国際宗教同志会平成29年度第3回例会 記念講演
『AI、ロボット、IoTの過去・現在・未来と私たちの暮らし』

お茶の水女子大学・奈良女子大学連携教授
才脇直樹

2017年10月6日、金光教泉尾教会の神徳館国際会議場において、国際宗教同志会(芳村正梔長)の平成29年度第3回例会が、各宗派教団から約50名が参加して開催された。記念講演では、お茶の水女子大学・奈良女子大学連携教授の才脇直樹氏を招き、『AI、ロボット、IoTの過去・現在・未来と私たちの暮らし』と題する講演と質疑応答を行った。本サイトでは、この内容を数回に分けて紹介する


才脇直樹先生
才脇直樹先生

▼神職にして科学者

ただ今、ご紹介に与(あずか)りました才脇直樹と申します。本日は宗教界の諸先輩方、友人の先生方がたくさん居られるような場で、私のような若手の人間がお話しさせていただくのは非常に恐縮でございますが、専門分野ということでお許しいただければと思います。まず、本日頂戴した講題『AI、ロボット、IoTの過去・現在・未来と私たちの暮らし』についてですけれども、人工知能(AI)などは今、世間を騒がしているテーマで「最先端」と言われていますが、その開発の真っただ中で仕事をしておりますと、最先端と申しましても、古い部分、見えてない部分、あるいは問題を孕んでいる部分など、いろいろございます。そういったところで、技術の実情もできるだけ解りやすくお話しさせていただきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

私は国立大学でこういう情報系の研究をしておりますけれども、実は、私は神職の資格も持っております。本日会場にいらっしゃる懸野先生の野宮神社様がお祭をされる時に助勤に上がらせていただいたこともございますし、地元の茨木で神社のお手伝いをさせていただくこともございます。懸野先生は奥様が奈良女子大学のご出身でいらっしゃいまして、先々代の学長先生の下で研究室を卒業されたということで、いろいろ思いあたるところがお互いにございます。また、三宅善信先生にも長く懇意にしていただきましたことが、今日こういう場に繋がっていると思います。という訳で、現在は私自身、仕事として全面的に宗教に関わっている訳ではございませんが、宗教家の皆様方の末弟に当たる、そういう志を持っている人間だということも、予めご了解いただけたらと思います。

先ほど私の経歴について、いろいろご紹介いただきました。細かい文字で見にくくて申し訳ありませんが、大阪大学の大学院基礎工学研究科で学んだ後、ロンドン大学、スタンフォード大学を経まして、奈良女子大学で教授をさせていただいております。今年から学長補佐の仕事にも取り組んでおりまして、自分の研究だけではなく、今後大学をどのように運営していくのかといったことも、文科省といろいろ協議を重ねているところです。そういったところで、実は、大学院生に宗教家の方々との対話も必要ではないかという話も上がっております。これについても最後に触れさせていただこうと思っております。

経歴の末尾に平成22年度および平成26年度に日本学術振興会から科学研究助成事業(科研費)の優秀審査員表彰等を受賞したと書かせていただいていますが、こうやって自己宣伝するのはちょっと格好悪いなと思いましたが、大学の教授はこういうのが実績だということになっております。実は、これに関連して今日はさらに嬉しいことがありました。本日泉尾教会様に到着し、そろそろ会場に向かおうとしていた時に、突然大学から電話があったのですが、その内容が「今年度も受賞が決まった」ということで、思いがけず三度目の受賞となりました。大学が調査した中では、過去にこの賞を3回受賞した人は居らず、初めてのことだと言われております。いろんなご縁があり、本日この場でこのことを発表させていただけることを本当に嬉しく思っております。


▼ヒューマン・インタフェースとは何か

最初の在外研究はロンドン大学だったのですが、「その脳認知発達研究所で何をしていたのか?」とよく聞かれます。本日は切り口として、この辺りから入らせていただきます。脳認知発達研究所を英語で表記しますと「The Centre for Brain and Cognitive Development」となり、正式な略称は頭文字を取った「CBCD」なのですが、一般にはこの呼びにくい名前ではなく「ベビー・ラボ(赤ちゃん研究所)」と呼ばれています。この写真の頭にいっぱい電極を付けた赤ちゃんはいったい何をしているところかといいますと、西洋人の女性の顔とお猿さんの顔を見せて、果たして見分けられるのか。西洋人の女性の顔を「自分の仲間」と思うか、それとも「これは猿だから自分の仲間ではない」と思うのか、そういうことを調べている研究所に招聘(しょうへい)されて行ってまいりました。

国宗才脇直樹講演

当時は大阪大学で講師をしていた若手の頃でしたが、何故私のような情報工学系の人間が、脳科学あるいは心理学の研究分野に呼ばれたかと申しますと、このロンドン大学の研究所長さんが、世界で初めて「人間は生まれた時から目が見えている」ことを発見された方だったんです。それ以前は、お母さんのお腹の中は真っ暗ですから「視覚があって目が見えていても意味がない。だから、生まれた時は目が見えていないはずだ」という先入観が、当たり前のように語られていました。ところが、この先生は自分の子供が生まれたばかりの時に、自分の顔を見てくれたような気がするという、ちょっとした気付きをきっかけに、「できれば、それが本当なのかどうかを確かめたい」ということで、人間の顔ぐらいのしゃもじを作り、目と口にあたる部分に黒い点を3つ書いて、まれたばかりの赤ちゃんを捜し求めて、ロンドン市内のあちこちの病院を回られたそうです。予めお医者さんとお母さんから許可はもらっている訳ですが、生まれたばかりの赤ちゃんの眼前でそのしゃもじを動かしてみたところ、確かに赤ちゃんは目で追っている…。ということは、生まれたばかりの子でも目が見えるDNAを持って生まれてきているということが初めて明らかになりました。

では、何故生まれたばかりの赤ちゃんが人間の顔を目で追うのかというと、それはおそらくお母さんに愛情を訴えているのだろうという話でした。生まれたばかりの子どもは、誰かの助けなしには絶対生きていくことはできません。だから、生まれた瞬間からお母さんに愛想をして、自分を保護してくれるように一生懸命愛情を求めている訳です。人間は生まれた時からそういうコミュニケーションをするための機能を備えているという話でした。しかしその先生はその発見に留まらず、もっと詳しく調べていきたいという思いがあったようです。

子どもは生まれた直後から顔を目で追うことは判りましたが、では、自分のお母さんの顔とお猿さんの顔の見分けはつくのか? しゃもじに3つの点を描くだけでも目で追ったのですから、目鼻立ちだけでいえば、母親とサルはどちらも同じ特徴を備えています。われわれからすれば全く異なるものだと思うかもしれませんが、そういうことは学習していかなければ判らないことです。ということで、西洋人の女性の顔の画像を百人分ぐらい赤ちゃんに見せ、その合間にお猿さんの顔を混ぜて見せました。西洋人の女性の顔と、お猿さんの顔を見た時の赤ちゃんの目の動きや脳波の動きに違いがあるかを調べるには、コンピュータを使わなければ映像を連続的に見せることができませんし、見ている時の頭の機能の分析もできません。そこで、コンピュータを使って実験するためのシステムを構築し分析をすることが、私に与えられた課題でした。

最新の技術について解りやすく講演する才脇直樹教授
最新の技術について解りやすく講演する才脇直樹教授

「情報技術」といいますと、ロボットやAI、IoTといった、何か人間とは違う、われわれとは関係ないところで動くシステムのようなもの、無機質なもののイメージがありますが、情報技術は、このように人間の脳の機能を調べたりする時にも使えるのです。つまり、使い方次第でいかようにも使えるものだということです。私自身の専門は脳科学ではなくヒューマン・インタフェースですが、そう言うと学生さんからも「ヒューマン・インタフェースとは、いったい何ですか?」と、よく質問されます。そういう時は一番解りやすい例としてスマートフォンを例に挙げますが、そう言うと大抵の方はお判りいただけるようです。

もともと携帯電話の機能にタッチパネルなどは含まれていませんでしたが、インターネットなどさまざまな機能が使えるようになってきますと、誰もが使えるようなハードウェア(機械)を作らないと駄目だということで、人間がどのように機械と接するのかを調べる研究が進んでいます。例えば、スマートフォン―あるいは、普通の携帯電話でも良いのですが―ですと、「あそこのスマホは使いにくい」とか「このメーカーのものが使いやすいから、ずっと同じメーカーのものを利用している」といった会話をよく耳にされると思います。また、家にあるビデオレコーダーやテレビなども、リモコンのスイッチがたくさんあるけれど、ほとんど使ったことがないという方も少なからず居られると思います。そういうのは、あまり良いインタフェースとは言えません。

インタフェースとは、すなわち「境界面(人間と機械を繋ぐもの)」という意味ですが、誰もが使いやすいものにするためには、まず人間のことを知らなければ良い機械設計はできません。ということで、機械を作ることとは別に、人間がどうやって装置を使いたいのか? 人間は何に興味を持っているのか? そういったこともちゃんと見当を付けておかないと、良いシステムは作れません。それは、ここに挙げたAIもIoTも同じことです。皆が使いたいと思わないもの、あるいは使えないものは、いくらあっても結局役に立たない訳です。そういう部分を研究してゆくのがインタフェースです。
この写真はスタンフォード大学ですが、昔のスペイン風コロニアル建築と言われる、いわゆる植民地でよく建てられた形式の建物です。非常に雰囲気があり、地理的にもアメリカ西海岸ですから、ほとんど雨も降らず、気候の良い所でした。私は音楽音響研究所に所属していたのですが、さすがに作曲するところまではやっていません。そこで私がやっていたことは、音や音楽を聴かせた時に脳がどのように働いているのか。そういったことをロンドン大学の時と同様に研究させていただきました。


▼リケ女の養成機関として

帰国後は奈良女子大で仕事をさせていただいておりますけれども、平成28年度、東京のお茶の水女子大と奈良女子大の共同運営による大学院講座として「生活工学共同専攻」を新たに立ち上げることになりました。昨年に設置されたばかりなんですが、お茶の水女子大と奈良女子大は、いずれも2つしかない国立の女子大学で、大学が設立された当時は、女性は帝国大学に行けなかったため、帝国大学と対になる女性が入れる大学として、東京には明治天皇のお后(きさき)である昭憲皇后様がお声がけなさって、東京女子高等師範学校(現 お茶の水女子大学)が設立され、関西では奈良に大正天皇のお后である貞明皇后様がお声がけなさって、奈良女子高等師範学校(現 奈良女子大学)が設立されました。ですので、それぞれの学校の校歌は、お2人の皇后から下賜された和歌が元になっています。戦前、この学校を首席で卒業する学生は、首席卒業の証を授与される際にチラッと真筆の和歌を拝見できることが最上の名誉だったそうです。お茶の水女子大学は、新たに理系女性を教育していくための高等教育プログラムに国から助成金を貰っておられますけれども、そのプロジェクトの名前である「みがかずば」は、「もっと人間の能力を磨きなさい、人格を磨きなさい」という、昭憲皇后様の和歌の最初の部分です。

優秀な男性が学ぶ帝国大学をはじめとする総合大学に実学を譲りなさいということで、女子大学は「男性が実学を担当しているから、それを家庭で支える良妻賢母を養成するための学校」という位置付けで設立されたため、経済学部、法学部、工学部、薬学部といったような実学がすべてありませんでした。そして、理学部、文学部、家政学部の三つを主として設立されました。それでも設立された当時は、高等教育が受けられるということで、全国各地から優秀な女性がたくさん来てくださったのですが、さすがに現代となると、実学がないと大学運営が難しくなってまいります。そして、理系女性をもっと養成して、女性の視点でものづくりをしたり研究をしていこうとなると、やはり実学をなんとかしなければならないということで、旧家政学部を生活環境学部に改め、工学系、理学系の研究を進めることになりました。さらに、女子大で初めて法学系の修士・博士を出せるように、大学院として共同専攻を設立したという経緯です。「伝統的な古都奈良と、時代の先端のをいく東京から、未来の暮らしを見てみよう、創っていこう」ということで、過去、現在そして未来について女子大で考えていこうと考えています。本日は、そういう所で取り組んでいる新しい技術ということで『AI、ロボット、IoTの過去・現在・未来と私たちの暮らし』という講題を付けさせていただきました。

実は私の研究室では、AI、ロボット、IoTだけでなく、この「五感インタフェース」という、触り心地を発生させたり、分析したりするようなこともやっています。例えば、インターネットでタオルや服を購入した時、「実際に手元に届いてみたものを見ると、画面で見た時と比べて質が悪く残念だった」という声をよく耳にします。なんとか、見た時に品質を判断する方法がないか。画面にタッチした時に触れたら良いのにという話も聞きます。それから、これは後ほどお話ししますが、アンドロイド(人型ロボット)を作っていたりもします。その他、ロンドン大学以来脳計測もやっておりますし、これはちょっと判りにくいかもしれませんが、身体に装着できるウェアラブル、IoT、スマートテキスタイルといったものもやっております。こういったさまざまな研究をしていますが、AIやIoTといったものは、こういった研究の背後に存在していて、いずれの研究とも関連があり、裏で仕切っているような技術になるかと思います。


(連載つづく 文責編集部)