが、そういう状況下で南シナ海の埋め立てが進んでいます。ここは元々「島」ではなく「岩礁」でした。世界中がそう認めています。国際海洋法上の「島」というのは、いくら小さくても満潮時に海面上に顔を出しているもの…。「岩礁」とは、逆に、いくら干潮時に面積が広くても、満潮時には水没してしまう浅瀬のことです。そこをドンドンと埋め立てて、「陸地」化して、施設建設を進める7カ所のうち、4つの岩礁では埋め立てが既に完了しています。南沙諸島、西沙諸島共に、滑走路および軍港を造り、この海域全体の軍事化を進めています。中国はいつも言うことがコロコロ変わりますが、当初は「(埋め立てしても)軍事施設など造らない」と言っていたのが、最近は平気で軍事化を認めるようになってきました。ここには、3,000メートルの滑走路、そして軍艦は潜水艦も停泊できるような施設が造られています。
中国による西沙諸島の地形開発状況
ASEAN諸国にとっても、中国にとっても、南シナ海は「平和の海」でありたい。7、8年前に中国がこの海域の開発を始めた時に関係各国が集まって「ASEANと何事も協議し、中国は勝手なことはしない」と約束したんです。しかし、その言葉とは裏腹に、中国は平気な顔をして埋め立てを進めています。南シナ海だから日本は関係ないということはありません。先程地図をご覧いただきましたが、日本、台湾、韓国にとっては、シーレーンの問題になりますから、どうしても守らなければならない。これらは国際法違反であることは明々白々です。仲裁裁判所がオランダのハーグに設置されて、現在フィリピンがそこへ提訴しており、「中国に不利な判決が出そうだ」ということで、中国も少しビビっています。こういうことをしっかりやっていかないと、中国の暴走は止まらないだろうと思います。
▼東シナ海でも日本の権益を浸食する中国
同様の問題は、東シナ海でも考えられます。資料20ページをご覧ください。東シナ海には「日中中間線」がございます。これは互いにハンコを押してはいませんが、国際法上、真ん中はこの辺りだろうということで、日中両国政府間で「東側は日本のEEZ、西側は中国のEEZ」という暗黙の了解がありました。ところがこの東側に海底油田(原油鉱脈)があり、石油や天然ガスが出ることが判明したのを受けて、中国はこの境界線のすぐ西側に4つのプラットフォーム建設に着手し、原油の採掘を始めました。地下の石油鉱脈には境界線など存在しませんので、どうも日中中間線を越えて日本の地下からも吸い上げているのではないかという話も聞かれますが、去年の段階で、中国側のプラットフォームは16カ所に増えています。
東シナ海における中国の油ガス田開発状況
このことは外務省、防衛省共に発表しています。そのうち4カ所は、どうも石油や天然ガスを掘るための施設ではないのではないかと言われています。これはまだ想像の域を出ませんが、大きなレーダーを置くのではないかと言われています。そうすると、沖縄本島まで丸見え、つまり在日米軍が丸見えになってしまいます。また、レーダー以外は、大きなヘリポートにするのではないかと言われています。そうすると、軍事的に非常に活動しやすくなります。その意味において、日本も中国に対して抗議はしていますが、「EEZ内のことだから関係ない」と、中国はまったく相手にしません。
「日中中間線を含めた東シナ海の石油の開発も日本と共同でやります」というのが、1990年代の話です。実は、中国側が4つもプラットフォームを造ったものですから、実は日本も造らなければいけないのではないかと帝国石油が調査に入ろうとしたところ、邪魔が入り、日本側から見たら採算が合わないという話で立ち消えになりましたが、実際のところそれが本当の理由かどうかは判りません。本当のところは邪魔されて「これはいのちが危ない」と見てそういう話になったのかもしれません。
その結果、中国は16ものプラットフォームを建設し、そのうち12カ所は確実に石油を掘削する施設を造っており、残りの4カ所はその使用目的がはっきりせず、おそらく軍事目的に使われるのではないかと言われています。資料21ページ、22ページに、その実際のプラットフォームの絵図を紹介してあります。
最近のわが国周辺におけるロシア軍の活動
では、ロシアはどうでしょうか。資料の23ページをご覧いただくと、ロシアの軍事予算の推移が書かれています。次の24ページでは、ロシア軍機がどういう動きをしているかが書かれています。結構、爆撃機が来るのですが、何のために爆撃機が来るのかは判りません。もうひとつは、同ページの下の表『ロシア軍艦艇の活動』をご覧ください。2015年度は宗谷海峡にロシア海軍の艦船が53回も来ました。実は、ロシアは昨年、サハリンも含めた北方四島を中心とした、10万人以上の大規模な軍事演習を2回やっています。日本人は「北方領土は日本のものだから返せ」と言っていますが、向こうは返す気はさらさらありません。むしろ、択捉島に2,000メートルの滑走路を造り、軍事化を含めた様々な施設の強化をしています。プーチン大統領と安倍首相が日露首脳会談を行いましたが、そう簡単に返してくれるとはとても思えません。25ページ『北方領土駐留ロシア軍部隊』にもあるように、北方領土にはれっきとしたロシアの軍隊が配備されているという事実があります。これが現在、わが国を取り巻く環境の前提であります。
▼集団的安全保障とは?
では、われわれはいったいどうやって日本を守れるのでしょうか? 実は、自衛隊の原則は「専守防衛」であります。今もその心は変わっておりません。実際に中国が日本へ攻めてきた時に、日本の自衛隊は憲法上の制約によって戦わずに、アメリカ軍が戦うことになっている。ドナルド・トランプ氏ではないけれど、「そんな馬鹿な!」となってしまいます。けれども、現行の日米安保条約ではそう定められています。ある面では、日本にとっては有り難いことでもありますし、虫の良い話でもあります。ですから、トランプ氏の発言を聞いて「アメリカはわれわれアメリカ人が守るのだから、当然、日本は日本人が自力で守れば良い。何故、アメリカ人が日本人のために血を流さなければならないのだ…?」と思うアメリカ人も少なからず居ますが、このような話が出てくるのは仕方がない理由はそこにあります。
左藤章衆議院安全保障委員長の熱弁に耳を傾ける国宗会員諸師
日米安保条約の中でしっかりやっていかなければならないこととして、例えば、中国の軍艦が来て尖閣諸島が襲われたとします。このままでは占領されてしまいますが、その前に戦うのは日本の自衛隊です。そして、それを助けるのがアメリカ軍です。現在のところ、尖閣諸島に関してはそう言っています。もし、中国軍と尖閣諸島で戦うためにアメリカ軍が横須賀にいる第7艦隊を東シナ海に移動させたとします。中国は、日本だけならチョロいけれど、第7艦隊が東シナ海に来てしまうとえらいことになってしまう。そこで、もし中国が移動中の第7艦隊を先制攻撃した場合、日本は黙っていられるのか…? 日本を助けに来てくれた人々が犬死にしても良いのか? 何も助けなくて良いのか? それではアカンでしょう…。アメリカ軍が襲われた際には、日本はアメリカを助け、護衛しなければなりません。そうなると「集団的自衛権」という言葉に引っかかってまいります。日本のためにアメリカ軍やオーストラリア軍が援軍にやって来たら、中国軍が「ここへさらに自衛隊が来たらエラいことになるから、先に自衛隊を潰せ」とばかりに自衛隊へ向かってきた場合、自衛隊はただ口をポカンと開けて殺られるままになっているだけで良いのか…? それは国際法的には通用しないでしょう。そういう時は、共同で防衛しなければなりません。日本はアメリカと同盟国だから、アメリカ軍を助けるのが当然です。
ここからは話が飛躍します…。それでは、自衛隊は、アメリカ軍を助けるためなら、世界中の何処でも行くのか? というと、それは、違います。米軍が日本のために活動している時しか助けません。確かにアメリカと日本は同盟国ですが、例えば中東で戦争しているアメリカから日本に「お前も同盟国なんだから助けに来い」と言われても、「これは日本の安全保障上直接関係ないので行きません」という法律になっています。「日本の存立が危うい時」に武力行使する際の厳しいルールとして「新三要件」というのがここに書かれています。「わが国に対する武力攻撃が発生したこと。または、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」、「これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」、「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」この三要件に載っていることしか、日本は武力行使できません。
では、ここでいう「最小限度の実力行使」とは何かというと、例えば、敵軍が逃げた場合は、とどめを刺すためにこれを追わないということです。何も準備していない状況下において、突然、中国や北朝鮮からミサイルが飛んできてエラいことになったなら、すぐにでも出動しなければなりませんが、そうでない限りは、国会で十分審議していただき、自衛隊を出動させるための事前承認を得ることになっています。では、事前承認を得ずに緊急で出て行かなければならない時はどうするのか…? そういう場合は、後で国会へ報告し、了解を取ることになっています。「集団安保法案が可決された場合、日本が戦争を仕掛けるだろう」と仰る方がおられますが、現実はできないということになります。
▼徴兵制はあり得ない
東本願寺は「戦争法案反対!」と表明しておられます。ウチは東本願寺の末寺(註:左藤家は代々真宗大谷派浄雲寺の住職を世襲している)でございますが、そういう人は是非、法案の中身を読んでほしいと思います。また、国会の周辺へ赴きますと、「戦争反対!」「安倍反対!」という声が聞こえてきますが、戦争をしたい日本人など、誰もいません。戦争をさせないためにどうするか。戦争をしたくなかったが回避できない場合、どうやって最小限の被害で国を守るか。それを、われわれは考えています。そのための抑止力をしっかりと構築しなければなりません。
「自衛隊は違憲だ」という憲法学者が70パーセント以上います。では、自衛隊が国民から理解を得られていないのかというと、災害時の救助などを通じて、92.2パーセントの支持率があります。安倍総理(の支持率)より自衛隊のほうがよほど信頼されています(会場笑い)。われわれは自衛隊の隊員諸君のいのちも、自衛隊員の家族の生活も守らなければなりません。ですから、むやみやたらに何処へでも出かけて、行け行けドンドンで犬死にでは困る訳です。また、「集団的自衛権は憲法違反だ」という声もあります。「砂川裁判」(註:1957年に起こった基地反対運動家が米軍基地内に侵入したことに端を発し、『日米地位』協定や『日米安保条約』そのものの是非について争われた裁判で、1959年の最高裁判決で主権国家の持つ固有の自衛権が承認された)では確かに、「集団的自衛権は合憲だ」とは書いていません。この時の最高裁の判決では、「国を守る自衛権はあります」としか書かれていません。
しかし、国連憲章51条には何と書かれているか? 「もし、自分の国が攻撃された場合には、自力で頑張りなさい。もしそれが不可能と思われた場合は、国連軍が来るまでは同盟国と頑張ってください」と書かれています。しかし、現実問題として北朝鮮への制裁決議を見ても判るように、安保理の5つの常任理事国の意見が一致することはなかなかありません。ただ、そこでハッキリしているのは、個別も集団も関係なく自衛権というものは国連憲章として認められています。われわれは国連に加盟していますが、法律の世界では、国内法より国際法が優先されます。国家間で条約を締結し、それに従う国内の法律が整備されていない場合は、批准するまでの間に一生懸命国内法を改正するんです。それだけ国際法というものは信頼をもってやっていかないと、国際秩序が成り立たない。ですので、国連憲章に則って、第51条に書かれている集団的自衛権は認められるという解釈をしています。
もちろん、警察も消防も軍隊もない国が一番幸せです。世界中で全く軍隊がない国は1カ所だけありますが、それは、人口が2、3万人しか住んでいない小さな島国で、何かあった場合はアメリカ軍が助けることになっています。争わず、お互いが信頼し合って生きていく世界が一番理想であります。日本の宗教界は教派や宗派同士が喧嘩することはありませんが、イスラムでは内部で殺し合いまで発展してしまう歴史的な問題がまだまだ山積しています。宗教は本来は皆の幸せを願うものですから、われわれも肝に銘じながら安全保障法制をしっかりやっていきたいと思います。また、最近、若いお母さん方が国会議事堂前で、「子供を戦場へ行かせない。徴兵制反対!」と言っていますが、心配しなくても徴兵制は憲法違反ですからできません。職業選択の自由がありますから、自衛隊に入りたくない人は入らなくて良いことになっています。
また、軍事的に申し上げますと、徴兵制を採用している国の兵役期間はだいたい2年ですが、今の戦争は科学技術を駆使したハイテク兵器の時代ですから、2年程度の訓練ではいざという時ほとんど役に立ちません。少なくとも5年以上はしっかり訓練をしないと、そんな兵隊がいざ戦場に出てきても犬死にするだけで邪魔になります。ですから、徴兵制はまず憲法上できないというのが1点目。軍事的にもあまり意味がないの2点目。ですので、現在、先進国において徴兵制を実施している国はほとんどありません。それだけ現在の戦争は科学的な兵器が増え、近代化しているということです。ですので、たとえ憲法改正をしたとしても、自民党が徴兵制を採用することはないとはっきり申し上げることができます。時間になりましたので、後ほど質問でも頂ければと思います。
(連載おわり 文責編集部)