国際宗教同志会平成28年度第3回例会 記念講演
『クールジャパンとしての日本文化の発信』

関西学院大学先端社会研究所 所長
(公財)山階鳥類研究所 理事・副所長
奥野卓司

2017年2月7日、金光教泉尾教会の神徳館国際会議場において、国際宗教同志会(西田多戈止会長)の平成29年度第1回例会が、各宗派教団から約50名が参加して開催された。記念講演では、関西学院大学先端社会研究所所長、(公財)山階鳥類研究所理事・副所長の奥野卓司教授を招き、『クールジャパンとしての日本文化の発信』と題する講演と質疑応答を行った。本サイトでは、この内容を数回に分けて紹介する


奥野教授生
奥野卓司先生

▼ピコ太郎とトランプ大統領

ただ今ご紹介いただきました、関西学院大学の奥野です。本日は、お寒い中をたくさんお集まりいただき、また、国際宗教同志会70周年の記念すべき年の第1回目の会合でお話をさせていただけるということで、大変有り難く思っております。ただ、私は先ほどご紹介いただきました公益財団法人山階鳥類研究所で副所長を務めておりますが、4月からは所長ということで、現在はむしろ、長年奉職しておりました関西学院大学よりも、そちらでの活動に重点がかかっております。

この山階鳥類研究所は元皇族の故山階芳麿博士が設立した研究所ですが、現在は秋篠宮殿下が総裁を務めておられます。皆さん、本日のお題である「アニメや漫画と全然関係ないじゃないか」と思われるかもしれませんが、例えば手塚治虫の『火の鳥』をはじめとしてアニメにも様々な形で鳥は取り上げられています。また、先ほどもちょっとお話しさせていただきましたが、こういうところへ参りますと、少し改まった部屋になりますと「松に鶴」といった立派な絵画や襖絵が飾られていますね。そういうことにつきましても、むしろいろいろとお話をさせていただきたく思っていました。

山階鳥類研究所は、約7万点の標本を持っていますが、これはヨーロッパの伝統ある本格的な研究所に匹敵する規模で、アジアでは最大の鳥類研究所であると同時に、日本の鳥類研究所の特徴は、生物学の研究所に止まらず、もともと江戸時代からの文書や絵図、さらには宮内庁が持っております伊藤若冲をはじめとする鳥に関する芸術作品も預からせていただいていますので、文化系、あるいは博物館的な意味合いも持っています。ですので、鳥と日本人や日本文化はどういう風に関係があるのか…? 古事記でも天岩戸が鶏の声で開きましたように、非常に密接な関連を持ってきた訳です。今日はそういった話をさせていただきたいと三宅善信先生にお願いしたのですが、「今日はクールジャパンの話をお願いします」と言われました(会場笑い)。という訳で、本当は鳥も関連があるのですが、今日はクールジャパンについてお話しさせていただきたいと思います。

クールジャパンとしての日本文化の発信

今、その背景としまして日本文化が世界で注目されているということですが、最近の例を挙げますと、ピコ太郎さんも決して最初からマスコミに出てきた訳ではありません。ユーチューブという動画配信サイトで『PPAP』という妙竹林な彼の歌と踊りが配信されたのですが、ユーチューブには国境がなくインターネットを通じて世界中の人が見ることができますから、海外の有名人が見て「これは凄いな」と書き込みます。それを受けて今度はその有名人の日本のファンが書き込み、ブームに火が点き、最終的には日本のマスコミが報じていく…。先ほどのご挨拶で、ツイッターでバンバン発信するトランプ大統領の話がありましたが、トランプさんに限らず、数年前の「アラブの春」にも見られたように、SNSを通じた個人の情報発信が、世界の政治や文化を揺るがしていくことが当たり前になっています。日本においてもさまざまな無名の人々が日々発信しており、そのひとつがピコ太郎さんのような形で展開しているということであります。


▼エヴァンゲリオン以降

次に、昨年大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』ですが、これも実は、『君の名は。』を製作した新海誠という監督は、もともとプロの映画監督ではなく、彼の初期の作品は、ユーチューブあるいはニコニコ動画というネット媒体から出てきたクリエイターです。その意味では、アマチュアなんですね。ですので、映画『君の名は。』は、商業作品として作られた彼の最初の作品なのですが、ユーチューブやニコニコ動画時代の新海誠作品は一般のマスコミにはまったく取り上げられていなかったにもかかわらず、映画になった途端に大ヒットしました。しかし、それは配給会社がこの映画を大々的に宣伝したからではなく、映画を見た人たちによってインターネットのフェイスブックなどで盛んにコメントが書かれることによって広がっていきました。それが中国へも伝わり、日中関係がこれだけ悪い中でも「良いものは良い」ということで、中国の若者層の間でも広がり、日本映画としては過去最大の観客数を動員しているという現実があります。昨日入りましたニュースによると、『君の名は。』は惜しくもアカデミー賞には選ばれませんでしたが、ノミネートはされましたし、さらにスタジオジブリが製作した作品が選ばれています。

同様の例で、こちらはアニメではなく実写版の『シン・ゴジラ』という怪獣映画がございました。東宝のゴジラシリーズの最新作でありますが、もう何回目の最後のゴジラが創られたか判りませんが、新たに『シン・ゴジラ』が作られました。この「シン」にはそれなりに意味があります。この映画を作られた庵野秀明さんという方は、もともと映画監督ではなく、アニメの監督です。若い方たちはよくご存知ですが、『新世紀エヴァンゲリオン』の作者です。われわれはよく「エヴァ(ンゲリオン)以降」という表現を使いますが、エヴァンゲリオンとコラボした新幹線も実在するくらいですからね…。このアニメの監督が『シン・ゴジラ』を作った。今まではアニメ作品を実写化するとか、実写化したものをアニメ化することはありましたが、今回はアニメの監督が実写を撮られた…。SF的なものを撮るんだったら、むしろそういう人たちのほうが解ります。しかも、エヴァンゲリオンの世界観を知っている人たちには、その意味がよく解るんです。

『エヴァンゲリオン』はそれまでのアニメと何が違うのか? 何故、「エヴァ以降」と言うのか? それまでは『鉄腕アトム』以後、半世紀にわたって作り続けられたアニメは全て、「なんとか地球を守ろう」、「人類を守ろう」というのが主たるテーマでしたが、『エヴァンゲリオン』では既に地球は終わっています。ジブリ作品(註:『風の谷のナウシカ』)にもございますが、それ以降の作品ではいったん世界は滅亡している…。その後に続く社会とは、いったい何なんだろうか…。そこから現代を振り返る訳です。合衆国大統領に就任したトランプさんが人類滅亡までのカウントダウン時計をかなり進めてしまいましたが、しかし私たちはまだこうして生きています。そんな今日を『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように振り返るとどうなのか、ということを私たちに考えさせてくれる監督さんです。庵野監督は、「では、東日本大震災による原発事故を経験した日本でゴジラを今、設定したならば、日本はどうなるのか」ということを伝えたために、大ヒットへと繋がりました。

ゴジラシリーズは代々私も子供の頃から見てきましたが、今までの実写のゴジラを見てきた方々、つまり、われわれの世代は、当然、新作のゴジラ映画を見に行きます。われわれだけでなく、「ゴジラなんてもう古いぜ」と思っていた若い世代の人たちも庵野作品だということで映画館へ足を運びました。昔、円谷さんが作った着ぐるみの怪獣がミニチュアの街をブッ壊すウルトラマン的なものは、今のSFX(特撮)の段階から振り返れば、もの凄く古い訳です。スピルバーグ以降のアメリカのSFXの流れは、圧倒的に変わっています。ところが、そうしたものを見て育ってきた人たちも同じように『シン・ゴジラ』を見に来る。つまり、新旧世代が揃って「日本というものが他の所から脅威を受けた時にどうなるのか?」ということを考えさせるきっかけになったということであります。


(連載つづく 文責編集部)